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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王に敗れた勇者は、聖女に生まれ変わり使命を果たす

作者: 鶴沢仁

 俺の名はアルス。かつては、光の勇者と呼ばれていた男だ。


 俺には頼りになる仲間達がいた。

 聖女ラミアと、戦士ダンス。


 二人共、冒険初期から一緒だった頼もしい仲間達だ。

 魔王を倒すという偉業を達成するために、力を付け、時にピンチに陥りながらも、俺達は乗り切ってきた。


 激闘の日々の中で、俺とラミアは恋仲となった。

 元々、お互いに惹かれ合っていたのかも知れない。


 ダンスは俺達を祝福し、ラミアとは魔王を倒したら結婚する約束をした。


「ねぇ、アルス……この戦いが終わったら、静かな場所で一緒に暮らしましょ?」

「ああ、そうだな。魔王を倒したら、そんな生活をするのも悪くない」

「ふふっ、必ず倒せるわよ。私達なら」


 笑顔を向けてくるラミアと口付けを交わし、俺は幸せな未来に思いを馳せる。

 そして幾たびの戦いを乗り越えて、遂に魔王の元へとたどり着いた。





 だが――――





「わ、私の身体はアルスだけのモノなの……! だから、や、やめ――いやぁぁぁぁぁッ‼」


 俺達は――敗北した。

 魔王の圧倒的な力に、まるで歯が立たなかったのだ。


 親友のダンスは、身体を真っ二つに切断され、一瞬で絶命した。

 俺は、両手を吹き飛ばされ……虫の息の状態となっている。


 そして、俺の恋人――聖女ラミアは……魔王から穢されていた。

 泣き叫び、俺の名前を呼び続けている彼女を助ける事も出来ず……ただ、この地獄の様な光景を見ている事しか出来なかった。


 好きな女を穢されているにも関わらず、何も出来ない無力感。

 こんな奴の、何が勇者だというのだ?


 光の勇者だの、英雄だの持て囃されて、俺は最悪の可能性を忘れていたのだ。

 その結果が、このざまだ。


「クックック、勇者よ。お前の絶望が伝わってくるぞ? 好きな女を奪われた気分はどうだ? だが、本当の絶望はこれからだ」

「ま、おう……」

「魔素を身体に入れられた聖女は、既に心も我がモノとなった。なあ? 愛しのラミアよ」


 霞んでいく意識の中で、俺は魔王から穢されたばかりのラミアに視線を移した。


 そして、最後に俺が見たのは。


「そうですぅ、ラミアは魔王様の女として生まれ変わりましたぁ! くだらない勇者(ゴミ)なんかもうどうでもいいのぉ‼ これからは、魔王様だけを愛することを誓います♡」


 見たこともない様な恍惚な表情で、魔王の唇を貪っている……情婦と化した哀れな彼女の姿だった。勝ち誇ったような顔を見せた魔王は、そのまま彼女の身体に再び手を伸ばし――


 ……結局、大事なモノを何一つ守る事も出来ず、世界を救うことも敵わないまま、俺は死んだ。


 ラミア、ダンス……すまない。





 ***





 ――勇者アルスよ。魔王に敗れた貴方に再びチャンスを与えます。


 死んだ俺の意識に、そんな声が響いてきた。

 その声は、生きている間にも時々夢に出てきた女神のモノであった。


「チャンスだと?」


 ――貴方を再び勇者として生まれ変わらせます。次こそ魔王を倒すのです。


 その言葉は、俺にとっては死刑宣告に等しい物であった。

 手も足も出なかったあんな化け物と、もう一度相対しろと言うのか?


「魔王の力を見ただろう? あんな化け物に、俺みたいな人間が敵うはずがない!」


 ――では、諦めるというのですか? 人類を見捨てると?


 その言葉に一瞬カチンと来たが、生前にはあったはずの勇気がすっかりと消えてしまったのか、怒る気力すら湧かなくなっていた。


 親友と恋人を奪われたにもかかわらず、俺の中にあったのは諦めだった。圧倒的な魔王の力。どれだけ研鑽を積もうと、アレに敵う人間などいるはずがない。


 分かり易く言えば、俺は奴の力に怯え、負け犬と化していたのだ。


 恋人をあのような方法で奪われたにも関わらず。

 親友を無残なやり方で殺されたにも関わらず。


 俺、は。


「もう、疲れたんだ……あんな化け物と、戦いたくない」


 ――なんと情けない。光の勇者と呼ばれた者の末路が、これとは。


 女神の失望の声が響いたが、俺の本心は変わらない。

 もう、死なせてくれ。例え生まれ変わったところで、あんな奴に勝てるはずがないんだ。


 ――わかりました。確かに今の貴方は勇者に相応しくありません。


 俺を見限ったように、冷たい声を響かせて女神の声は消えていった。

 それと同時に、俺の意識も沈んでいく。


 ああ、どうやら本当に死ぬ時間が来たみたいだ。

 情けない俺が出来る事は、あの世でダンスに詫びる事くらいだろう。


 ダンス、俺も今行くからな。

 ラミア……魔王によって、身体も心も穢された君に、何も出来なかった俺を許してくれ。


 こうして俺の意識は、完全に消えて――





 ***





「いよいよ、勇者様とのご対面ですな!」

「これで、魔王討伐の新たな伝説は成し遂げられるわけです」


 あれから、どれほどの時が経ったのか。

 俺の傍に居る2人の神官達は、新しい勇者との会合に心躍ってる様子だ。



 結論から言えば、俺はまた転生していた。

 俺が魔王から殺されてから、100年後の世界に。


 光の勇者である俺が死んでから――世界は闇の時代へと突入したらしい。

 大きな大陸であったこの国も、今では半分が闇に飲まれ、魔の領域などと呼ばれている。


 そんな中で、俺は再び生まれる。

 確かに、勇者としてではなかった。


 ある程度の歳までは普通の暮らしが出来たし、光の勇者であった頃の意識こそそのままであったが、俺はそれを表に出すつもりもなかった。


 普通に生きて、普通に死ぬ。

 その尊さを分かっていたからこそ、俺はなによりも今の人生を楽しもうとした。




 だが――そんな中で、誤算があったとすれば。




「大丈夫でしょう、勇者様と聖女様が居れば、必ず魔王を倒す事が出来ます」

「全くですな! そうは思いませぬか? 聖女アルマさま」


 性別が女と変わっていて――更に、俺が今代の聖女だったという事だッ!


「ええ、そうですね……きっと、そうなると信じたいです」


 俺に話を振ってきた神官の1人に適当に相槌を打つ。

 馬鹿が……魔王の力を知らないからそんな呑気な事が言えるのだ。


 女神め。一体何の嫌がらせだというのだ。

 勇者は嫌だから、聖女にしたとでもいうのだろうか。


 内心でイライラしながらも、今後の未来を考えてしまった時、頭に浮かんだのは敗北し穢された姿のラミアだった。


 俺も――負けたら、あんな目に合うのか?

 身体も、心も弄ばれ……堕ちてしまうのか?


 嫌だ、嫌だ、いやだッ!!

 魔王となんか、対峙したくない。


 何故だ、何故俺なんだ? 俺には……魔王と戦う程の力も、勇気もないというのに。このような情けない俺と一緒に旅立つことになる勇者にも悪い。


 なにより、死よりもツラい結末が待っていると知りながら、言う事を聞く気などない。俺がこうして王城まで出向き、勇者と会う事にした理由は1つ。


 勇者に辛辣(しんらつ)な態度を取り、嫌われるためだ。

 聖女の適正に相応しくないような態度を取れば、王も考えを変える事だろう。


 あまり人に対して、悪口など言いたくはないのだが……許せ。

 これは、勇者を救う事でもあるんだ。


 わざわざ、あんな化け物に立ち向かい、若い命を散らせることもないだろう?

 王の間へと着くまでの間、俺はどうやって嫌われるか考えた。


 勇者と言えば、過去の俺みたいな勇敢で誠実な青年だろうからな……どう断ったらいいものか。





 ***





「よろぴく~君が聖女ちゃん? うっわ、ゲロマブ‼ 可愛すぎっしょ!」

「…………」


 なんだ、こいつは?

 王が言っていた勇者とは、こんな奴だったのか?


「王様ぁ! この、かわゆい子ちゃんの名前なんて言うん?」

「あ、ああ……彼女の名は、聖女アルマだ」

「アルマちゃん!? うっひょー名前まで可愛いね‼ ねぇねぇ、今まで付き合った男性って何人? 今彼氏いる? ちな、オレは彼女いないよぉ」


 ダメだ、普通の勇者ならば少しは期待できたかもしれないが……こいつは明らかに()()()だ。魔王どころか、その辺で野垂れ死ぬ未来しかない。


「ねぇねぇ、アルマちゃん‼ 何か喋ってよ! ちょーさびしぃよ」


 何だろうか、このチャラ付いた態度は。

 俺が勇者だった頃は、堅実そのものだったぞ? これだから、今時の若者は困るんだ。しかもなんだその赤と青と金髪が混ざった意味不明な髪の色は? 勇者なら金髪のままでいろ。


「……お言葉ですが陛下。このような人を、わたしは勇者様とは認められません」


 だがまあ、丁度いい。

 本来ならば俺が悪役となって魔王討伐の旅を断る予定だったが、奴ならその必要もないだろう。


「せ、聖女アルマよ……気持ちは分かるが、魔王討伐は世界の命運をだな……」

「はい、その事は重々承知です。ですが、私も確実に死ぬ事が分かっている旅に付き合いたくはありませんので」


 チラリと、隣にいるチャラい勇者へと目を移しながら王へそう言うと、言葉を詰まらせたような態度を取る。


 王も分かっているんだろう。こんな男では魔王は倒せないと。

 光の勇者である俺ですら、奴には歯が立たなかったんだ……こんなふざけた奴に倒せるはずがない。


「アルマちゃん、見た目ちょー清楚で優しそうなのに案外キッツいねぇ! そのギャップがたまんねぇわ」

「……勇者様、もう少し態度を改めた方がよろしいかと思います。目の前には陛下もおられるのですよ?」

「あ、オレっちの名前はニックっていいまーす! 気軽に呼び捨てにしてね、アルマちゃん!!」

「しません……‼ というか、馴れ馴れしく名前で呼ばないで下さい」

「えええぇぇ! じゃあ聖女ちゃんの方がいいの? ねぇねぇ聖女ちゃああん!」


 やばい、キレそうだ。

 俺は、こういう不真面目な男が大嫌いなんだ。


 男たるもの、常に誠実であれ。

 こういう風に生きてきた俺にとって、こいつのような生き方は理解できない。


「ハッキリ申し上げます」


 だからこそ、言ってやる。

 かつて光の勇者であった俺だからこそ、この言葉が言える。


「貴方に――勇者の資格などありません」


 そう言うと、ニックは下を向き黙り込んだ。

 少し言い過ぎたか? チャラ付いているとはいえ、別に何か悪いことをされたわけでもなかったからな。言い方を考えるべきだったかもしれない。


「……あの」


 言い過ぎたと、俺が謝ろうとした瞬間――いきなり凄まじい衝撃で天井に穴が開き、そこから黒い魔物が俺達の目の前へと降臨した。


『ユウシャトセイジョ――ミツケタァ』


 おぞましい声色で黒い魔物がそう呟くと、黒の衝撃波が部屋全体を襲う。


 俺は、こいつに見覚えがあった。

 黒の魔物――こいつの名は、破壊者(デストロイヤー)


 魔王城で俺達3人が苦戦しながらも何とか倒した……上級悪魔だ。

 魔王城にいるような、凶悪な魔物がなぜ王城に?


「お、お前達! 勇者と聖女を護るのだ!」


 王の命令で、近衛兵たちが一斉に破壊者へと襲い掛かったが、喜悦の声を上げた奴が腕を無造作に振るっただけで、全員の身体が消し飛んでいった。


 重厚な鎧は何の意味もなく、粉々に砕けた鎧と、中身の臓物が部屋中に散らばる。


「ひっ! ひぃいいいい」


 俺の連れていた神官2人はその光景に怯え、腰を抜かす。

 王の警護も僅かばかりとなっていたが、幸いというべきか……魔物の狙いは俺と勇者の2人だけのようだった。


「……」


 まさか、な。こんなにも早く死ぬ羽目になるとは。

 だが、当然の報いかもしれないな。


 世界を見捨て、友と恋人の仇も取らずに、平凡な人生を送ろうなどと……虫が良すぎた。ならば、俺のとる行動は一つだけだ。


「……わたしが時間を稼ぐので、今の内に逃げてください」


 勇者の使命はただひとつ、民を悪意から護り、正義を貫き通すこと。

 ニックの前へと俺は立ち、盾となる。


 こいつに勇者の素質はない。

 ならば勇者なんてやめて、チャラチャラと楽しく人生を生きるべきだ。


 勇者として犠牲になる必要など、どこにもない。

 そんなものは、俺だけで十分だ。


「はやく、逃げてください。わたし、見た目通りに脆いので……」

「…………」


 声は、震えていないだろうか。

 俺は、ちゃんと……勇気のある行動を取れているか?


『マズハ、セイジョ――!!』


 雄たけびを上げた、破壊者の攻撃が迫ってきた。


 ああ、怖いな。

 だけど……誰かを護って死ねるならば、2人にも顔向け出来るかも知れない。


 頼む、早く逃げてくれ。

 これ以上、無残に人が死ぬのは見たくもない。


 両手を広げ、目を瞑り、俺は痛みに備えた。

 もっとも、あんな強烈な攻撃では原形も残らぬ位に吹き飛ばされて終わりだろう。


 死の気配が俺へと近づき、そして――――止まった。


「……えっ?」


 攻撃がいつまで経っても来なかったので、俺が目を開くと。


 そこには――破壊者の渾身の一撃を、右手のひらだけで悠然(ゆうぜん)と受け切っている、ニックの姿があった。


「なに、女の子に乱暴しようとしてんだ? クソザコが」


 その声は、先ほどのおチャラけた態度と同じ人物とは思えないほど冷酷で。


「女の子には優しくって、教わらなかったのか? あぁん?」


 凄まじい音が響くと同時に、破壊者が悲鳴を上げた。

 よく見れば、ニックが破壊者の放った拳を、そのまま握りつぶしていたのだ。


 あり得ない光景だった。

 勇者だった時代、3人でも死闘の末に倒した魔物を、腕一本で圧倒するなど。


『ガアアアア! キ、キサマ……キサマハナンナンダァ!』


 痛みに呻きながら、破壊者は渾身の一撃をニックへと放つが、それもアッサリと受け流され。


「俺は勇者だよ? んで、お前は魔物だよな? なら――後は分かるよな?」

『ヤ、ヤメロオオオオオオオオオオオオオ』


 ニックが振り下ろした手刀により、破壊者は真っ二つとなった。


「こ、れが……勇者」


 無意識に、俺はそう呟いていた。

 圧倒的な力を感じたのだ。そう、まるであの時の魔王に匹敵するかのような、頼もしく、恐ろしい力を。


「ふぅ~、まっこんなもんよ。どう? ちっとは見直してくれたかな?」


 振り向いたニックの顔は、先ほどと同じように軽薄でチャラい笑顔だった。

 あれほどの力があり、覇気を纏っていた人物とは思えなかった。


 しかし、俺にはニックの存在が希望に見えた。


 確かに目の前の男は誠実でも、謙虚でもない。だけどこいつなら――俺達が果たせなかった、魔王討伐を成し遂げてくれるかもしれない、と。


「んじゃさ、改めてッ‼ アルマちゃん! 俺と、恋人に……あっ、じゃなかった。魔王ぶっ飛ばしに行こうよ~~~♪」


 ふっ、掴めない奴だ……だが、いいだろう。


「あっ、ごめんねアルマちゃん! マジで今の冗談――」

「いいですよ、ニック」

「へっ? アルマちゃん、今、俺の名前」


 二度と……懲り懲りだと思っていたんだがな。

 女神。あいつはもしかして、この男と俺を引き合わせたかったのだろうか。


 だとすると、まんまと乗せられちまったな。


「勇者ニック。わたしは、貴方と共に魔王討伐へと付いて行きます」


 もう、後悔はしない。

 俺が果たせなかった使命を託すならば、こいつしかいないだろう。



 ならば――それを成すために、俺も全力で協力するだけだ。



「貴方の事を……命を懸けて、サポートさせて頂きます」

「うっお……それって、愛の告白? アルマちゃん、もうベッド行く?」



 男女の関係には、絶対にならんがな……!

 俺はあくまで、ノーマルだ。


 こうして、俺とニックの魔王討伐の冒険が始まった。

 今度こそ、仲間の仇を討ち、世界を救って見せる‼






 俺たちの戦いは――――これからだ!

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょろい
[一言] 寝取られからのTS→精神的BLの流れは面白そうだったので続きないのは残念です。
[一言] >> 男女の関係には、絶対にならんがな……! >> 俺はあくまで、ノーマルだ。 問題ないのでは? ラミアを寝取って主人公と正妻をを争う中になったり
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