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for a girl  作者: sadaka
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第7話

 クリスマスバイトも無事に終わって、新年がやってきた。初詣は混んでるだろうから行く気もなくて、おせち食べてお餅食べてミカン食べて、とにかく家でダラダラしてたら三日になってアミから電話がきた。初詣に行こう、だって。そろそろ空いてるだろうからって言ってたけど、考えてることは同じだなぁ。

「マチー、こっちこっち」

 市街にある、この辺では有名な神社に行くと、すぐにアミの声がした。普段に比べれば人出は多いけど、待ち合わせが出来ないほど混んではいない。だからアミの姿もすぐに見つけられたんだけど……あ、アッキー達もいる。

「あけましておめでとう」

 アミたちとは初だけど毎年恒例のアイサツをして、それから境内に行くことになった。アミと会うのも久々だったから、並んで喋りながら歩く。

「クリスマスライブ、どうだった?」

「サイコーだったよ。アッキーがバラードとか歌ったりして」

「へえ〜、アッキーがバラード」

 ロッカーなアッキーがバラード……う〜ん、ロッカーなアッキーすらあんまり知らない私には想像がつかないなぁ。でもアッキーがバラードって、なんか意外。あ、でも、初めてアッキーのギター聞いた時はバラードっぽい曲調だったよね。あの時の曲、だったのかなぁ。

「お前ら、本人がいる前で堂々とオレの話するなよ」

 前を歩いていたアッキーが呆れた顔して振り返った。嫌そうな表情つくってるけど、なんか嬉しそう。きっとアミにベタ褒めされて照れちゃったんだ。アッキー、カワイイなぁ。

「そこ! 含みのある笑い方すんな!」

 あはは、新年早々アッキーに怒られちゃった。でも笑わずにはいられないよ。アッキーたちと一緒にいると和むなぁ。

 ちょっとだけ並んでお参りして、その後はカラオケにでも行こうって話になった。別にカラオケが嫌なわけじゃなかったんだけど、私はパス。皆と別れて違う場所に行くことにした。クリスマスに会ったばっかりだけど、せっかく市街に来たんだからハルちゃんにも新年のアイサツしないとね。

「おい」

 皆と別れてから少し歩いたところで、アッキーに呼び止められた。何だろう? 何か用事でも思い出したのかな?

「どうしたの、アッキー?」

「用事、すぐ終わるのかよ?」

「うん?」

 どういう意味だろう。まあ、アイサツだけで済ませばすぐに終わる用事だけど、ハルちゃんに引き止められたら長くなるかもね。何とも言えない感じだけど、早く終わったらカラオケに来いって言いたいのかな? オレの歌を聞け、とか?

「わかんないけど……何で?」

「すぐ終わるんだったらアクアに来い。場所、分かるか?」

「アクア? 何それ?」

「……分かった。一時間で抜けてくるからお前も一時間で切り上げろ。駅前で待ち合わせな」

「え、ちょっと、アッキー?」

 自分の言いたいことだけ言って、行っちゃったよ。何だったんだろう。まあ、一時間もあれば十分な用事だし、いいか。

 ハルちゃんに新年のアイサツを済ませて、ちょっとお店でまったりさせてもらってから、アッキーとの待ち合わせ場所に行くことにした。アッキーと別れてから一時間半くらい経っちゃったけど、大丈夫かな。アッキーって待たされるの嫌いそうだし、もういないかも。そしたら、アミにでもメールして聞けばいいよね。どうせ一緒にいるんだろうから。と、思ってたんだけど、アッキーはちゃんと待ってくれてた。どんな格好しててもアッキーのツンツン頭は目印になるから便利だね。

「ごめんね、待った?」

「待った」

 うっ、身もフタもない。アッキー、不機嫌そうな顔してるよ。でも急に待ち合わせなんて言い出したの、アッキーの方なんだからね。

「あれ? 他の皆は?」

 皆で一緒にアクアってとこに行くのかと思ってたんだけど、アッキーしかいない。アッキーは一言、「あいつらは抜き」とだけ言った。何でだろう?

「ほら、行くぞ」

 カラオケがある方を振り返ってるうちにアッキーはさっさと歩き出した。駅に向かってる。駅前で待ち合わせって言ってたからこの辺にあるお店か何かだと思ってたんだけど、電車で移動するみたい。

 アッキーと電車に乗って、辿り着いたのは一駅隣だった。そこからさらに歩いて、十五分くらいしたところで「AQUA」って看板が目についた。雰囲気からすると、喫茶店とレストランの中間くらいのお店。通いなれた場所なのか、アッキーは自然な感じで店内に入って行った。

「好きなもん頼めよ」

 って、アッキーは言うけど、言われなくても好きなもん頼むよ。何にしようかな。かわいいメニューがいっぱいで迷っちゃう。

「うーん、じゃあ、ダージリン・ティー」

 パフェとか頼もうかなって思ったけど、意外と値段が高かった。お年玉もらったばっかりだから余裕はあるんだけど、服とか欲しいから節約しなきゃ。

「せっかく奢ってやるって言ってんのに、それだけでいいのか?」

「えっ、オゴリなの? じゃあ、トロピカルサンデーも追加」

「……現金なヤツ」

 呆れたように言って、アッキーは水を口にした。注文を済ませたのでウエイトレスが去って行く。私としてはラッキーだけど、何で急におごってくれる気になったんだろう?

「アッキー、どうしたの?」

「何が?」

「だって、おごってくれるなんて言い出すから」

「ああ、クリスマスの礼だ。遅くなっちまったけど、ありがとな」

 ありがとなって……私、アッキーにお礼言われるようなことしたっけ? しかもクリスマスでしょ? クリスマスと言えばバイトで、アッキーのライブにも行かなかったのに。って、ああ、あれのことかぁ。

「あれ、私が一人でやったんじゃないの。だからおごってくれなくてもいいよ」

 百枚くらいあったチラシを全部配り終えたのは、協力してくれた女の子達のおかげだもん。それなのに私だけアッキーにおごってもらうのも悪いよね。そう思ったから事情を説明したんだけど、アッキーはもう知ってたみたいであっけらかんとしてる。

「あいつら常連なんだよ。だからライブが終わった後にその話、聞いた。でも、お前のおかげには違いないから」

「えー、悪いよ」

「うっさい。黙っておごられとけ」

 オレがおごるなんて滅多にないんだぞって、アッキーは言う。そっか、だから皆は一緒じゃないんだ。とてもじゃないけど全員におごってられる人数じゃないもんね。

「あ、思い出した。お前、ケータイの番号くらい教えとけよな」

 ふと、アッキーが嫌そうな表情になって私を見た。いったい何を思い出したらそういう話になるんだろう。それに、アッキーに番号聞かれるのなんてこれが初めてだよ。

「礼しようと思っても連絡先が分からないし、横田とかに聞くのも変だろ? 仕方ないから学校の名簿で調べて、久々に家電なんかにかけちまった。そしたらお前、家に帰ってないとか言われるしさ」

「家の電話……に、かけたの?」

「おう。お前の母ちゃんと話すの、すっげー恥ずかしかった」

 うん、それは確かに嫌かもね。私が逆の立場だったらすごく電話かけづらいよ。それでも家電にかけてくれたアッキーの律儀さに、胸中で拍手を送っておこう。でもお母さん、そんなこと一言も言ってなかったけどなぁ。忘れっぽいのは家系だから、きっとキレイに忘れ去られてたんだね。

「ごめんね、クリスマスと次の日は家にいなかったから」

 クリスマスはハルちゃんの家に泊めてもらって、その翌日は大掃除を手伝ったもんだから帰るのが遅くなっちゃったんだよね。アッキーが電話してくれたの、きっとその時だったんだ。

「泊まり……」

 何が気になったのか、アッキーは眉根を寄せてボソッと呟いた。それからまじまじと、私の顔を見てくる。どうしたんだろう、アッキー。

 アッキーが何を考えてるのか訊こうかなとも思ったんだけど、パフェが運ばれてきたもんだから意識がそっちに行っちゃった。わーい、美味しそう。オゴリだと思うとまた、格別だよね。

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