第6話
ダブルデートみたいな感じで遊園地に行った後もアミとトモくんの関係に変化はなかった。二人とも平気な顔で、今までと同じように友達付き合いをしてる。もしかしてトモくん、言えなかったのかなぁ。まあ私は当事者じゃないから、関係ないっちゃ関係ないんだけど。
アミとトモくんの関係みたいに私の日常も変わりなく過ぎ去って行った。二学期の期末テストも終わって、十二月二十三日。今日から冬休みだ。
「ごめんね、マチ。せっかくのクリスマスだっていうのに」
学校の近くにある音楽喫茶で、申し訳なさそうな顔をして私に謝っているのはハルちゃん。うちのお父さんのお姉さんの子供で、私の従兄弟のお姉さん。確か三十を過ぎてるはずだけど、見た目は二十代って言われても全然いける。本名は晴美さんっていうんだけど、子供の頃からハルちゃんハルちゃん呼んでたから未だに彼女はハルちゃんなのだ。
ハルちゃんは、今では珍しい音楽喫茶を自分で経営してる。前にもお店を手伝ったことがあるんだけど、また頼まれちゃったんだよね。その頼まれた日がイブとクリスマス当日なので、ハルちゃんはそのことを気にしてるみたい。
「いいよ、気にしないで。どうせ予定もないし」
「予定ないの? 高校生にもなって寂しいわね〜」
「余計なお世話だよ。そんなこと言うなら手伝わないよ?」
「あ、ウソうそ。手伝ってくれるよね、マチ?」
私の顔色を窺ってるハルちゃん、半笑いだよ。もう半分はすまなさそうにしてるけど、どっちかに統一してほしい。もう、カワイイんだから。
「でもマチがこっちの高校に通ってくれてて助かったわ。おかげで頼みやすくなっちゃった」
ハルちゃんのお店は私の通う高校に近い市街地にある。私の家は海の方にあるので、市街からはちょっと遠い。昔はめったに来られなかったけど、今は学校帰りにも寄れちゃう距離なんだよね。
「いらっしゃいませ」
お客さんが来たのでハルちゃんは応対に行っちゃった。今日は買い物のついでに寄っただけだから、そろそろ帰ろう。明日のバイトに備えて今のうちにゆっくりしとかなきゃ。
「ハルちゃん、帰るね」
「今日はあたしのオゴリ。明日からよろしくね」
財布を出そうとしてたんだけど、ハルちゃんに止められちゃった。やったね。オレンジジュース、ごちそうさま。
ハルちゃんのお店を出て、のんびり駅に向かった。街はもうクリスマスムード一色で、あちこち華やか。この時期って街を歩いてるだけでも楽しいよね。つい買い物しすぎちゃうから、バイトさせてくれるハルちゃんに感謝しないと。
そういえば、うちの高校ってクリスマスパーティーがあるんだよね。参加は自由だけど学校主催だから、一応学校行事。アミたちはパーティーに行くのかなぁ? そういえば、クリスマスくらいにアッキーのライブがあるとか言ってたけど、結局どうなったんだろう。とか思ってたら、駅前でアッキー発見。
「アッキー」
「なんだ、お前か」
素っ気なく振り向いたアッキーは面白い形の黒いコートを着てる。アッキー、黒似合うなぁ。私服だと本当にバンドマンだよ。
「何してんの?」
アッキーが紙の束を抱えてたから、気になって訊いてみた。そしたらアッキーは束から一枚取って、私の前に掲げて見せる。これ、チラシだ。
A3サイズのチラシを受け取って見ると、日時とか場所とかが書いてあった。横文字の名前がズラッと並んでて、見るからにバンド名。あ、アッキーのバンドの名前もある。へー、ライブやるんだ?
「来るだろ? つーか、来い」
「うん、見たい見たい」
と思ったけど、よく見れば十二月二十五日? ダメだ、行けない。
「何でクリスマスにやるかなぁ」
「クリスマスだからやるんだ。パーティーに行く予定なら、そっち蹴ってこっち来い」
パーティーって、学校主催のクリスマスパーティーのことかな? しかも先約を蹴って来いって……アッキー、無茶言うなぁ。
「パーティーじゃないんだけど、クリスマスは予定があるから無理」
「なんだよ、男か?」
……そんな予定があったらクリスマスにバイトなんて入れないよ。アッキーだって一人身のくせに。あ、でも、アッキーにはバンドがあるから私の一人とはちょっと違うんだろうなぁ。なんか切なくなってきた。
「そのチラシ、配るんでしょ? ライブに行けないから手伝うよ」
「お、マジで? じゃあ半分、よろしくな」
嬉しそうなアッキーにドサッと、チラシを渡された。気軽に手伝うなんて言っちゃったけど百枚くらいありそうだな。配りきれるか心配。
「全部さばけよ。じゃあ、後でな」
私の考えを見透かしたようにしっかりとクギを刺して、アッキーはどっか行っちゃった。散らばって配った方が効率はいいけど、一人でやるのは心細いなぁ。とりあえず、駅から出てきた人に渡してみようかな。
「おねがいしまーす」
出来るだけ愛想よくチラシを差し出してみたんだけど、素通りされちゃった。うう、チラシ配りって大変。アッキー、努力してるんだなぁ。
「いないじゃん!」
「えー! さっきまでここにいたのに!」
なんか、騒いでる女の子達がいる。誰か探してるみたいだけど、芸能人でもいたのかな? いやぁ、それはないか。こんな田舎に来ないでしょ。それはさておき、早くチラシを配らないと。
「おねがいしまーす」
うう、また素通りされちゃった。悲しいなぁ。
あ、さっきの女の子達がこっち来る。どうしよう、渡してみようかな。
「おねがいしまーす」
ちょうど私の前を通ったからチラシを差し出してみると、彼女達は興味なさそうに一瞥くれた。また素通りされちゃうかなと思ったんだけど、一人が足を止めてくれてチラシに見入ってる。やった、初めて受け取ってもらえた!
「ちょっとこれ、ジュライボックスのクリスマスイベントのチラシだよ」
「えっ! マジ!?」
チラシを受け取ってくれた女の子が他の子にも声をかけてくれて、私、女の子達に取り囲まれちゃった。一人一枚受け取ってくれたから、四枚配れた! この調子で頑張ろう。
「やっぱさぁ、アッキーいたんじゃないの?」
「このチラシ配ってたんじゃない?」
「アッキー?」
女の子達の話題にアッキーが出てきたから、別の場所に行こうとしてたのに振り返っちゃった。私がアッキーの名前を出したからか、彼女達は驚いたように目を丸くしてる。
「ジュライボックスのチラシ配ってるのにアッキー知らないの?」
あ、そっちの驚きなのね。私の言い方が悪かったみたい。
「アッキーなら、さっきまでここにいましたよ。今はどっかでチラシ配りしてると思いますけど」
「えっ、アンタ、アッキーの知り合い?」
「アッキーに協力して、このチラシ配ってるんです」
「なんだぁ、それならそうと早く言いなよ」
私を同類だと思ってくれたみたいで、女の子達は親しげな笑みを向けてくれた。しかもチラシ配りを手伝ってくれるって。やったぁ、ラッキー。
アッキーファンらしき女の子達のおかげで百枚くらいあったチラシは全部配り終えた。でも、もう七時回ってるよ。アッキーに報告してから帰りたいけど、探してる時間はなさそう。とりあえず協力してくれた女の子達にお礼を言って、結局アッキーには会わないまま電車に乗っちゃった。ケータイの番号もメアドも知らないから、しょーがないよね。まあ、休みが終わればまた学校で会えるからいいか。それまでアッキーも私も今日のことを覚えてればの話だけど。




