第5話
空が高い秋晴れの日曜日、私とアミとアクツくんとトモくんの四人は駅で待ち合わせをして遊園地に行った。トモくんはいつもアミたちといるメンバーの一人で、学校では現在の人数プラス女子と男子が三、四人ずつくらい。みんな仲がいいんだから都合のつく人全員で来ても良さそうなものだけど、何故か今日はこの四人だけ。アクツくんの誘い方からして怪しかったから、たぶん何かあるんだろうなぁ。
何となく身構えていたものの、結局は何もなかった。途中からはそんなこと考えてたのも忘れるほど、久々の遊園地を満喫しちゃった。でもやっぱり何事もなく終わることはなくて、異変は最後にやって来た。
「観覧車、乗ろうぜ」
というアクツくんの提案があって、私たちはカップルで賑わってる観覧車の列に並んだ。ジェットコースターとか二人席の乗り物はグーパーで相席の人を決めたけど、これは全員で乗るんだよね。私はフツウにそう思ってたんだけど、いざ順番になったらアクツくんが行動を起こした。
「じゃ、お先」
トモくんとアミに言い置いて、アクツくんは私の手を取って観覧車に乗り込む。常に動きっぱなしの乗り物だから、アミたちが呆然としてる間にロックをかけられてしまった。もう後戻りも出来ないけど、この展開は何?
「は〜、疲れた」
箱に入るなり、アクツくんは席に座って足を投げ出した。強引に引っ張られたからちょっと痛い手をさすりながら、私もとりあえず向かいの席に腰を下ろす。
「あ、ごめん。痛かったか?」
私が手をさすっているのを見てアクツくんが急に申し訳なさそうな顔になった。さっきまでのけ反ってたのが前傾姿勢になったので、私の方はちょっと身を引きながら首を振る。
「大丈夫だけど、突然どうしたの?」
「実は今日、オレとお前は付き添いなんだよ」
「……どういうこと?」
私が眉根を寄せるとアクツくんは苦笑いを浮かべた。またシートに背中を預けながらため息ついてる。アクツくんが動くと箱、揺れるなぁ。
「トモの奴、横田が好きなんだってさ」
「トモくんがアミを? へええ〜」
アミは可愛いしオシャレだし、明るいから誰とでもすぐ仲良くなる。しょっちゅう告白とかされてるみたいだからトモくんが好きになっても不思議じゃないけど、それでも改めて聞かされるとちょっとビックリ。
「何かあるとは思ってたけど、そういうこと」
「そ。今頃は下の箱でトモが告白してんじゃねーの?」
私はちょっと面白いと思っちゃったけど、アクツくんは興味ないみたいでグッタリしてる。さっきの「疲れた」って、気疲れってことかぁ。きっとトモくんに頼まれちゃったんだね。お疲れさま、アクツくん。
今日の真意を明かしたきり、アクツくんは黙ってしまった。観覧車の窓のところに肘を置いて、頬杖つきながら景色を眺めてる。きっとまた、話しかけられたくない時間に入っちゃったんだね。だったら私も景色を楽しもう。
今日私たちが来た遊園地は山の中にある。それだけでも高いのに、観覧車に乗るとさらに高いところから街並みを見下ろせるんだよね。海と山に挟まれた場所、そこに私たちが住んでる街はある。でも海の遠い果てを見下ろす機会なんてあんまりないから、見慣れた街並みも違って見えるな。新鮮、新鮮。
「……なあ、何考えてんの?」
不意に、アクツくんが口を開いた。顔を戻してみるとアクツくんもこっちを向いてたので、正面を向いたまま答える。
「キレイじゃない?」
風景を指差しながら言うと、アクツくんが吹き出した。私、笑われるようなこと言ったかな?
「真面目な顔して友達の心配でもしてるのかと思えば、そんなことすっかり忘れてるんだな」
「あ、そっか。忘れてた」
そういえば、私たちの足下ではアミが告白されてるんだっけ。でも相手はトモくんだし、何を心配するんだろう?
「オレ、お前のそーゆーとこけっこう好き。気楽でいい」
アクツくんは軽快に笑ってるけど、ビミョウなことを言われたような気がする。でもまあ、いっか。深く考えないようにしよう。
「なあ、またアッキーって呼べよ。オレが許す」
「へ? いいの?」
「アクツくんって言い辛いだろ?」
「……自分でそう呼べって言ったくせに」
「何か言ったか?」
「何も〜。ありがと、アッキー」
「おう」
アッキーは飾り気のない笑顔を見せてくれたけど、ちょっと顔が赤くなったような気がする。アッキーって呼ばれるの、実は照れくさいのかな? そのわりには皆にアッキーって呼ばれてるけど。
「これ終わったら帰ろうぜ。どっちにしても、もう遊ぶ気分じゃねーだろうからな」
あー、アミとトモくんのことかぁ。確かに、あの二人にしてみれば遊ぶ気はなくなっちゃってるかもね。うまくいったなら二人になりたいだろうし、うまくいかなかったら気まずいだろうし。
十五分経って、私とアッキーは先に観覧車を下りた。その一、二分後にアミとトモくんが下りて来たんだけど、二人とも変わった様子はまったくない。でもアッキーの提案には二人も賛成みたいで、そのまま帰る流れになった。途中でアッキーとトモくんと別れて二人になってからもアミは何も言わなかったけど、けっきょくどうなったんだろう?