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for a girl  作者: sadaka
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第3話

 十月下旬のよく晴れた週末、うちの高校の文化祭はわりと盛大に執り行われた。短期バイトが文化祭当日までだったので土曜日は参加出来なかったんだけど、その分最終日の日曜は存分に祭りを楽しんだ。約束通りアミと模擬店食べ歩きもしたし、体育館で吹奏楽や演劇も見たし、満足満足。ついでに給料までもらっちゃったから、お腹いっぱい胸いっぱいだよ。文化祭当日までは地獄のように忙しかったけど、終わってみればいい思い出だよね。

「マチ、そろそろ後夜祭始まるって」

 隣のクラスであまったクッキーを分けてもらって食べてたら、アミが教室に駆け込んで来た。そっか、ついに文化祭も終わりなんだね。後夜祭って楽しそうだけど、このお祭りムードが終わるのはちょっと寂しいな。

 昼間は一般客も入って賑わってた校舎も、後夜祭の頃には生徒だけになる。でも熱気はまだ続いていて、あちこちで楽しそうな声が上がっていた。それにしても、窓という窓に人だかりができてるなぁ。何でだろう?

「皆、アッキーの歌が目当てなんだよ」

 私が首を傾げていたからか、アミが説明するように言った。そっか、これからアクツくんが歌うんだ。聞きに来いって言われてたの、すっかり忘れてたよ。

「エルズのコピーバンドだっけ? 楽しみだね」

「あたしはクラッカージャックの曲の方が良かったんだけど、まあ、文化祭だから仕方ないよね」

「クラッカー?」

「アッキーのバンド。ジュライボックスっていうライブハウスでは知らない人はいないよ」

「ふうん」

 なんだか知らない単語が続々と出てきたけど、とにかくアクツくんは有名なんだね? 自分で曲つくってるんだからコピーバンドじゃもったいないって、アミは言いたいのかも。

「で、何で下に向かったの?」

 後夜祭の舞台は校舎に取り囲まれた場所にある、中庭。中庭を見るんだったら上からの方がいいと思うんだけど、アミは迷うことなく階段を下ってる。ついに一階に着いちゃったので疑問を口にしてみると、アミはニヤッと笑った。

「ライブは近くで見なきゃ。特等席、ゲットしてあるんだ」

 アミが自信満々だったのも頷けるほど、私達が辿り着いた場所はステージに近かった。すでに中庭は満杯状態だったんだけど、アミの友達が最前列を確保してくれていたみたい。見たことある顔ばっかりだなぁと思ったら、前にアクツくんが教室でギターを弾いてたとき一緒にいた人達ばっかりだった。きっと皆、仲いいんだろうなぁ。

 フツウのライブ会場とは違って指定席も何もないので、中庭はもみくちゃ状態。そんな中、アクツくんたちがステージに上がってきた。中庭だけじゃなく、上からもすごい歓声が降ってくる。うわぁ、すごい人気。アクツくん一人に向けられた歓声じゃないんだろうけど、有名人には違いないよね。知らなくて、悪かったかな。

 ステージの上のアクツくんは、いつもと変わらない制服姿。でも何か、マイクを握ってると別の人みたい。そんなに親しいわけじゃない私ですらそう思うんだから、アミたちはもっとそう感じてるのかもしれない。それもまたアクツくんの魅力、だよね?

 マイクに向かって「アー」とか「テス」とか喋りながら、アクツくんは周囲を見回してる。何か気になるのかなと思ってたら、私たちがいる場所で視線を止めた。ああ、皆が見に来てるか探してたのかな? 私たちに向かってイタズラ小僧みたいな不敵な笑みを浮かべたところを見ると、やっぱりそうみたい。

 アクツくんの合図で即席バンドの演奏は始まった。エルズは有名なミュージシャンだから、皆ノリにのってる。また選曲がいいなぁ。アクツくん、盛り上げ方わかってるよ。これは人気があるのも当然かも。

 楽しかった後夜祭ライブは、だけど三曲で終わっちゃった。まあ、即席バンドだったらそんなものなのかな? アクツくん達の次にステージに上がった人たちには興味がないらしく、アミに出ようと促されたので中庭を後にした。

「アクツくん、すごいね」

 中庭の熱狂から遠ざかって、会話が聞き取れるようになったのでアミに話しかけてみた。私は良かったなぁと思ったんだけど、アミは渋い顔してる。

「アッキーはね、良かったよね。でもギターやベースが音外しすぎ」

「えっ、そ、そうだった?」

 音、外れてたんだ? 私、全然そんなの分からなかった。アミって、けっこう音楽にウルサイのかも。なんか意外。

「ね、アッキーのところに行かない?」

「うん、いいよ」

 絶対聞きに来いって言ってたから、ちゃんと聞いたよって報告しなきゃ。良かったよっていうのも伝えなきゃね。

「そういえばマチさぁ」

「うん?」

「何で『アクツくん』なの?」

「アッキーって呼ぶなって言われたから」

「アッキーに? そんなこと言われたの?」

「え? うん」

「へえ。何でだろうね?」

 たぶん、あんまり親しい間柄じゃないからだと思うけど。でもアミは、そう思ってはいないみたい。アッキーってフレンドリーなのにねって独り言みたいに零してる。

「あ、アッキー」

 前方にアクツくんを発見して、アミは考えるのをやめたみたいだった。アミがさっさとアクツくんの所に行っちゃったので、私も後を追う。

「やっぱりアッキーはクラッカージャックじゃないとダメだよ」

「そうか? コピーバンドなんて久々で、けっこう楽しかったけどな」

 アミは納得がいかなかったみたいだけど、アクツくんは後夜祭っていう場を楽しんでたみたい。うん、ステージで歌ってる時のアクツくん、楽しそうな顔してたもんね。お祭りなんだから楽しいのが一番だよ。って、私は本来のアクツくんを知らないからそう思うのかもしれないけど。

 アミと話してたから口を出さないでいたんだけど、会話が途切れたところでアクツくんがこっちを向いた。私の顔を見るなり、アクツくんは不敵に笑って見せる。なに、その笑顔。

「オレの歌、良かっただろ?」

 すごい自信満々で言われたから笑っちゃった。「どうだった?」とは聞かないんだね。でもすごく、良かったよ。

「なに笑ってんだよ。失礼なヤツだな」

「ごめんごめん。アクツくん、すごくカッコ良かったよ」

「お、やっぱり? そうやって素直に褒められると悪い気はしねーな」

 アクツくん、得意顔になってふんぞり返ってる。この人、単純で面白いなぁ。でも、カッコ良かったのは本当だよ。

「マチはクラッカージャックを知らないからそんなこと言うんだって」

 アミはやっぱり、まだ不満そう。きっと、そうとうアクツくんのバンドが好きなんだろうなぁ。アミがそこまでハマるバンドって、どんな感じなんだろう。そんなことを考えてたら、アクツくんのバンドを見に行こうってアミに誘われちゃった。でも私が返事をするより先にアクツくんが口を挟む。

「次のライブはクリスマスあたりだ」

「もちろん行くよ。マチも一緒にね」

 まだ返事してないけど、アミの口調からすると行くことになっちゃったみたい。まあクリスマスだからといって特に予定もないし、ライブハウスにも行ってみたいから拒否する理由もないけど。

「お前も来るのか?」

 アクツくんが確かめるように聞いてきたから、とりあえず頷いておいた。私の反応を見て、アクツくんはまだ不敵な笑みを浮かべる。

「来るのはいいけどオレに惚れるなよ?」

 またしても自信満々に言い切って、アクツくんは去って行った。アミが平然としてるところを見ると決まり文句なんだろうけど、おかしい。堪えられなくて、私は一人で笑ってしまった。

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