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for a girl  作者: sadaka
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第27話

「前にも言ったように、最初は意地だった。オレのこと知らねーなんて信じらんねぇって思って、絶対にオレの良さを認めさせてやるって思ってた」

 うん、それは知ってる。だから後夜祭でエルズのコピーバンドやったんだよね? 私がエルズを好きだって言ったから。

「認めさせてやったのかは今もわかんねーけど、それもだんだんどうでもよくなってきた。いや、どうでも良くはねーか。まだお前のこと泣かせてねぇし」

 まだそこにこだわってたんだ? ジャン=ジョエルのライブ、良かったもんね。だからこそ、アッキーにとって私を泣かせることに意味があるんだろうなぁ。そう簡単には泣かないけど。

「まあ、それは置いといて」

 ……置いとくんだ。黙って聞いてろって言われてるから、言わないけど。

「トモに頼まれて遊園地に付き合うことになった時、正直めんどくせーと思ってた。でもお前を誘って正解だった。その頃から、お前といると一人になりたい時でも気にならねーし、気楽でいいと思ってた」

 ああ、いつか言ってた「空気みたい」ってやつだね。私にもそういうところがあるから、アッキーの気持ちは何となく分かるよ。お互いにそうだったから気楽だったのかもね。

「二人で遊園地に行った時はすげー楽しかった。お前絶叫系も大丈夫だし、女のくせにオバケ屋敷でもバカ騒ぎするし。媚びないっつーか、男友達といるみたいな感覚でいいなって思った」

 ああ、その感覚は分かるような気がする。私もアッキーといる時はそういうこと考えてなかったもんなぁ。男友達とも男の子とも違って、アッキーはアッキーなんだよ。アッキーもそうだったんだね。なんか、嬉しいかも。

「そう、思ってたのに、お前が急にバカなことするから……」

「バカなこと?」

 あ、黙ってろって言われてるのに喋っちゃった。でも急にそんなこと言われたら反応しちゃうよ。バカなことって何だろ? 私、何かしたっけ?

「しただろーが、バカなこと。オレのこと上目遣いで見たりとか、挙句の果てには顔上げたまま目閉じやがって」

 ……ああ、あの時のことか。アッキーは照れくさそうに顔を背けてるけど、私は未だに何があったのか知らないんだよね。唇に柔らかいものが触れたような気がしたけど、あれってやっぱり……。

「お前がキスされるのを待ってるみたいなことするから、つい、やっちまった。そんな気、全然なかったのによ」

 あー、やっぱりあれ、キスだったんだ。でもアッキーが言ってたみたいに、それって完全な事故だね。私にもアッキーにも、そんなつもりなかったんだから。だけどファーストキスが事故って……ちょっとヘコむなぁ。

「あの後、どうしていいのか分からなくなった。お前には忘れろって言ったけど、忘れられなくて。なのにお前の方はキレイさっぱり忘れてるんだもんな。あれは、ヘコんだ」

 ヘコんだんだ。えっと、もっと気にしてた方が良かったのかな? でもアッキーがキレイさっぱり忘れろって言うから、私も気にしないことにしたわけで。う、うーん、よく分からないよ。

「キスしちまったのは事故みたいなもんだったけど、それから急にお前のこと女として意識するようになっちまった。だからクリスマスに先約があるって聞いた時は気が気じゃなかった」

 えーっと、それって去年の話かな? 確かアッキーがハルちゃんのお店に連れて行けって急に言い出して、それで一緒に行ったんだよね。でもそれが、何で気が気じゃなかったことになるんだろう。

「お前、一年の時はクリスマスにどこか泊まったって言ってただろ? あれで、オレはお前に彼氏がいると思ったんだよ。去年のクリスマスもそいつと過ごす気なら、かっさらってやろうって思ってた。だから、そいつのとこに連れてけって言ったんだよ」

 私が絶対に理解してないと思ったのか、アッキーはため息混じりに説明を加えてくれた。アッキー、そんなこと考えてたんだ。誤解もいいところだよ。

「言っとくけどな、お前が期待しろとか言うのが悪いんだからな? オレを選んでくれるのかと期待して行ってみれば、着いたのはハルさんの店だろ? お前に彼氏がいたんじゃなくてホッとしたけど、それと同時にお前の鈍さに泣きたくなったぜ」

 うっ……そんな言われ方されたら身もフタもないよ。アッキーがそんな誤解してたの知らなかったんだから仕方ないでしょ。でも言われてみれば思い当たることが多すぎて、アッキーに悪い気がしてきた。鈍くてごめんね。

「でも、それと歌えなくなったことに何の関係があるの?」

 前に私の前ではジャン=ジョエルが歌えないって言ってたことはあるけど、それとこれは違うよね? 普段の自分を知ってる人にライブを見られるのが恥ずかしかったのって訊いてみたんだけど、それも違うんだって。あのライブのことを思い出してるのか、アッキーはちょっと苦い表情になりながら話を続けた。

「ステージに立つとスイッチが入って、ライブで歌ってる時は自分なんだけど自分じゃないような感覚になるんだよな。だからライブ中のことは、終わるとほとんど覚えてなかったりする。いつもだったらそれくらい集中してるのに、お前と目が合ったってだけで素に戻っちまった」

 あ、やっぱり、そうだったんだ。私と目が合った後のアッキーはステージで歌ってる時のアッキーじゃなかったもんね。突然素に戻っちゃったもんだから、どうしていいのか分からなくなっちゃったんだ。だからあんなに、うろたえてたんだね。

「そしたら、もう歌えなくなってた。ライブをぶち壊しにしちまった自分にハラが立って、その時は何で歌えなくなっちまったのかまでは考えられなかったけど、後になってお前のせいなんだって気がついた。新しい曲を作ろうと思っても歌詞が書けないんだよな。お前の顔しか浮かばないのに、どんな風にラブソングを歌ってみてもウソっぽくなる。歌えなくなるほど惚れてたなんて、知らなかったんだ」

「アッキー……」

「そうは言っても、立ち直らせてくれたのもお前なんだよな。お前はすげーカンタンに今の気持ちを歌えばいいって言ってたけど、あれは衝撃的だったぜ。それまでは歌詞を書いてても、どっかでカッコつけようとしてたんだと思う。でもお前にそう言われてから、そんなことどうでもよくなった。それで、この曲が出来たんだ」

 そこで一度言葉を切って、アッキーは小さく息を吸った。次にアッキーの唇から零れたのは、文化祭で歌ってた優しい曲。最後は私の目を見て、あのフレーズを囁いてくれた。

「もう、オレの気持ちは分かっただろ? いいかげん返事、聞かせろよ」

 返事? そんなの、もう決まってるよ。

「うん。私もアッキーのこと好きだよ」

 冗談で言ったわけじゃなかったんだけど、私の返事を聞いたアッキーは何故か脱力した。机を支えにするようにしゃがみこんじゃったけど、何で?

「軽すぎるだろ。お前、オレが言ってること本当に分かってるか?」

 そんな、困ったように上目遣いで見られても。素直な気持ちを言葉にしただけだったんだけどなぁ。それでも伝わらないなら、どうしたらいいんだろう。少し考えた後、アッキーと目線を合わせるためにしゃがみこんだ。こうすると、アッキーが近い。いつかの、香水の匂いがするよ。

 私からキスをするとアッキーはビックリしたように目を見開いた。言葉で気持ちが伝わらないなら、こうするのが一番だよね。

「それが……お前の気持ち?」

「うん。今度は事故じゃないよ?」

「は、ははっ……」

 完全に座り込んで、アッキー笑い出しちゃった。せっかくいい雰囲気だったのに、最後の一言は余計だったかな? でもまあ、いっか。私も笑っておこう。

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