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for a girl  作者: sadaka
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第25話

 ファミレスで和解してから、私とアミの関係は一年の頃と同じ感じに戻った。今年の文化祭は一人で模擬店食べ歩きしようかなって思ってたんだけど、アミが付き合ってくれたから楽しさ倍増。今日が終わればまた受験のことで頭がいっぱいになるんだろうけど、せっかくの文化祭なんだから今日は楽しみたい。こうして高校の校内を歩き回るのも最後だし、ね。

 一年生の教室で買ったタコヤキを四階の片隅でつついてたら、急に周囲が慌しくなった。あちこちの教室から人が出てきて、私たちの前を走り去って行く。なんだか階段を上って来る人たちも急ぎ足だけど、何かあるのかな。

「行ってみる?」

 アミがそう言うから、私たちも人波の中に身を投げることにした。どこからともなく溢れ出してきた人たちは屋上に向かってるみたい。よくよく見れば、女の子ばっかりだなぁ。

 押し流されるようにして屋上に出ると、途端にエレキギターの爆音が響き渡った。祭りの熱気に煽られてることもあって、集まってる人たちから悲鳴のような嬌声が上がる。後ろから押される勢いが激しくて、いつの間にかアミとはぐれちゃった。でも戻ろうにも、もう身動きが取れない。歌が始まったみたいだったけど、あれ、この声って……。

 アミを探してキョロキョロしてた視線を上げてみると、周囲の人たちより少し高くなった所にステージがあった。その上に、制服姿のアッキーがいる。やっぱり、この歌声ってアッキーだ。そっかぁ、歌えるようになったんだね。でも屋上でライブやるなんてパンフレットにも載ってないから、これってゲリラライブ? いつかみたいに即席バンドじゃなくてクラッカージャックのメンバーがいるけど、何も言ってなかったからアミも聞いてなかったんだろうなぁ。

 色々と思うことはあったんだけど久しぶりにアッキーの歌声を聴いちゃったもんだから、いつの間にか考えることを忘れてた。ああ、アッキーはやっぱりステージの上に立ってるのが似合ってるよ。この場所で無気力に過ごしてたのがウソみたいに今はキラキラしてる。でも今演奏してる曲、今までに聴いた曲とはずいぶんと感じが違うなぁ。抱きしめて、キスして、壊したい、だって。いつか言ってた『言葉に出来ない衝動』っていうののことを言ってるんだろうけど、メロディに乗せて聴くとハードな感じ。やらしいなぁ、アッキー。

 そっか、何か違うと思ったら、今までにないくらい歌詞が凶暴なんだ。今までのバラードは恋愛のこと歌っててもどこか『キレイ』だったもんね。これが今のアッキーの気持ち、なのかな。そう思うと、ちょっと怖い気すらする。あやうさ、みたいなものを感じるよ。

 『衝動』がむき出しになった激しい曲が終わって、MCを挟まないで次の曲に入った。今度は打って変わって、出だしからして静かなメロディ。バラード、かな。

 さっきの曲とは対極的な感じに、バラードの曲には優しい歌詞がつけられていた。だけど今までみたいに包み込むような優しさじゃなくて、情けない姿を見せてもいいから等身大で愛したいっていう感じの余裕のない気持ちを表現してる。これもアッキーの今の気持ち、なのかな。

 バラードの最後はアッキーの「愛してる」っていう科白で終わった。そういう曲だから、特定の誰かに向けられた科白じゃない。だけどアッキーが「愛してる」って囁いた時、どれだけの女の子が恋に落ちただろう。屋上を埋め尽くしてる女の子たちがうっとりした眼差しをアッキーに向けてるから、もしかしたら全員かもね。私は『雪が降ればいい そんな風に君の幸せを願う』ってところが好きだった。深いよ、アッキー。

 ゲリラライブ自体は大成功だったんだろうけど、その後が大変だった。やっぱり許可をもらってなかったみたいで、アッキーたちクラッカージャックはメンバー全員、先生にこっぴどく叱られた挙句に職員室の前で正座させられてた。アミと二人で笑っちゃったけど、ちょっと可哀想だったかも。ファンは見に来るし、クラッカージャックを知らない人も変な目で見ながら通り過ぎるし、さらしものだね。

 アッキーたちが解放されたのは、結局一般公開が終わる午後五時だった。アッキー以外はうちの学校の生徒じゃないから、正座から解放されると同時に追い出されちゃったみたい。馬場くんが来てたから、アミは後夜祭を見ずに帰っちゃった。アッキーは……これからまた、改めて怒られるみたい。まあ、首謀者だもんね。

「聞いてたか?」

 職員室に出頭する前、アッキーはそう言って私に声をかけてきた。さっきのライブのことだね。もちろん、聞いてたよ。

「また歌えるようになって良かったね、アッキー」

「ってことは、聞いてたんだな? それで、反応はそれだけか?」

「うん?」

 それだけかって言われても、他に何を言えばいいの? 詳しい感想を求められても、私には曲作りのこととか分からないから反応のしようがないよ。

 私が困ってるとアッキーは無言で紙を差し出してきた。二つ折りの紙を開いて見ると、そこには言葉が綴られてる。あ、これ、さっき歌ってた曲の歌詞だ。歌詞カードまで用意してるなんてすごいね。

「それ見ても、分からないか?」

「え? 分かるって、何が?」

 歌詞カードから目を上げると、アッキーの真剣なまなざしにぶつかった。だけどすぐ、アッキーは私から目を逸らしてため息をつく。呆れたような顔してるけど、何で?

「分からないんだな?」

「う、うん。ごめん」

「謝るくらいなら分かれ。って言っても無理そうだから、もうハッキリ言うしかないよな?」

 そこで言葉を切って、アッキーは表情を改めた。今のアッキーの顔、ライブで凶暴な想いを歌ってた時と同じだ。こ、怖い。

「マチ」

 名前、呼ばれた。いつもは「お前」とかばっかりだから、そんな風に呼ばれるとどうしたらいいのか分からないよ。あ、体が勝手に逃げてる。私の反応を見たアッキーは眉根を寄せて、それからまたため息をついた。

「……やっぱやめた。何でもねぇよ」

 何でもないって言った時、アッキーは私のよく知ってるアッキーに戻った。よ、良かった。先生の怒声が響いたからアッキーは職員室の方に行っちゃったけど、今のは何だったんだろう。

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