第20話
クリスマスの翌日、アミからメールが来た。ライブが思い通りにいかなかった後のアッキーはいつもあんな感じだから気にするなって書いてあって、もう大丈夫だからとも書かれていた。ケータイの履歴を見れば私が出した返信メールも残ってるだろうけど、アミにどんな内容を返したのかは覚えてない。自分の送ったメールを見ようという気も起らなかった。
初詣にも行かず、一人で出かけることもせず、冬休みはあっという間に過ぎ去って行った。クラスが違うこともあって、新学期が始まってからもアッキーとはまだ顔を合わせてない。あけましておめでとうすら言ってないけど、どうしてるかな、アッキー。
クラスが違うっていっても隣なんだから、会おうと思えばいつでも会える。それでも顔を合わせなかったのは、私の方が避けてたからなのかな。いつかとは、逆だね。どんな顔していいのか分からないって言ってたアッキーの気持ちが、今はよく分かるよ。
灰色の気分で日々を過ごしてたら、一月の終わりに空まで灰色になった。雨が降り出したから帰るに帰れなくなっちゃって、久しぶりに屋上で時間を潰すことにした。そしたら、凍えそうなほど寒い屋上には先客の姿があったんだよね。
屋上の扉の横っちょで雨をしのぎながらコンクリートに座り込んでるのは、アッキー。屋上に出た瞬間にアッキーの姿を見つけた時は一瞬引き返そうかと思っちゃったけど、結局は後ろ手に扉を閉めた。冷たい雨は、ざあざあ。この寒さだと、そのうち雪になるかもしれない。
「久しぶり」
アッキーの声がしたので振り向くと、座り込んだ体勢のまま私を見上げてた。その顔に、表情はない。どうしたらいいのか分からなくて、とりあえずしゃがみ込んだ。そしたら、アッキーの顔を見なくてすむから。
「またシカト?」
「……違うよ」
一人でこんな所にいるってことは誰とも話したくない気分なんだろうけど、話しかけてくれる。でもやっぱり、どうしていいのか分からない。分からないから、何も言わずに空を眺めてた。アッキーも黙り込んで、きっと空を見てる。
「雪に、なるかな?」
「ああ、なりそうだな。つーか、なればいい」
雨なら濡れるけど、雪ならそんなに濡れないから帰りが楽になる。アッキーがそんなこと言うから笑って頷いた。そうだね、雪になればいい。
「あけましておめでとう」
私が言うと、アッキーは変な顔した。それから髪型が崩れないよう器用に頭をかく。
「そっか。おめでとう」
「うん。おめでとう」
「二回言うなよ」
くどいって、言われちゃった。でもなんか、嬉しいな。いつものアッキーだ。
「アッキー、顔が赤いよ。いつからいたの?」
アッキーはコートも着てなくて、ブレザー姿のまま。セーターは着てるけど、こんな雨の中じゃ薄着だよ。私に言われて初めて寒さが沁みてきたのか、アッキーは小さく身震いした。
「いつからだったかな。だいぶいるような気、するけど」
分からなくなっちゃうくらい、ずっといたんだ。アッキーの腕に触れてみると、制服が驚くほど冷えてた。凍っちゃうよ、アッキー。うわっ、ほっぺも冷たい。
「……あんま、不用意に触んなって」
「あ、ごめん。イヤだった?」
「イヤじゃねぇけど……お前、気軽に触りすぎだろ」
イヤじゃないけど気軽なのはイヤなんだ? それって、結局イヤだってことかな? ちょっと自粛しよう。
「ヘコむな。イヤとは言ってないって言ってるだろ」
……どっちよ。相変わらず分かんないなぁ。でもホント、いつものアッキーだ。
「……アッキー」
「なんだよ?」
「あったかいもの飲みたい。アクア行こう?」
「……深刻そうな顔して何を言い出すかと思えば、それかよ」
アッキーは呆れたような顔をしてたけど、そのあと急に笑い出した。何がおかしいんだろう。私、何か笑われるようなこと言ったかな?
「分かった。行こうぜ」
笑いながら立ち上がったアッキーは、私に手を差し出してきた。アッキーの笑顔、久しぶりに見たなぁ。嬉しくて、ちょっと泣きそう。
「うん。行こう」
手を取ると、アッキーはそのまま私を引き上げてくれる。お互いに立ち上がった後も自然と手をつないだまま、雨降りの屋上を後にした。




