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for a girl  作者: sadaka
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第2話

 二学期が始まって少し経つと、うちの学校は文化祭の準備で慌しくなる。一般公開されるからなのか、生徒だけじゃなく先生まで熱が入ってる。私は部活にも所属してないし、クラスの手伝いをちょっとして、それほど忙しくもなく準備を終える……はずだった。

「マチ、今日は?」

 授業が終わるなり、アミが声をかけてきた。いつもなら鞄をひったくって速攻で教室を出るところだけど、今日は少し余裕があるので机を退かしながらのんびり答える。

「一時間なら残れるから、少し手伝ってく」

「じゃあ、クギ打って」

「りょーかい」

 アミからの指示を受けて、教室の隅にある掃除用具入れに向かう。文化祭の準備期間だけ、うちのクラスの掃除用具入れには工具箱が置いてあるから。

 文化祭が二週間後に迫って、校内はもうお祭りムード一色。今の時期はどこのクラスも放課後を準備の時間にあてている。うちのクラスは出店なしなので、校門に飾るアーチや看板の制作が担当なんだよね。だから準備はそれほど大変じゃないんだけど、私には時間がない。それは学校行事とは無関係な家庭の事情が原因だった。

 うちのお父さんのお姉さんの子供(私からすれば従兄弟)のお姉さんが学校の近くで喫茶店を経営していて、短期間だけアルバイトを頼まれたのがつい先日のこと。普段勤めてるバイトの人が都合悪くなっちゃって、その代わりだから本当に短期なんだけど、それが文化祭準備期間にちょうど当たっちゃったんだよね。だからクラスの手伝いもせずに授業が終わると速攻で帰っていたんだけど、さすがに気が引けて今日は一時間だけ遅刻させてもらうことにしたの。

「あれ? クギ、ないよ?」

 掃除用具入れから工具箱を引っ張り出して開けてみると、クギが一本もなかった。私の声を聞きつけたアミが後ろから覗き込んできて、頷く。

「ホントだ、ないね。じゃあ、生徒会室に行ってもらってきて」

「はーい」

 アミに軽く返事をして、その足で教室を出る。生徒会室は二階だから、階段を下らないと。急げ、急げ。

「おい」

 うん? なんか今、呼ばれた?

 素通りした廊下を振り返って見ると、腕組みをしたアッキーがこっちを見てた。でも廊下には他にも生徒がいるから、呼ばれたのが私かどうかは分からない。でもとりあえず、まったく知らない仲でもないから声をかけてみることにした。

「アッキー」

 私が指差すと、アッキーは何故かずっこけた。何か変なこと言ったかな?

「その呼び方、ヤメロ」

「アッキー?」

「アッキーって呼ぶな」

「でもアッキー、私、アッキーの名前知らない」

 アッキーは頭痛がするといった感じに顔の半分を手で覆ってしまった。その後ため息をついて、自分の後方を親指で指し示す。

「ちょっと、来い」

「えっ、今?」

 生徒会室に行かなきゃいけないんだけど……。って、私が言う前にアッキーは背中を向けて歩き出してしまった。仕方ない、着いて行くか。でも、何の用だろう?

 私は二階に用があったんだけど、アッキーは階段を上って行ってしまった。一年生の教室は四階にあるから、そこからさらに上に行くと屋上しかない。特にカギがかかってたりもしないので、アッキーは無言のまま屋上に出た。私もアッキーの後を追ったんだけど、やっぱり外は風が冷たいね。

「アッキー、どうしたの?」

 フェンスのところまで行ってアッキーが足を止めたので、私も立ち止まって声をかけた。アッキーは嫌そうな表情になってから口を開く。

「だから、そのアッキーってのヤメロ」

「じゃあ、名前教えてよ」

「アクツくんだ」

「アクツくん」

 アッキー、自分の名前に「君」つけてるよ。言い方がおかしくて、思わず吹き出しちゃった。アッキーも自分で変だと思ったのか、照れたように頬をかいてる。ひょうきんな人だなぁ。

「お前、本当にオレのこと知らなかったんだな」

 今度はちょっと残念そうな表情になって、アクツくんが言う。やっぱりミュージシャンを目指してる人って、そういうの気にしたりするのかな。

「ごめんね、知らなくて」

「……あやまられるとさらに空しくなる」

 どうしろっていうのよ、アクツくん。でも怒ってる感じはしないなぁ。あ、それより、用は何なんだろう? 早く戻らないとアミに怒られちゃう。

「それで、用は何?」

「お前、普段はどんな音楽聴いてるんだ?」

「へ?」

 それが、用? 何だかよく分からないけど、アクツくん真剣な表情してる。ここはやっぱり真面目に答えた方がいいのかな? でも急にそんなこと言われても、出てこないよ。

「えーっと、色々?」

「色々じゃ分からないだろ。具体的な名前を出せよ」

「そんなこと言われても……急には思いつかないよ」

「じゃあ、ジャンルでいい」

「ジャンル? J-POPとか?」

 アクツくんが頷いたから、普段何を聞いてるのか思い出してみた。でもCDを買ったりすることはあんまりなくて、部屋にいる時は流しっぱなしにしてるラジオとかレンタルとかで聞くからジャンルって言われても困るなぁ。

「えっと……イロイロ?」

「だから、色々じゃ分からないって言ってるだろ」

 アクツくんは呆れた顔になって、大きなため息を吐いた。うーん、さっきから考えてはいるんだけど、やっぱりとっさには出てこないよ。

「分かった、質問を変える。ロックは嫌いか?」

 ああ、それなら答えやすい。

「ううん、嫌いじゃないよ? M.Mとかジョン=スターズとかマーティアとか、邦楽だったらエルズとか黒桜とか好き」

「……詳しいじゃねーか。しかも黒桜とかマニアック」

「あ、ホントだ。名前、出てきた」

 こういうのって、言われると思い出すもんだね。でも何で、こんなこと聞きたかったんだろう?

「じゃあ、エルズのコピーやるから。後夜祭、絶対聞きに来いよ」

 それだけ言うと、アクツくん行っちゃった。結局、何が言いたかったんだろう? よく分からないけど、そろそろ戻らなくちゃ。後夜祭の予定まで出来ちゃったから、文化祭当日のスケジュールはビッシリだなぁ。楽しみ、楽しみ。

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