第19話
二学期の期末テストも終わって、冬休みに入った。初日の今日は、クリスマス。恒例になっちゃったっていうアッキーのライブがある日。今年はハルちゃんに手伝いを頼まれることもなかったので、アミと二人でジュライボックスに出かけた。皆も誘ったんだけど、予定があるんだって。まあ、クリスマスだもんね。
いつもの顔ぶれの中でトモくんだけは相手がいないみたいだったけど、一緒に行くメンバーが私とアミだけじゃ来れないよね。まだ引きずってるのかな、トモくん。っていうか、アミにクリスマスを過ごす相手がいないことにも驚き。でもアミはクラッカージャックのファンだから、もしかしたら彼氏よりライブを優先させてるだけなのかもしれない。それはそれで彼氏が可哀想かも。まあ、アミに彼氏がいるならの話だけど。
クリスマスを迎えた街はそれだけで活気づいてるんだけど、ジュライボックス周辺はまた一段と盛り上がってる。クラッカージャックのワンマンじゃないから、チケットはすごく競争率が高かったんだってアミが言ってた。それでも、集まってる人のほとんどはクラッカージャックのファンらしいんだけど。
前に来た時よりもさらにぎっしりお客さんが詰まった会場で、クリスマスライブはスタートした。アッキーたちの出番は一番最後みたい。私は他のバンドのことは何も知らなかったんだけど、アミが説明してくれたりしたから知らない曲でもそれなりに楽しめた。やっぱり、どのバンドもクリスマスソングをやるんだね。中には有名ミュージシャンの曲を演奏するバンドもあって、それはそれで面白かった。
ライブ開始から一時間半くらい経って、クラッカージャックがステージに上がってきた。アッキーが登場するなり、すごい歓声が上がってる。相変わらずキャーキャー言われてるなぁ、アッキー。やっぱりここに来ると、アッキーが遠い人になっちゃう。
『あー、メリークリスマス。ってことで、さっそく新曲。出し惜しみはナシな』
マイクを通して聞く、アッキーの声。ファンに向けたメッセージ。そして、アッキーのMCに応えるファンの女の子たち。最初から分かってることだけど、ライブだね。あのステージの上には私たちがよく知ってるアッキーはいない。それが、ライブなんだよね。
『WISH!』
アッキーが曲名を言い終わるタイミングに合わせて前奏が始まった。聞きやすい、アップテンポの曲。ライブハウスの外で配ってた、綿雪みたいな飾りを皆振ってる。そっか、クラッカージャックのクリスマスソングなんだね。今までのクリスマスソングはバラード系が多かったけど、アッキーらしい明るい曲だなぁ。優しい気持ちになれるから、歌詞も好き。
WISHって曲の後はノリのいい曲を連発して、クラッカージャックはお客さんをのせてた。WISHを含めて三、四曲演奏して、次がラスト。あ、この曲……前のライブでも最後に演奏したバラードだ。恒例、なのかな?
お客さんが聞き入ってる中、アッキーは切ない歌詞に息を吹き込んでる。この曲の作詞、アッキーがしたのかな? 胸がしめつけられるくらい切ない表情を見せるのは、アッキー自身の想いが秘められているからなのかもしれない。片思いって、苦しいね。
最後の曲の途中でふと、アッキーと目が合った。あ、すごい。私はずっとアッキーを見てたけど、こんなにお客さんがいるのにアッキーも私のこと見てる。でもアッキー、何だか素の表情に戻ってない? 歌い方も歯切れが悪くなっていって、ついには歌うのをやめちゃった。
アッキーが口をつぐんじゃったからなのか、演奏も止まっちゃった。初めは演出だと思ってたお客さんもざわつき始めてる。私も演出なのかと思ってたんだけど、違うみたい。ステージに立ってスポットライトを浴びてるのに、アッキーが素顔に戻っちゃってる。痛ましいくらいに狼狽えてて、最後にはステージの袖に姿を消してしまった。どうしちゃったんだろう。
結局、クラッカージャックの演奏は中途半端な感じで終わっちゃった。何が起きたのか分からない気持ちの悪さがお客さんにも残っちゃって、後味の悪い印象がついちゃった感じ。ライブの後はあちこちでアッキーを心配したファンが騒いでて、とてもじゃないけど楽屋に行ける雰囲気じゃなかった。でも、気になるよ。アミも、同じ気持ちだったみたい。
「行こう」
アミはそう言って、女の子たちが集まってる裏口から遠ざかった。向かったのは、ライブハウスの中。もうお客さんの姿もなくて、ライブハウスの中はガランとしてる。さっきまであんなに人がいたのがウソみたいに寂しい眺め。
「あ、やっぱり来てたか」
私たちに目を留めて近付いて来たのは、クラッカージャックのギターの人。名前は……確か、馬場くんだったはず。アッキーの幼馴染みで、アミとも仲がいい。
「アッキーは?」
アミが問いかけると馬場くんはため息をついた。それから、ステージ脇の方を振り返る。
「楽屋。すげー荒れてる」
荒れてるって……アッキーが? 自信満々で優しいアッキーしか知らない私には想像がつかなかったけど、アミは馬場くんの話を聞くとすぐに歩き出した。そっか、ステージから楽屋に行けるんだ。どうしよう、私も行こうかな?
まごついてたら、馬場くんが楽屋まで案内してくれた。ステージの裏を通って行くと、すぐに開きっぱなしの扉がある。その中が楽屋になってるみたいなんだけど、私が足を踏み入れるより先にすごい音がした。
「黙ってろ!!」
今の……アッキーの声? 知らない人の声みたいに低くて、すごく怖い。
「行くの、やめとく?」
馬場くんに声をかけられて、ハッとした。私、立ち止まっちゃってる。でもアミもいるんだし、ここまで来て行かないわけにもいかないよね。
馬場くんに続いて楽屋に入ると、アッキーが睨むように振り返った。入って来たのが私たちなのを見て、舌打ちが聞こえてきそうな表情で視線を外す。憤りを堪えられない様子でアッキーは椅子を蹴り倒した。
「くそっ……!」
小さく聞こえた、呟き。目の前にいる男の子は、誰?
「いいから、帰れよ!!」
平然と佇んでるアミに向かって、アッキーが苛立たしげに声を荒げた。怖い。こんなアッキー、見たことないよ。
「マチ、先帰って。あたしは、もうちょっといるから」
私のところへ来たアミが囁くような小声で言った。でも、アミ……。
アミに応えたかったんだけど、唇が震えてて声が出なかった。馬場くんにもアミと同じこと言われて、私だけ楽屋の外に出された。申し訳なさそうな表情をした馬場くんが、扉を閉める。その後に何があったのか、私は知らない。




