第18話
ゆっくりしていってねっていうハルちゃんの言葉通り、私とアッキーはハルちゃんのお店でまったりとした時間を過ごした。最初は硬かったアッキーもすぐに打ち解けて、最後の方はハルちゃんだけじゃなく常連のお客さんとまで仲良くなってた。まあ、ハルちゃんのお店に通う人は音楽が好きな人ばっかりだから当然と言えば当然かもね。
「すっげー楽しかった。また誘えよな」
ハルちゃんのお店からの帰り道、私を送ってくれながらアッキーはずっとはしゃいでた。ハルちゃんのお店、すごく気に入ってくれたみたい。一緒に行った人がアッキーで良かったなぁ。
アッキーが楽しそうな顔をしてくれるたびに胸の中が嬉しさでいっぱいになっていく。アッキーが私の好きなもの、好きな場所、好きな人を、同じくらい好きになってくれるからかな。本当に嬉しくて、この気持ちをどうにかしてアッキーに伝えたいよ。
「……何だよ?」
あんまりにもじっと見てたからか、アッキーの顔から笑みが消えちゃった。照れくさそうにしてるアッキーもカワイイんだけど、また楽しそうな顔を見せてくれないかな。どうしたら笑ってくれるだろう?
「そんな、じっと見んなって」
今度は困ったような苦笑になっちゃった。なかなか、さっきみたいに笑ってくれないなぁ。それなら、くすぐっちゃえ。
「わっ、バカ! 何すんだよ!!」
脇腹をくすぐったら、アッキーは過剰なくらい身を引いた。コートの上から触ったのに、そんなにくすぐったかったのかな? こうされるの弱いんだね、アッキー。弱点、発見。
「なんだ、その不穏な微笑みは?」
アッキー、見たくないものを見るような目で私のこと見てる。そんな反応されちゃったら遊ばずにはいられないよ。えい、もう一回触っちゃえ。
「待て! バカ、やめろって!!」
うろたえて逃げ回るアッキー、カワイイなぁ。でも三度目になると触らせてくれなくて、手を拘束されちゃった。アッキーの手、あったかい。いじめるのも楽しいけど、こういうスキンシップもいいなぁ。
「次やったらどうなっても知らないからな」
そんなこと言われちゃったけど、手を捕まえられてるからもう出来ないよ。手を離す様子もないから、よっぽど脇腹をつつかれるのがダメだったんだね。うん、脇腹を触るのはもうやめるよ。
「別の場所なら触ってもいい?」
「触りたいのかよ?」
「うん。腕とか顔とか髪とか、触りたい」
「……頼むから、やめてくれ」
アッキーに頼まれちゃった。弱ったような顔してるけど、アッキーはスキンシップ嫌いなのかな? でも嫌がってるようには見えないんだけどなぁ。
「そんな風に見るなって」
「どうして?」
「困るから!」
あ、そっぽ向いちゃった。そっか、アッキーは困ってたんだ。困らせるのは良くないと思うんだけど、見たいよ。アッキーのこと、見てたい。
あ、また。気持ちと一緒に体が動き出して、気がついたらアッキーの腕をとってた。手をつなぐより、こうしてる方があったかいな。それにアッキー、いい匂いがする。
「アッキーの部屋の匂いがする」
「部屋の、におい?」
頭の上の方からアッキーの訝しげな声が降ってきた。腕を組むのもいいけど、こうしてると顔が見えないなぁ。アッキーの顔見たいから、ちょっと離れよう。
「アッキー、香水つけてる?」
「あ? ああ、まあ……」
それまでぼんやりしてたのか、アッキーはハッとしたように私から目を逸らしながら頷いた。やっぱりこれ、香水の匂いだったんだ。控えめで、いい香り。でもちょっと離れると香りが届かなくなる。もう一回、傍に行っちゃおうかなぁ。
「もう勘弁してくれ。近付くな」
私が何考えてるのか見抜かれちゃったみたいで、行動を起こす前にクギをさされちゃった。うーん、残念。でもアッキーが余裕のなさそうな顔してるから、遊ぶのはもうやめておいた方がいいよね。
「ちゃんと、分かったのか?」
「うん?」
「……ぜってー分かってないな?」
「何のこと?」
「もういい、分かった。お前はオレだけ見てろ」
「? うん」
よく分からないけど、アッキーがそう言うなら見るよ。私は言われた通りにしただけだったのに、アッキーはやっぱりため息をついたのだった。