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for a girl  作者: sadaka
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第17話

 文化祭は特にバイトも入らなくて、アミと食べ歩きをして満喫した。でもアッキーも結局歌わなくて、去年に比べたら少し楽しさが減った感じだったかな。本当に何事もなく、フツウに過ぎたって感じだった。

 普通と言えば、避けられてたりしたのが嘘みたいにアッキーと二人でどこかへ行く機会が増えた。アッキーから誘ってくれたり、私から誘ったり、それを繰り返してるうちに二人でいるのが自然なことになりつつある。アッキーと一緒にいるのはすごく楽しいんだけど、なんだか不思議。いつかアッキーが私のことを「空気みたいなヤツ」って言ってたけど、私にとってもアッキーは空気みたいな存在だったのかな。

「もうすぐクリスマスだな」

 クリスマスカラーに染まってる街を並んで歩きながら、アッキーが言った。そう、もうすぐクリスマスなんだよ。文化祭が終わったのがついこの間だったはずなのに、時間が経つのが早すぎる。

「アッキーは今年もライブ?」

「ああ。恒例みたいになっちまったからな」

「またチラシ、配るの?」

「もうできねーよ。この辺りじゃオレら、顔売れすぎてるから」

 自信満々な口調で言って不敵に笑ってみせるアッキーは、最近私服で出歩く時はサングラスをかけるようになった。なんか、芸能人のお忍びみたい。でもトレードマークのツンツン頭は休日でも変えないから、見る人が見れば分かっちゃうと思うけど。

「もちろん、来るよな?」

 出た、有無を言わせぬアッキー節。でも正直に言うと、実はあんまり行きたくない。学校で皆と一緒にいる時やこうして二人でいる時はいいんだけど、ライブハウスに行くとアッキーが遠い。クラッカージャックで歌ってる時のアッキーが、普段は見せないような表情をするからなのかな。寂しくなっちゃうんだよね。

「何だよ? まさか先約があるとか言わないよな?」

「うーん……どうだろう」

 もしかしたら今年も、ハルちゃんに手伝いを頼まれるかもしれない。クリスマスは常連さんを集めてパーティーやるから、忙しいみたいなんだよね。去年の経験で、人手が足りないのはよく分かった。

「……そういえばお前、去年のクリスマスはどこかに泊まったって言ってたよな。先約って、そいつか?」

 考え事してたら、いつの間にかアッキーの顔から笑みが消えていた。口調も何故か真剣っぽい。急にどうしたんだろう、アッキー。

「今からそいつのいるとこ、連れてけよ」

「え? 今から?」

「そ、今すぐだ」

 アッキー、白黒つけてやるとか怖い顔でぼやいてるけど、誰と勝負するつもりなんだろう? そういえば、ハルちゃんのお店に学校の人を連れてったことってないなぁ。ターゲットにしてる年齢層が違いすぎるから好みが合わないかなって思ってたけど、アッキーなら大丈夫だね。なんたって、ジャン=ジョエルが好きなんだから。

「いいよ。行こう?」

 自分から行きたいって言い出したくせに、アッキーは驚いたような顔をした。わかんないなぁ、その反応。しかもちょっと及び腰になってるのは、どうして?

「いいのか?」

 真面目な感じでそんなこと訊かれたけど、いいも悪いもないよ。でもその後に「期待して」って言われたから、アッキーが何を言いたいのかやっと分かった。もちろん、大いに期待してよね。

 ショッピングを切り上げて、私とアッキーはハルちゃんのお店に移動した。ランチタイムは外れてたから、他にお客さんの姿もない。良かった、今はヒマみたい。

「マチじゃない。いらっしゃい」

 カウンターの向こうから出てきたハルちゃんが笑顔で迎えてくれた。だけどハルちゃんの視線は、すぐに私から外れて移動する。その視線の先には呆気にとられてるアッキーがいる。

「お友達を連れて来るなんて珍しいわね」

 ハルちゃんの顔、興味津々って感じだなぁ。きっと色々と想像を巡らせて楽しんでいるんだろうから、早く紹介しよう。

「同じ高校に通ってる、アクツアキトくん。ジャン=ジョエルのライブに一緒に行った人だよ」

 ジャン=ジョエルの名前を出すとハルちゃんは納得したように頷いた。ハルちゃんへの紹介が終わったから、今度はアッキーにハルちゃんを紹介しないとね。

「アッキー、この人は前田晴美さん。私の従兄弟。ジャン=ジョエルのプラチナチケットを譲ってくれた人だよ」

 呆然としてたアッキーも、そこでハッとしたように頭を下げた。アイサツで頭下げるなんて大袈裟だなぁ。まだアッキーの表情が硬いけど、ハルちゃんとは話が合いそうだから打ち解ければ仲良くなれるよね。

「マチ、テーブル席に座ってなよ。あったかい飲み物出してあげるから」

「うん。ありがとう、ハルちゃん」

 ハルちゃんがカウンターの中に戻って行ったから、私はアッキーを促してテーブル席に座った。サングラスをとったアッキーは店内を見回して、物珍しげな顔してる。こういうお店、他ではあんまり見ないもんね。

「去年のクリスマス、ここにいたのか?」

「うん。人出が足りないからって、ハルちゃんに手伝いを頼まれたの」

「なんだよ。オレは、てっきり……」

「てっきり、何?」

「……何でもねぇ。それより、いい雰囲気の店だな」

「期待して良かったでしょ?」

 喜んで頷いてくれるかと思いきや、アッキーは複雑そうな表情を浮かべた。あれ? 期待したほど良くなかったかな?

「シュミ、合わなかった?」

「そうじゃ、ねぇだろ」

 はあああ〜ってため息を吐いて、アッキーはグッタリしちゃった。でもハルちゃんが飲み物を持って来てくれたのを見て、すぐに姿勢を正す。挙動不審っぽいよ、アッキー。

「ありがと、ハルちゃん。リクエストもしていい?」

「いいわよ。マチの聞きたい曲、かけてあげる」

 微笑みながら頷いて、ハルちゃんは私の聞きたい曲も尋ねずに蓄音機に向かった。古いレコードに針が落ちて、アコースティックギターの音色が流れ出す。ジャン=ジョエルだ。さすがハルちゃん、分かってるね。

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