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for a girl  作者: sadaka
11/28

第11話

 アッキーがずっと忙しそうにしてるからあんまり皆で集まることもない日々が続いて、梅雨に入った。今日も雨。昨日も雨。一昨日も雨。その前の日も雨。別に雨が嫌いなわけじゃないんだけど、こう雨の日が続くとお日さまが恋しくなってくるよね。

 今年も担任の若槻先生に頼まれごとして居残った放課後、ふと屋上に出てみようかなって気になった。校舎の窓からすでに雨模様が見えてるんだけど、何となく。雨が続いてるからしばらく屋上にも行ってないなぁと思って。まあ、行ったからって何があるわけでもないんだけど。

 そんなかるーい気持ちで屋上に出たら、アッキーとバッタリ会っちゃった。屋上の扉の横っちょの、屋根があって濡れないところに座り込んでる。声かけようかなと思ったけど、アッキーの表情が冴えないものだったからやめた。こういう雰囲気を醸し出してる時はロンリータイムなんだよね?

 すぐ傍にいるけどアッキーの存在は消し去って屋上から見る風景に意識を向ける。どんよりと重い雲が垂れ込めていて、小雨がシトシト降ってるなぁ。空気は湿気が多い。もうすぐ夏って感じだね。

「またシカトかよ」

 あ、アッキーが話しかけてきた。ってことは、ロンリータイム終了なんだね? でもアッキー、まだ冴えない顔してる。何かあったのかな?

「お前ってさ、空気みたいなヤツだよな」

 そんな、苦笑いしながらビミョウなこと言われても。アッキー何か変だけど、とりあえず会話に応じてみよう。

「私、そんなに存在薄い?」

「そういう意味じゃなくて……なんつーか、変」

 ……「なんつーか」の意味が分からないよ。ハッキリ「変」とか言ってくれてるじゃん。しかも私の顔見て、アッキーは笑った。

「変って言うより不思議って感じか。一人になりたい時に誰かが傍にいるってイヤなんだけど、お前だったら気にならない。何でだろうな?」

 ああ、なるほど、それで「空気みたい」なのね。でもそれ、存在感がないっていうのと何が違うの? 違いは分からないけど、何でアッキーがそう感じるのかは何となく分かるよ。

「それはね、私もアッキーをシカトしてるからだよ。たぶん」

「無視すんな!」

 いきなり怒鳴られたからビックリして後ずさっちゃった。だってアッキー、真面目な顔のまま言うんだもん。

「あ? 悪ぃ。怒鳴るつもりなんてなかったんだけど」

 独り言みたいに言って、眉根を寄せたアッキーは中空を見てる。首も傾げてるけど、そうしたいのは私の方だって。ビックリしたぁ。

「あ、あのね、アッキー……」

「そんな怯えた声出すなよ。悪かったって言ってんだろ」

「ああ、うん。それはもういいんだけど」

「……いいのかよ」

「え? ダメなの?」

 自分でも何が何だか分からない発言をしちゃったもんだからアッキーも黙り込んじゃった。でもすぐ、アッキーは顔を背けて吹き出す。良かった、機嫌直ったみたい。

「ああ、もういいよ。で、何言いかけたんだ?」

「あ、うん。さっきの話なんだけど、一人になりたい時って誰にでもあるじゃない? なんとなくアッキーがそういう感じの時って分かるから、それなら無理に話しかけなくてもいいなぁと思って」

 シカトとか無視って言うと聞こえが悪いけど、別に険悪な仲だからそうしてるわけじゃないし。分かってもらえたかなぁと思ってアッキーの顔を覗き込んだら、笑ってた。良かった、ちゃんと通じたみたい。でも少し困ったような表情になってるのは何故?

「分かった分かった。空気読んでる、ってことだな」

 そんな大層なこと考えてたわけじゃないけど、ま、いっか。アッキーがそう解釈したんだったら、そういうことにしておこう。

「たまに屋上で会うけど、お前は何しに来てるんだ?」

 そうやって質問されると答えに困るなぁ。特に何かをしに来てるってわけじゃないし、何となくブラブラしてるとしか言い様がない。目的っていうものがあるんだとしたら、それはたぶんアッキーと同じだとは思うけど。

「このくらいの時間帯だと誰もいないから、かな? 私も一人になりたかったのかもしれないね」

「……それで、オレの存在を簡単に消し去っちまうってわけだな?」

「あー、そうかもね」

「よく、分かった」

 真面目な口調で言って、アッキーはすっと立ち上がった。あれ、なんか、また怒ってる? 真顔のまま見据えられるとちょっと怖いよ。

「つまり、お前にはオレの努力がちっとも伝わってなかったってことだな」

 努力って……何の話? しかも伝わってなかったってどういうこと? アッキーは私に何かを伝えようとしてたの? それって何? 疑問が多すぎて理解が追いつかないよー。

「お前、まだオレのライブ見たことないだろ? 次はぜってー来い」

「え、うん。急な予定が入らなければ行くつもりだけど」

「急な予定が入っても来い。来なかったらシメる」

「ええっ? 何で?」

「何でもだ。分かったな?」

 念を押して、さらに私を睨んでからアッキーは屋上を去って行った。去り際に「ぜってー泣かしてやる」とか言ってたけど、何で? 一体どうしちゃったのよ、アッキー。

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