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輸送船ヴィクトリア号

作者: 田中

初投稿です。色々拙い部分や矛盾点等あるとは思いますが、生暖かい目で見ていただければ有難いです。

銀河系の外縁部、星々の光も少なく暗い宇宙、その暗闇の中に突如光が溢れる。

ジャンプドライブ特有の煌めきの中から一機の宇宙船が姿を現す。

どうやら輸送船のようだ。

機体の側部にFTS(Frontier transport service)と社名ロゴが刻印されている。


社員は二人、代表者は黒髪ショートの女で名前はセラ。

左目は機械の義眼で一見して黒い眼帯をしているように見える。

首からゴーグルを提げ、軍放出品の戦闘服を着ている。

戦闘服には後付けで左腕上腕部に社名ロゴのワッペンが縫い付けられている。


副代表は金髪童顔の男、名前はジャック。

身長はそこそこあるが痩せており、ヒョロイと表現するのが一番わかりやすい。

彼も同じくゴーグルを提げ戦闘服を着用していた。


二人は主に辺境の開拓惑星に食料の他、生活必需品を届け、そこで産出された物資を受け取り運送拠点に運ぶ事を生業にしていた。


「目的地まで後どれ位。」


コクピットの入り口からセラが訪ねる。

この辺りは謂わば、ど田舎だ。

海賊のような物騒な連中はいないし、オートパイロットに任せっきりでも問題はないのだが、二人は何方かが必ず操縦席に座るようにしていた。

操縦席に座ったジャックが返答する。


「大体一時間ってところかな。」

「それまで仮眠するわ。」

「OK。」


そう言うとセラは輸送船ヴィクトリア号の自室に引っ込んだ。


ベッドに横になり二年前の事をふと思い出した。

セラとジャックは元軍人だ。セラは地上白兵戦部隊の出身、ジャックはその部隊の情報収集を担当する部署にいた。

ある惑星でクーデターが起りその鎮圧のため部隊が派遣された。

戦闘は苛烈を極め、部隊の半数近くが帰らぬ人となった。


セラも戦闘で左目を失い前線本部に何とか帰投したのだが、その後本部が爆撃を受け壊滅。

その際、情報収集担当だったジャックは右足を負傷し動けずにいたところをセラに発見された。

ジャックは自分を置いて行けとセラに言ったのだが、セラは頑として聞き入れず、まだ動く車両を調達し急遽作られた仮司令部まで搬送した。

その後、二人は後方に送られ、病院で目と足を機械化することで再建し戦闘行動も問題なく行えるレベルにまで回復した。


その間にクーデターは鎮圧され内乱は終結したのだが、戦争に嫌気がさしていたセラは除隊資格も満たして事もあり軍を去ることにした。

ジャックも「付き合うよ。」と軽く言い。

二人は退職金で軍放出品の型遅れの輸送船を買い運送業を辺境で始めたのだ。



一時間後、ヴィクトリア号は目的の惑星ホープの衛星軌道上にいた。

海の青と、大地の緑に彩られた美しい星だ。

惑星ホープは最近発見されたばかりの星で大気の状態が地球に酷似しておりテラフォーミングなしでも入植可能な星だった。

しかし地球から遠くあまり開発は進んでおらず、現在は政府の管理用無人施設と、地下資源採掘及び植物資源採取の目的で民間の基地が一つ存在するのみという状況だ。


「こちら、FTP セラ、ホープ第一採掘基地、応答願います。」

「こちらは採掘基地ナビゲーター アレンです。ご用件をどうぞ。」


管理コンピュータであるナビゲータのアレンが返答してくる。


「定期便を持ってきた確認をおねがい。」

「定期便スケジュール確認しました。採掘基地第三ポートに着艦して下さい。」

「了解。これより着陸シークエンスを開始する。」


セラとジャックはそれぞれの席に座り操縦桿をにぎる。

ヴィクトリア号は大気圏に突入、緑の草原が地平線の向こうまで広がっている所々に森が点在している。

しばらく飛行すると今回の目的地であるホープ第一採掘基地が見えてきた。


一番大きな半球形ドーム型の建物を中心として放射状に二回りほど小さい建物が点在おり、それぞれはパイプ状の通路でつながっている。

中央部が管理棟で施設の管理を一手に担っている。

中央部のドームの一部にせり出した着艦ポートに着陸する。


着艦後、ポートから物資搬入口へ自動で移動が完了し、輸送品の搬入作業が行われる。


セラとジャックは輸送品の確認作業のためエアロックを抜けてヴィクトリア号から採掘基地の搬入管理室に向かった。


管理室に向かうと二人は様子がおかしいことに気が付いた。

いつもなら定期便が来ると担当の人間が対応してくれるはずなのだが、誰もいない。


「ジャック、アレンに確認して。」


ジャックが管理室コンソールを操作しアレンにコールした。


「こちらFTS ジャック、アレン搬入担当がいないがどうなっている?」

「現在人員不足のため搬入作業担当者は割り当てられておりません。」

「人員不足? この基地にはは百人くらいいたはずだろ。アレン、シェルターの現在の人員数は何人だ。」

「権限が不足しているためそのご質問にはお答え出来ません。」

「コントロールルームに行かないと、この端末からじゃ詳細な状況は把握できそうにないね。」

「シェルター内の様子は見れる?」

「そのくらいなら何とかなるかも。」


ジャックがコンソールを操作しシステム内部に侵入した。

監視カメラを呼び出す。


「そっちに送るよ。」


セラの左腕に装着した個人デバイスにカメラ操作権を移譲する。

セラは確認のためにゴーグルをつける。


「OK、確認したわ。」


ゴーグルに施設内部が表示される。


「ッ!!」


思わず息をのむ。

施設内は静かだった。

監視カメラを操作して周りを見渡すが生きている人の姿を確認できない。

所々に血の跡が映し出される。

幾つかカメラを切り替えたがどれも同じような光景だった。


「…施設内のマップ情報が必要ね。」

「セラ、コントロールルームに行くのかい?」

「何かが起きてる、このまま放っては行けないわ。」

「普通は引き返して然るべき筋に報告するのが基本だけどねぇ。」

「ジャック…」


セラがゴーグル越しにジャックの目を見つめる。


「了解…」


ジャックがコンソールを操作する。

デバイスにマップ情報が送られてきた。

施設の中央がコントロールルームのようだ。


「付き合うよ。」


ジャックはやれやれといった調子で軽く答えた。


「…ありがとう。」


二人はいったんヴィクトリア号に戻り装備を確認する。

デバイスからの情報を表示するゴーグル、アサルトライフル、腰にハンドガンとスタン機能付きのナイフを装備し、物資搬入庫を抜け、管理棟中央のコントロールルームへ向かった。


途中、隔壁が降りている個所はジャックがハッキングで開けていく。

彼は元々ハッカーで軍のコンピュータに侵入したことで目をつけられスカウトされた経歴を持っている。

民間施設のドアのハッキングぐらいはお手のものだ。


程なく二人はコントーロールルームに到着した。


ジャックがメインコンソールを操作し管理官としてセラとジャックを登録しアレンを呼び出す。

ディスプレイに金髪でオールバックの男性が映し出される。


「アレン、基地の現在の人員数は何人だ。」

「はい管理官、現在生存が確認されている人員は0名です。」

「0名!?アレン、詳細情報を表示してくれ。」


コンソールに作業員の名前、顔写真、担当部署が表示される。

全員の名前の横に死亡と表記されている。


「全員死亡!?」

「アレンどういうこと、なにがあったの!?」

「状況説明を開始します……


五日前、宇宙船と思われるものが基地から北東二百キロの地点に墜落。

通信で呼びかけましたが応答はありませんでした。


衛星監視システムからの映像では宇宙船らしいものは確認できましたが詳細は不明でした。

何らかのトラブルが発生し航行不能になったため急遽不時着したと結論付け、調査チームを組織し現地に向かいました。


到着した調査チームは宇宙船らしきもの発見。

その後の調査で船内には戦闘の痕跡が多数見られることと、コールドスリープ状態の生命体を発見したと報告が上がりました。」


「生命体!!」


ジャックがたまらず声を上げる。


「…説明を続けます。

スリープ装置の調査中、チームの一人が装置に触れたところ、突然装置が動き出し生命体のコールドスリープが解除されました。

生命体は生命活動に支障はないようでしたが意識がない状態でした。

より詳細な検査をするべく別動隊を派遣し対象を基地のラボに搬送。

ラボにて精密検査中、未確認の生物が通気口より基地内に侵入、警備班が応戦しましたが数が多く対処しきれず撤退。

その後、生存者で対処を試みましたが弾薬等の不足により居住区画に追い詰められました。

該当個体のコールドスリープが解けたことが原因と考え、確保した個体をコールドスリープ処理をおこないました。

しかし生物は攻撃を続行、施設内の職員は徐々に追い詰められ最終的に全滅しました。

生物は基地内を徘徊して死亡した職員及びこちらが殺傷した未確認生物の残骸を捕食し、基地から引いていきました。」

「うぇ…共食いかよ。」


ジャックが気持ち悪そうに口を押えている。


「衛星監視システムからの映像で確認しましたが、現在は墜落した宇宙船近くに集まっています。

なお宇宙船の調査チームもその過程で生物に襲われ通信が途絶しました。

バイタルサインを確認できないため、全滅したものと思われます。

推測ですがコールドスリープにより、確保個体の生命反応を検知出来なくなったため去ったのではないかと考えます。」


「このことは本社には報告してるの?」

「いえ、管理者不在のため意思決定がなされず本案件は保留されています。」

「アバターは人の姿なのに融通が利かないわね。」

「コンピューターはそういうもんだよ。自由意志を持つほうが怖い。」


少し考えこんだ後セラはディスプレイに問いかける。

「アレン コールドスリープされた個体はどこにいるの?」

「やっぱそうなるよねー。」


「居住区画中心部、隔壁内コールドスリープ施設です。マップを表示します。」


ディスプレイにマップが表示される。

管理棟から北西の建物が居住区画のようだ。


「アレン、今回襲撃してきた未確認生物の情報を頂戴。」


コンソールに生物の情報が表示される。

1メートル程の大きさで形は蜘蛛型、タランチュラに似ている。

動画では数十匹程が施設内を這いまわり人間を攻撃していた。

データベースを確認するが、現在までにこの星で観測された物の中に類似しているものは見当たらない。


セラはコンソールから個人デバイスにマップ及び生物の情報をコピーした。


「居住区に行くわ。」

「待ってくれ、アレンの話じゃ生命反応を感知するんだろ、もう僕たちも補則されてるかもしれない。」

「アレン、監視システムの映像に変化はある?」

「現在目立った動きはありません。」


セラがジャックを見つめる。


「…わかったよ、君には借りがあるしね。」

「ありがとう…。」


デバイスからゴーグルにマップ情報を表示する。

管理棟を抜け居住区にむかう。

施設自体は破壊されていないが、遺体が至る所に点在している。

管理棟と居住区をつなぐ通路隔壁前でアレンにコールする。


「アレン、隔壁をあけて。」

「了解しました管理官。」


通路をぬけて居住区へ進む。

二人はライフルを構えお互いに死角を補いながら先を急いだ。

道中でも血の跡が散乱している。


居住区画中心部コールドスリープ装置にたどり着いた二人は装置内を見て啞然とした。


室内にはコールドスリープ装置が10台ほど設置されている。

そして一番右側の装置の中で眠っているのは人に似ているが明らかに人ではなかった


緑色の髪をした人間など見たことはないし何より体を覆っているものは鳥の羽毛のように見える。

肌が露出している部分との境目を見ると服ではなく直接皮膚から生えているのが解る。

年齢は人間の見た目でいえば10歳ぐらいだろうか。

顔立ちは人に似て非常に整っている。


「これは…」


二人は茫然と見つめた。


人類の活動域では文明の痕跡はあるものの、知的生命体は確認されていない。

今まで確認されているものは哺乳類に類似した動物までで、知性を有する生き物との接触は皆無だった。

無論、この眠っている生物に知性があるかどうかまだ解らないが。


眠っている生物を眺めていると、胸元に黒い宝石のようなものが光っているのに気が付いた。

皮膚に直接埋め込まれているようだ。

突然宝石からコールドスリープ装置のガラス越しにセラの左手のデバイスに向けて光が放たれる。


「セラ!」


ジャックが声を上げる。


セラは体に異常がないか確認したのち、デバイスを見る。

デバイスにはメッセージが送信されていた。

メッセージの内容を確認する。


“こちは該当個体のガーディアンプロブラム 生体コンピューター バルでだ 言語のローカライズ 不安定なのす メッセージを確認できたのでしたら受信機を該当個体胸元近くへ掲げよろし”


受信したメッセージをジャックにも転送する。


「セラ、どうするの?」

「やってみる。」


セラはデバイスをガラス越しに胸元の宝石へ掲げる。


先ほどと同じように光がデバイスに放たれる。

しばらくすると光が消え音声通信コール音が鳴った。

ジャックにも聞こえるようにスピーカーモードに変える。


「あ~聞こえるかね。」


どこかで聞いたことのある落ち着いたバリトンが問いかける。


「ええ、聞こえるわ。」

「フム、言語は問題なく通じているようだな。」

「あなたは何者。」

「君はセラだったかな?横にいるのがジャックで間違いないかな?」

「ええ、合ってるわ。」

「先ほど送ったメッセージにも書いた通り生体コンピューターで呼称はバルだ。

君の情報端末から言語情報をコピーしたので大分流暢に話せているはずだが問題ないかね。」


声を聴きながら聞き覚えのある声はセラの好きなある俳優の声だと気付いた。


「貴方、私の私的なデータまで勝手にコピーしたの?」

「悪いとは思ったが、君の端末のライブラリーで一番多く閲覧されていた動画の音声データを拝借した。好きな声で話されると警戒も緩むだろう。」

「そうかもしれないけど本人に言っちゃダメなんじゃない。」

「信用を得るには懐を開かんとな。」

「ずいぶん人間臭いコンピューターね。」


そう返すとバルは軽く笑った。

セラはこのコンピューター「バル」の事を少し気に入り始めていた。


「まあ話は尽きんが本題に入っていいかね。」

「…聞きましょう。」

「結論から言うと私が守っているこの個体を安全な場所まで移送して欲しい。」

「どうゆうこと?」

「君らも映像で見たのではないかね、蜘蛛に似た生物が人を襲っている光景を。」

「ええ、見たわ。」

「あれらは生物兵器でね、目標はこの子だ。」

「生物兵器…。」

「この子は君たちの言葉で表すならメッセンジャーだ。」

「メッセンジャー?」

「見たもの、聞いたこと、匂い、触覚まで本人が体験したままを他の知的生命体と共有できる能力だ。」

「記憶の共有てこと?」

「記憶というよりは追体験に近いかな、情報を多数で共有することにより状況の詳細な解析が可能になる。能力の行使には直接触れる必要はあるがね。」

「それでなんでこの子が狙われるわけ?」

「この子は監視者でね。我々の管理している銀河系に、悪意を持ったものが入り込まないよう監視するのが仕事だ。」

「監視者…」

「ちょっと待ってくれ我々って異性人てこと?!」


ジャックが我慢できずに質問を挟む。


「君らの認識ではそうなるかな。」

「すごい!!ファーストコンタクトだ!!」


ジャックが興奮している。


「あ~話を戻していいかね。」

「ジャック落ち着いて、ごめんなさい。続きをどうぞ。」

「それでだ。そういう者を発見した場合は、その者の情報を出来る限り収集。その後、中央に帰還し分析官に情報を渡すのが役目なんだ。

情報収集は完了して中央に向かおうとしていたんだが、斥候に発見され戦闘になってしまってね。ジャンプドライブで戦闘からは退避できたんだが、その際に被弾したことにより到達座標に大きな狂いが出て君たちの銀河系に来てしまった。

出現ポイントがいきなり恒星の中心ではなかったことは不幸中の幸いだな。」


「君たちの銀河系って?貴方達は別の銀河系の住民なの?!」

「そうだ、此処からだと約三百万光年ほどかな。」

「三百万光年…、安全な場所まで移送して欲しいって言っていたわよね?」

「そうだ。出来れば我々の銀河系まで送ってほしい。無論タダとは言わない、報酬は用意する。」

「無理よ。私たちの持っている輸送船じゃ、どう頑張っても一週間かけて二百光年飛ぶのが精一杯。三百万光年先なんてたどり着けないわ。」

「ふむ。それついては考えがある。我々の船のジャンプドライブ装置を移植すればおそらく可能だ。

君らの宇宙船のデータも見せてもらったが、ジャンプドライブ装置のシステムはそう変わらない。エネルギー効率と出力の違いだけだから流用は問題ないだろう。

通常航行用のエンジンは破損してしまいそれでこの星に不時着したが、ジャンプドライブは無傷だった、使えるはずだ。」


セラはしばらく無言になった。


「アレン、宇宙船の周りにあの生物は何匹いるか解る?」

「現在確認できる生物は九十八です。」

「バル、貴方達の宇宙船はあの蜘蛛に囲まれている。ジャックが協力してくれたとしても二人で生物を排除して宇宙船までたどりつくのは難しいわ。」

「セラ、協力してくれたとしてもって…。悲しいぞ僕はいつだって君の味方だ。」

「はいはい、愛してるわ。」

「…うぅ…、軽い…」


ジャックは少しうなだれている。


「情報を提供しよう。我々の船が被弾した際の状況だ。生体兵器は敵斥候が打ち込んできた弾頭内に配備されていた。

弾頭は左後部エンジン区画の外殻を破壊、その後弾頭の先端部分が開き蜘蛛型兵器が多数侵入、通常航行用エンジンの動力制御設備を破壊した。

おそらく敵の船に打ち込み白兵戦を仕掛けることが目的の兵器だったのだろう。

我々宇宙船のクルーがこの子をコールドスリープした後もしばらく蜘蛛は船内を捜索していた。

その際に気づいたのだがどうやら特定の生体反応を検知して襲ってくるようだ。

メッセンジャーであるこの子の生体反応には過敏に反応する様だが、それ以外のものについてはそこまでではない。

クルーが全滅させられたのは応戦して敵認定されたことが原因のようだ。

君らの基地が攻撃を受けたのも、この子を保護したあと応戦したことが理由だろう。

あと蜘蛛自体はそれほど広域を探査できないようだ。弾頭が広域を探査し兵隊である蜘蛛が指定地域を調査する。」

「生体反応を感知、アレンの推測は当たってたみたいね。弾頭が文字通り頭って訳ね、弾頭をどうにかすれば動きを止められるのかしら。」

「おそらくね。弾頭自体に攻撃力は無い様だ。爆発物等も設定されていない。メッセンジャーの確保が目的だったのではないかな?

構造もある程度船の機器でスキャンしてある。君らの武器では破壊は難しいが手はある。」

「どんな方法?」

「我々の船の兵装を使おう。空間圧縮弾、所謂、重力兵器でね指定した範囲内に超小型のブラックホールを作り出す。

防御力を無視して有効範囲を抉り取ることができる。」

「そんなもの使って大丈夫なの?」

「反応後ブラックホールは一瞬で消滅する、範囲を絞って使えば問題はないだろう。今はミサイルに搭載されているから取り外して、設置型爆弾として改造が必要だな。船の工作室を使えば可能だろう。」

「どうやって近づくかが問題ね。」

「協力してくれるのか?」


バルが少し驚いた声でいった。


「そのつもりで話していたんじゃないの?」

「まあそうなんだが、報告だけして政府に任せることも可能ではないのかな?」

「この星からじゃ報告が中央に届くまで何か月もかかるわ。それに政府が関与してくれば宇宙船もこの子もあなたも研究対象として扱われるでしょうね。

別の銀河まで飛べるジャンプドライブ装置なんて、開発にこの先年かかるかわからないもの。特に軍はどんな事をしても欲しがるはずよ。」

「そうだろうな。」

「私はもう軍隊や戦争に関わるのは御免なの。だからそんな物騒なものは、気付かれないうちにさっさと出て行って欲しいのよ。」

「ふむ。なるほどな。厄介払いしたいって訳だ。」

「言葉は悪いけどその通りよ。」

「ジャックの意見はどうかね?」

「僕もセラに賛成かな。自分たちで見つけたテクノロジーにさえ振り回されているんだ。幼児にミサイル発射スイッチを持たすような真似はしたくないね。」

「では全会一致ということでいいかね。」

「そうね、で話は戻るけど何か作戦はあるの?」

「この子がこの基地でコールドスリープされてから暇だったのでね。基地内の装備目録を調べていたんだが、使われていない人型の機械を1機見つけた。中が空洞になっているから乗り込んで使うものじゃないかな?」

「人型の機械?」


セラが尋ねる。

それにジャックが答えた。


「おそらくトレーサーだね、人の動きをトレースして動くパワードスーツだよ。あまり普及しなかったけどね。」

「便利そうじゃない。なんで普及しなかったの?」

「動きにはタイムラグがあるから操作にコツが必要だし、操作する本人も同じ動きをするわけだから疲労も大きい。コスト面でもAI制御のロボットのほうがかなり安価で簡単に運用できるからね。」

「なんでそんなものが開発されたの?」

「元は軍事目的で作られたみたいだよ。人が扱えない銃器や強力な装甲を持った白兵部隊を作れば、一方的に蹂躙できると考えたんだろうね。」

「それでどうなったの?」

「操作にタイムラグがあるって言っただろう、戦闘中に一テンポおくれて動くなんて使い物になるわけないよ。それにサイボーグ技術が進んで全身サイボーグの兵士が出てくると、存在意義が疑問視されて結局お蔵入りになったみたいだよ。」

「なるほどね、でもなんでそんなものが此処にあるのかしら?」

「職員の趣味じゃないかな?こういうの好きな人は好きだから。」

「そういうものかしら。でそのトレーサーをどうするの?」


セラにバルが答える。


「蜘蛛も弾頭も敵と認識したら生体反応を検知して攻撃してくるよう設定されているようだ。トレーサーは完全密閉型で放射線も遮断できるから着込めば生体反応をかなり抑えられる、とりあえずは襲ってこないだろう。危険だがやってくれくるかね。」

「やるわ。」

「感謝する、弾頭を破壊できれば敵を無力化できると思う。とりあえず船内マップと弾頭構造のデータを送ろう。」


送られてきたデータを確認すると宇宙船船内図と尖ったラグビーボールのようなものの構造図だった。


「尖った部分が船体に突き刺さり船体を破壊した。スキャンによると信号は物体中央部、構造図で言うと此処から発信されている。」


構造図データをデバイスで確認すると中央部が赤く点滅している。


「此処を破壊すれば敵は止まるはずだ、まずはミサイルから空間圧縮弾を回収してくれ。」

「わかったわ、やってみましょう。バル、トレーサーはどこにあるの?」

「中央管理棟の地下格納庫だな。」

「地下格納庫ね、OK、ジャック行きましょう。」

「了解。」

「ついて行けないのが心苦しいが。」

「その子を起こしたら発見される可能性があるんでしょ。」

「まあね、この基地の通信設備を利用すれば交信は可能だ。ちょっと待ってくれ。」


バルがすこし黙った。


「船のメインコンピューターにこの基地からコンタクトしてみた。どうやら生きているようだ、ドアの開閉ぐらいならサポートできるよ。」

「ありがと、此処でいい子にしてなさい。」


バルは解ったよと言って少し笑った。

ジャックはハッキングが僕の存在意義なのにとまたうなだれている。


「ジャック!シャキッとしてよ、あなたは私の相棒でしょ。」

「相棒…、そうだね!」

「まったく、世話が焼けるんだから…。」


セラは苦笑しながら小声でつぶやいた。


二人は中央管理棟にもどりマップを頼りに地下格納庫へ向かった。


トレーサーはすぐ見つかった。

大きさは2メートル程だろうか、人型で白い外殻をしている、手を見るとかなり繊細で細かい作業も問題なくこなせそうだ。

腰にはポーチが備えられているが中身は空だった。アサルトライフルのマガジンでも収納するのだろう。

近くにはトレーサーの物と思われる武器も備えられていた。


「ねぇジャック戦闘には使えないんじゃなかったの?」

「こいつは軍用機に搭載するミニガンだね、反応が遅れても弾をばら撒く動く砲台になれる。何とかこいつを使おうとした苦肉の策だね。」

「解ったわ、じゃあ持っていきましょうか。丸腰だとさすがに不安だわ。」


輸送用の車両も置いてあり、荷台部分にはジャックが言っていたコントローラーとトレーサを固定するキャリア、トレーサーを積み下ろすためのクレーンが設けられていた。


ジャックは輸送車のコンソールからトレーサーの状態を確認する。


「セラ、少し時間をくれないか。君の体格に合わせて調整するのと、あとこいつをもう少し機敏に動けるようにいじってみるよ。」

「解ったわ、私は何か使えるものがないか探してみる。」


セラが倉庫の中を物色しているとジャックが声をあげる。


「なんだこりゃ!」

「どうしたの?」

「トレーサーの制御プログラムを見てたんだけど、記述が滅茶苦茶だ。同じ処理が重複してたり、しなくていい処理を何度も実行してたり、これじゃラグが出るわけだよ。」

「なんでそんな事になっている訳?」

「たしかこいつの採用時は他の兵器も一緒に試験されていたはずだから、他社の妨害工作とかじゃないかな?」

「でもそんな簡単にプログラムを改竄できるの?」

「こいつを作った会社は後発の零細企業だったからプロジェクトスタッフも数名だったんだ。脅迫でもされたんじゃない。」

「気分の悪い話ね。」

「憶測だけどね、まあこれならプログロムを修正すれば大分よくなるはずだ」


二時間後、調整をおえたジャックがセラに声をかけた。


「こっちは作業完了だ、万全とは言えないけどかなり快適になっているはずだよ。」

「OK、私のほうは機体に取り付けるグレネードを何個か見つけたぐらいね。」

「了解、そいつを取り付けたら出発しようか。」


グレネード発射装置を機体右肩部に取り付けて調整を終えるとジャックは車両の運転席でコンソールを操作する。

車両のクレーンが動きトレーサーをキャリアに積み込み固定した、ミニガンも車両にのせる。


「バル、蜘蛛の探査範囲の予想はどれぐらいかしら?」

「蜘蛛の探査範囲もはっきりとしたことは言えないが二百メートルぐらいが限度だろう。」

「余裕をもって宇宙船から二キロ地点で作戦を開始しましょう。」


そう言ってセラは輸送車に乗り込んだ。


「了解、んじゃ出発するね。」


ジャックがハンドルを握り輸送車を発信させた。

格納庫のスロープをのぼりアレンに出口のシャッターを開けさせる。


輸送車は調査チームがつけた轍をたどり宇宙船へ向かった。

半日ほどかけて宇宙船まで二キロ距離まで到達した。

宇宙船が確認できる。

確かに私たちのものとは異質のデザインだ。

丸みを帯びた四角錐をしている。外殻は艶のない黒だ後部にエンジンと思われるノズルが見える。


セラは輸送車に備え付けの個室で専用の黒いスーツとヘッドマウントディスプレイを装備した。

スーツは動きを阻害しないように体にフィットする作りだ。

スーツを着たセラを見てジャックが口笛を吹く。


「いいね、よく似合うよ。」

「うるさい!こっち見るな!」


セラは顔を赤してジャックの視線から逃げるようにトレーサーに乗り込みシステムを起動させた。

ヘッドマウントディスプレイにメインカメラの映像の他、各種情報が表示される。

ジャックがクレーンでトレーサーを地面におろす。


「セラ、聞こえる。」

「ええ、聞こえてる。」

「動きに問題はないかい?」

「言ってたみたいなタイムラグはほぼ感じないわ。」

「プログラムの修正はうまくいったみたいだね、あと動きを学習するように設定したから動かせば動かすほど馴染んでくると思うよ。」

「ちょっと動かしてみる。」


セラはそういうとトレーサーを動かし始めた。

歩いてみると地面の凹凸を拾い足にフィードバックされる。

先ほどジャックに言ったようにタイムラグはほぼ感じない。


「あまり時間もかけていられないわね。行きましょうか。」


セラは輸送車からミニガンを持ち上げ装備する。

弾丸はトレーサーの背中のキャリアに搭載可能なバックパックから給弾ベルトで送弾される仕組みだ。


「了解、慎重にね。」


トレーサーを操り宇宙船に近づくとあちこちに蜘蛛がいる。

宇宙船を中心に半径百五十メートルぐらいの空間に十匹程が一グループとなり点在している。

アレンの話では確認されたのは九十匹、十グループに分かれている計算になる。


トレーサーが近づいても蜘蛛は反応しなかった。

そのまま宇宙船に近づく左後部のエンジン近くにデータで見たラグビーボールが刺さっていた。


「バル、聞こえる。」

「ああ、聞こえている。」

「宇宙船に到着したわ。どこから入ればいいの?」

「君らの調査隊が開けた穴が左側中央部にあるはずだ。」

「あったわ。」

「まずはミサイルまで行こう、道はこちらでナビゲートする。隔壁も遠隔操作で開けるはずだ。」

「至れり尽くせりね。」


船内は閑散としている。基地と同じで動くものは見当たらない。

戦闘の痕跡と、血痕だけが残っていた。

セラの操るトレーサーはバルの案内のお蔭で迷う事無くミサイル格納庫にたどりついた。


「さて、どうしましょうか?」

「ミサイルから空間圧縮弾を取り外してくれ。やり方はこちらで指示する。」

「了解。」


セラはバルの指示をうけてミサイルの一器から弾頭に設置されていた圧縮弾を取り外す。

大きさは直径15センチ長さは40センチほどだ。

中心部にクリスタルのようなパーツがはめ込まれていて、バルの説明ではこれが接触信管でミサイルの外殻からの信号により起爆する仕組みだ。


「手に入れたわよ。これをどうやって設置型に改造するの?」

「現状は接触信管になっているから、これに通信機を取り付け疑似的に遠隔操作爆弾に改造する。船内の工作室に向かってくれ、材料もすべてそこで手に入るはずだ。」

「了解。」


セラは船内マップとバルの案内で工作室に向かった。

工作室で圧縮弾を工作機にセットする。


「後は任せてくれ。」


バルはそう言うと遠隔操作で工作機を操り通信機を取り付ける。


「作業終了だ。圧縮範囲指定も変更しておいたから、正確に弾頭のみを排除できるはずだよ。」

「あとはこれを弾頭にセットして退避するだけね。」


一息ついたところで輸送車で待機していたジャックから無線が入った。


「セラ!外の蜘蛛が動き出している!今はまだ大きな動きじゃないけど宇宙船に近づいてる、急いでくれ!」

「どうして?!」


それにバルが答える。


「生体反応を抑えれれても動きは認知されているからな、確認に来たというところか。弾頭に本格的に敵だと知られる前に作戦を決行しよう。」

「弾頭までの安全なルートを提示して頂戴。」

「了解だ。蜘蛛を迂回して接近しよう。」


セラは圧縮弾を回収し、トレーサーの腰にあるポーチに収納して弾頭を目指し船内を移動する。

船内を駆け抜けなんとか弾頭がある宇宙船左後部に到着した。

エンジン区画はかなり広い。天井は二十メートル、左右奥行きは五十メートル程あるだろうか。

制御用の装置が並んでいるがほとんどが無残に破壊されている。

弾頭は船体外殻を突き破り斜めに刺さっている。


「バル、弾頭を確認したわ。どうすればいい?」

「蜘蛛が出てきたハッチがあるだろう。そこから内部に入って出来るだけ中心部に圧縮弾を設置してくれ。」

「了解。」


内部に入ろうとセラがハッチの縁に手をかけた瞬間、弾頭が鳴動した。

セラは思わず後退する。

船体を貫いていた先端部分が大きく開き船を引き裂いていく。

弾頭は先端部が八つに分かれ足になり後部の楕円が胴体部になった。

十メートル程の蜘蛛型変形した。船内に侵入してくる。

姿は足が長く絡新婦のような形だ。


「親蜘蛛って訳ね…。」

「まさかこんな機能があるとは…。」


バルが絶句している。


セラはミニガンを掃射した。砲身が回転し弾がばら撒かれる。

少し怯んでいるようだが、ダメージを受けているようには見えない。


「全然効いてないわ!」

「なんとか動きを止めて圧縮弾をセットしてくれ。」


バルの声に焦りが感じられる。


「動きを止めるってどうやって?!」


親蜘蛛には遠隔武器は無い様だ。

こちらに近づき足を振るう、かなり素早く避けきれず吹き飛ばされる。

衝撃でメインモニターが真っ黒になった。


「ジャック!!モニターが死んだ!!」

「セラ!落ち着いて、こっちで確認したが伝達系のトラブルだ。大丈夫、輸送車を中継基地にして直接君の義眼に信号をおくる。」


ジャックの言葉通り左目にメインカメラの映像が映し出される。

片目だと遠近感が掴みづらく、右側の死角が多いが贅沢は言ってられない。

トレーサーの状態を確認する。

動きに影響はないが、攻撃を受けた左肩のアーマーは弾き飛ばされていた。

まともに食らえば終わりだろう。セラの額に汗が伝う。


「セラ!?どうだ!!」

「ありがとうジャック、映像は回復した。万全じゃないけどやってみる。」

「攻撃方法についてはこっちでも考えてみる、何とか持ちこたえてくれ。」

「ラジャー。」


セラは何とか凌いでいるが、あまり時間は掛けられない

ジャックは輸送車の中で宇宙船の構造図を見ながら必死で考えていた。


「バル!エンジン区画の消火設備はどうなっている?!」

「窒素を室内に充満させる方式だ。」

「じゃあ窒素タンクがどこかにあるな。」

「ああ区画の隅にタンクが設置してあるが…」

「船内マップに位置を表示してくれ。」


ジャックが無線越しにセラに支持を送る。


「セラ、装備中のグレネードは燃焼グレネードだ。三千度以上の高温を発する、その後、窒素タンク内の液化窒素をぶちまければ急激な温度変化でダメージを与えられるはずだ。難しいがやってみてくれ。」

「了解、まずはタンクを回収するわ。」


セラは親蜘蛛をミニガンで牽制しながらタンクを手に入れるべくマップに表示された場所へトレーサーを走らせた。

タンク自体は簡易的に固定されているだけだったので、二本あった内の一本をトレーサーの力で引きはがした。


「グレネードを使うわ。」


セラは振り返り、接近してくる親蜘蛛にむけてグレネード打ち込んだ。

親蜘蛛の胴体中心で炸裂し、炎が親蜘蛛の全身を包み込む。

センサーにより蜘蛛の装甲温度が急激に上昇しているのが観測された。

しかし動きに衰えはなく、変わらないスピードで接近してくる。


セラはミニガンで残っていたもう一本の窒素タンクを打ち抜く、爆発的にガスが噴出し視界を塞いだ。

どうなるかは賭けだったが目くらましは効いたようだ。ガスの影響でこちらの位置を見失っている。

背後に回り込み左手にある窒素タンクを親蜘蛛の上に放り投げる、ちょうど真上に来たところでミニガンで打ち抜いた。

窒素が気化しながら兵器に降り注ぐ。


今度は装甲温度が急激に低下しているのが観測された、冷え切ったのを確認しミニガンを掃射する。

先ほどは弾かれていた弾が装甲を引きはがしていく、脚部は特にもろく簡単に破壊出来た。

足の付け根部分を狙い八本ある足全てを破壊した。


「やったわ!動きを止めれたみたい。」

「セラ!!喜んでいる場合じゃない、子蜘蛛が向かってる。早く爆弾をセットするんだ!」


ジャックの言葉でセラは慌てて親蜘蛛に近づく。

威嚇するように親蜘蛛は鳴動したが、脚部が破損しているため身動きが取れないようだ。

胴体と頭の間部分に爆弾を設置し、宇宙船に空いた穴から外に飛び出した。


「起爆する。」


バルの声がした後、船の外壁を一部のみこみながらブラックホールが生成され一瞬で消えた。

反応が終わった後はとても静かだった。


「終わったの?作戦は成功?」

「予定通りとはいかなかったが、おおむね成功といっていいんじゃないかな?」


バルが笑いながらいった。


「生きた心地がしなかったよ。」


ジャックがほっとした口調でいう。


その後、セラは船内に戻り確認作業を行った。子蜘蛛たちは動きを完全に停止させていた。


「それでこれからどうすればいいの?」

「ジャンプドライブ装置を回収してくれ。やり方はこちらから指示する。」

「了解。ジャック車回しといて」

「解った。」


その後、宇宙船中央部のエネルギー区画で、ジャンプドライブ装置のコアユニットを回収し基地に帰還した。

コアユニット自体は一メートル四方の立方体でトレーサを使えば運ぶのは容易だった。


「お帰り、無事で何よりだ。」


バルが楽しそうに声をかける。


「疲れた。とりあえずシャワーを浴びたいわ。」

「僕も早くベッドに入りたいよ。」


二人はヴィクトリア号にもどりシャワーを浴び、食事もそこそこに自室のベッドで眠りについた。

翌朝二人が目覚めるとバルが話しかけてきた。


「二人ともよく眠れたかね。」

「ええ夢も見なかったわ。」

「右に同じ。」

「早速で悪いんだが君らの宇宙船を改造したい。ジャック協力してくれ。」

「解ったよ。」

「セラはリームを、メッセンジャーを起こしてくれ。」

「リーム?」

「メッセンジャーの個体名だ。」

「リームちゃんね。わかったわ。」

「彼女にも言語データを送ってある。言葉は通じるはずだ。」

「便利なものね。」


セラは居住区画のコールドスリープ装置へむかった。

コンソールを操作しコールドスリープを解除する。

モニターで体温が正常に上昇しているのを確認する。


十分ほどで蘇生措置が完了しコールドスリープ装置のカプセルが開いた。

セラがのぞき込むとゆっくりと目が開き、焦点が結ばれセラと目が合った。

髪と同じで瞳は鮮やかな緑色だった。


「おはようリーム、初めまして私はセラ、あなたの事はバルから聞いているわ。」

「セ…ラ?」


リームはしばらく瞳を宙にさまよわせ何かを読んでいるようだった。


「セラ様、バルからの報告を読みました。我々のために尽力いただいたようで心より感謝もうしあげます。」

「セラ様って、セラでいいわ。困っている時はお互い様、バルは報酬をくれるって言うし気にしないで。」

「でも…。」


くぅぅ、その時、可愛くリームのお腹がなった。

顔が赤く染まる。


「お腹すいてるの?ねえバル、リームは私たちと同じものは食べれるの?」

「組成自体は君らとそう変わらん。食べ過ぎなければ問題ない。」

「食べ過ぎたらどうなるの?」

「君らと同じだ、太る。」

「アハハッ、そりゃそうね。さあリーム行きましょう。」


セラは手を差し出す。


「…はい。」


リームは少し照れ臭そうに手をとり、二人はヴィクトリア号に向けて歩き出した。


「まずは服を何とかしないとね。」


その後、リーム予備の戦闘服を着せ(サイズが合わずぶかぶかだったが)ヴィクトリア号の食堂でジャックと合流し、四人で食事をした。

もっともバルは話すだけで食事はできないのだが。

それでもリームはとても嬉しそうだった。


気になったセラはバルにデバイスを通してリームの事を聞いてみた。


「ねえバル、ただの食事してるだけなのに、リームはなんであんなに嬉しそうなの?」

「彼女が他の人間と一緒に食事を取るのは今回が初めてだ。」

「どういう事?両親は?それに貴方達の船にも他のスタッフはいたんでしょう?」

「彼女はメッセンジャーという特性上、あまり他人と関らないよう制限されていたんだ。生まれてすぐ特性が認められ、施設で育てられた。メッセンジャーとして教育を受け、五年前船に乗った。分析官に渡す情報に余計なものが入り込まないようにするためだろうが…。私も事務的な会話しかしていなかった。」

「そんな…。ずっと独りぼっちだったの…。」


セラはジャックと楽しそうに話しているリームを見て胸が苦しくなった。


「でセラはああ見えて純愛映画が好きでさ、ハッピーエンドの後は大泣きしたりするんだよ。目が真っ赤に腫れちゃって取引先に痴話げんかを疑われたりしてさ。」

「子供相手に何話してんの!」


セラはジャックの頭を思い切りはたいた。


それを見てリームは目を丸くした後、大声で笑った。

その笑顔は地球人の子供と変わりない物だった。


その後、四人は今後の予定について話し合った。


ジャックの話だと改造自体は三日もあれば完了するらしい。

とりあえずリームを母星に送り届け、それからのことはその後考えようということになった。


リーム達の宇宙船は圧縮弾で消すことにした。破片などからでもテクノロジーが流出する可能性があるため、痕跡を残したくなかったのだ。

宇宙船が消えるとき、リームは泣いていた。


アレンには職員が全員行方不明になったことだけを報告させた。セラとジャックが此処に来た記録も改竄し、基地に連絡したが応答がないため引き返した形に変更し、納入した物資も回収した。


バルが言っていた報酬については、ヴィクトリア号の修繕で話がまとまった。

二年間酷使してきたのと、元々軍で使いまわされていたのであちこちガタが来ていたのだ。


それから二週間程かけてジャンプドライブを行い、三百万光年先のリームの母星まで移動した。

二週間の間、セラたちは普通に生活しただけだったが、リームにとってはすべてが新鮮で楽しいものだった。


「リーム、朝ご飯を食べたら掃除と洗濯をしましょう。手伝ってくれる?」

「はい!」


普通のお手伝いだったがリームは目を輝かせて手伝ってくれた。


「お昼からは映画でも観ましょうか?」

「セラが好きな純愛映画ですか!?とても興味があります!!」


それを聞いてジャックが割り込んでくる。


「え~、昼からは僕とゲームしようって約束したじゃないか。」

「あんたの今日の予定は通常推進エンジンのメンテでしょ。」

「解ったよ、セラはゲームの相手してくれないから漸く遊び仲間ができたのに…。リーム、明日は僕とゲームだからね!」

「はい!楽しみです!!」


船内で仕事をして、時間の空いた時に遊び二週間はあっという間にすぎた。


母星軌道上で通常空間に出た瞬間、一行は警備艇により包囲されたが、通信でリームを送り届けてきたことが解ると歓迎してくれた。

異星人との交流も珍しくなく多様な種族が暮らしており、地球人だからと差別されることもなかった。


母星に着くと二人はリームと引き離された。

彼女は分析官と情報を共有するための作業に掛かりきりになるそうだ。

別れる時、寂しそうに二人を見ていたのが心に残った。


リームが持ち帰った情報はかなり重要度が高く、それを守り届けてくれた二人は高い評価をうけた。

勲章を授与されたり、歓待をうけ、豪華な食事がふるまわれた。

見たことのない食材ばかりだったので、少し食べるのに勇気が必要だったが。


一週間ほどの滞在中、何度かリームに面会を求めたが、終ぞ会う事は出来なかった。

ヴィクトリア号の修繕も終わり、二人はヴィクトリア号の操縦席にいた。


「これからどうする?」


ジャックがセラに尋ねる。


「そうね…。船も直ったし、あのジャンプドライブ装置ももらったから、いろんな星を見て回るのも面白いかもね。」

「リームの事は?」

「彼女はこの銀河で重要な任務を担っているわ、個人の感情でどうこう出来ることじゃないわよ。」

「それでいいのか?」

「良くない!良くないけど…。誘拐なんてしたらそれこそ戦争になるかも知れない。さあさあこの話は終わり。」

「解ったよ。寂しくなるな…。」


二人は少し黙っていたが、セラは努めて明るい声でこう言った。


「とりあえず私たちの銀河に帰りましょうか。」

「なんでだい?」


ジャックも気を取り直して答える。


「物資を配送元に返還しないといけないし、それにね私一回言ってみたいセリフがあるのよ。」

「?」

「この船は銀河系最速の船だ。ってね。」

「現時点じゃ間違いないね、僕らの銀河系じゃ軍の最新型でもこの船には追い付けないから。どこに行くにしても付き合うよ。」

「ふむ、あまり派手なことは慎んでもらいたいがね。」


唐突にどこかで聞いたことのあるバリトンが会話に乱入してきた。


「「バル!?」」


二人は慌てて振り返る。

コクピットの入り口にはリームが立っていた。


「お二人に着いて行くことにしました。」

「なんで?!」


リームの代わりにバルが答えた。


「地球人類にオーバーテクノロジーを渡さないための監視役、というのが建前さ。本音はこの娘がどうしても一緒に行きたいと言うからな。」

「セラ、ジャック、私は今まで辺境で監視しかして来ませんでした。お二人と一緒に旅をしてもっといろんな物を見てみたいのです。一緒に笑ったり泣いたりしたいのです。…駄目でしょうか?」


リームは俯きながら手をもじもじさせている。


「リーム、危ない目に合うかもしれないわよ。」

「四人一緒ならきっと大丈夫です。四人一緒がいいです。」


リームは顔を上げ胸の前で手を握りしめながら、二人の目を見ながらはっきりと言った。


「僕は賛成だ。リームとはもっといろいろ話したかったし、バルともまだしゃべり足りないしね。」


ジャックは優しく笑いながらいった。


「私はリームのガーディアンだからな、当然リームの行く場所にはついていくよ。まあ離れたくても離れられないのだがね。」


バルは楽しそうに答える。


二人の答えを聞いてセラはしょうがないなというような口調でリームに告げた。


「リーム、政府には許可をもらっているの?」

「先ほどバルが言ったようにお二人の監視役ということで許可をいただきました。」

「政府としてはリームには引き続き監視役を務めて欲しかったみたいだがね。本人の意思が固くて覆すことは出来なかったよ。」

「解った解った、オッケーよ。」


セラは降参と言うように両手を上げる。


「では全会一致だな。」


バルが楽しそうに笑う。


「リーム、座席についてベルトを締めなさい。発進するわよ。」

「はい!」


リームは目を輝かせて二人を見た後、急いで座席に座った。


セラがリームが席に座るのを確認してスロットルレバーを操作する。

ヴィクトリア号が今までにない加速を見せ一瞬で星の世界へ到達する。


「なにこの速度!それに加速時のGをほとんど感じなかった。バル!説明して!」

「君らの宇宙船は我々のものと比べて技術レベルがかなり低かったからね。政府がメッセンジャーを乗せるのを渋ったんだ。だから外装や操作系はそのままにして、中身や装備をすべて最新型に変更してある。快適な旅が楽しめるぞ。」

「なに勝手なことをやってんの!こんな船じゃおちおち寄港もできないじゃない。」

「なに見せなきゃいいだけだ。パッと見は偽装してあるから簡単にはバレないよ。メンテナンスもナノマシンがしてくれるから故障知らずだ。便利だろう。」


バルが愉快そうに笑う。


「セラ、起きてしまったことはしょうがない。諦めよう。」


ジャックはどこか遠くを見つめながらつぶやいている。


「セラ、怒ってる…。私余計な事しちゃった?」


リームが上目遣いでおずおずと尋ねる。


「ああ!もう怒ってないわよ、リームは悪くないわ。そうね、とにかく地球に向かいましょ。」


セラは座標を自分たちの銀河系に合わしジャンプドライブを起動する。

ヴィクトリア号はジャンプドライブ特有の煌めきを発しながら虚空に消えた。

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