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Nomal Theater  作者: 紫
6/7

入れ替わりの彗星

 月に2、3度映画に通うようになってもう3ヶ月近く経つ。最近は面白い映画が多かったが、恋愛映画にだけは手を出せないでいた。

 学生時代は何となく付き合っていた彼女がいたりはしたが、社会人になってから恋愛はご無沙汰。おまけに最近、そろそろ結婚どころか親になる年齢になったと無意識に感じているのか、小さい子を見ると心がざわつく。決してロリコンな訳ではない。


「塩川、娘はやらんぞ。」


 庄司の言った冗談がたまに頭の中でリフレインして末期だ。

 気になる人がいないわけではない。ただそれは気になる止まりでその先に進むなんてことは常識では無いような相手だ。その相手とは映画館に通うようになってから行く度に9割くらい同じ映画を見ている同い年くらいの女性。俺が映画を観に行く時間帯は人が少ないとはいえ、映画館にいる人の顔なんて一々覚えていないのが普通だ。

 その女性の顔は自分でもそんなことあるわけないと思っていた一目惚れだった。仕事を辞めた帰りに観た映画で、一つ開けて隣に座っていた。凛として芯の強そうな容姿が美しい。2度目、3度目と何度も同じ劇場で同じ映画を偶然見るうちに何だかこれは運命なのかもしれないと気障なことを考えるようにすらなった。完全に病気だとは思いつつも実際映画終わりに声をかける勇気なんてないし恋愛初心者。断られたらこの映画館にもきっと来れなくなってしまうと思うと中々次に踏み出せない。いや、向こうからしてみればこれが普通か。


 色々考えているうちに上映時間だ。恋愛映画、しかもアニメを積極的に観るなんてことは初めてだ。爽快感ある主題歌と共に爽やかな絵柄が印象的なCMと口コミでどうしても気になり来てみた。

 流石人気映画ということだけあって、劇場は混み合っている。予想していたことだが、お一人様は少なそうだ。事前にネットで席を予約しておいたが、両隣りにも人が来るだろう。


 *


 "入れ替わりの彗星"は設定からすると大分ファンタジーなことをしているのだが、全体的に青春の爽やかさを押し出しているせいなのか胡散臭い雰囲気に不思議と仕上がっていない。劇中の音楽も壮大な音楽というよりも爽やかに吹き抜けるような曲が多いのも影響しているかもしれない。


 なんて、冷静に分析してみるが俺の心臓は映画とは別の意味で緊張している。俺の気になるあの人が今左隣りに座っているのだ。密かに今日も見かけられたらいいななんて思っていたけれど、まさか隣になるなんて思わなかった。今まで俺が観た映画に恋愛ものはなかったから勝手に彼女も観ないとどこかで決め付けていた。


 映画の最後で主人公とヒロインがまた出会い直す。彼らの年齢は俺と彼女よりも一回り下であろうか。何だか彼らに力をもらった気がして、明るくなった客席で俺は隣を向いて彼女に話しかける。


「あの、この後空いてますか。」



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