ホテルの一室
私の趣味は映画鑑賞だ。毎週のように1人で映画を観に行く。私は残業もそんなにしなくて済んでかなり恵まれた環境の会社に勤めていると思う。
ただ映画館に行く以外まともに外を出歩かないのは根っからのインドア派のせいだろうか。この歳で未だに彼氏がいたこともなければ、当然結婚もしていない。
子供の頃は大学卒業したら就職して結婚して子供産む、なんて思ってたけど現実は全然違った。30過ぎてもこうして独り身。大人になって急に何か変わるなんてあり得ないよね。なんて腐り始めている。
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「三ヶ島先輩!何ぼうっとしてるんですか!先行っちゃいますよ!」
「はいはい。今行くよ。」
この子は小野寺雪乃。職場の後輩なのだけど、なぜか私に懐いてくれている。可愛らし過ぎる外見や仕草で勝手に先入観から良く思われていないことに悩んでいるが、真面目に仕事をこなす良い子だ。
本当は映画1人で集中して見たいのだけど、小野寺は先週彼氏に振られて落ち込んでるから気晴らしにと誘い出したのは私だ。
「先輩の分のザクロジュースも買っておきましたよ。それとポップコーンはキャラメル味のLサイズ!一緒に食べましょう!」
「あ、ありがとう。お肌に良さそう。流石。」
「違いますよ、先輩!確かにザクロジュースはお肌に良いですけど、これから観る"ホテルの一室"ってホラー映画じゃないですか。ホラーって言ったら血のように真っ赤な飲み物の方が気分が上がるんじゃないかと思って。」
「なるほど。限定ボトルお洒落だしいいね。私は嬉しいけど、小野寺が映画観て飲めなくなるってことはない?大丈夫?」
「大丈夫ですよ!ホラー映画久しぶりですけど好きなんです。」
「そっか、良かった。」
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平日の夜だが、水曜レディースデイだからか女性中心に思ったよりも人がいた。男性客も割と多い。大学生と思われる2人組がぼちぼち、男女ともとも髪の毛を脱色してピアスをたくさん開けた少し近寄り難い空気をまとったカップルが少々。色々な人が観に来ている。
「先輩、あの人イケメンですよ。前の前の列の真ん中にいる人。ほら、今ポップコーン食べてる人。1人で見に来ているぽいです。」
「小野寺がっつき過ぎ。彼氏と別れたばっかでしょ。」
「その話は禁止です!私は今を生きる女」
「はいはい、ほら始まるよ。」
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"ホテルの一室"は原作小説があるらしいがあえて読まずに見にきてみた。この映画は段々ホラー映画というよりパニック映画のような感じになる映画のようだ。なかなか刺激的で楽しい。
ふと隣で小野寺を見てみると何か起こるたびにビクッと肩をひくつかせて可愛らしい。たまには誰かと映画を見るのも悪く無い。小野寺はすぐまた彼氏作りそうだし、私も誰か良い人がいたらいいのだけどな。ま、当分無理か。




