人間軍vs字無 巡 その3
こうして無慈悲なゲームは始まってしまったが、頼りにされた召喚者達は、実戦経験など無く、泣き叫ぶ者がほとんど。
そんな中、隊長が指揮をし直す。
「怯むな! 魔法で攻撃しろ!」
その言葉が聞こえる範囲にいて、正気になった魔法を使える兵士が化け物を、焼き尽くし、凍らせ、潰し、切り刻んで攻撃していく。
それが他の兵士にも伝わり、反撃の狼煙を上げ始めた――ように見えたが……
「ギャアアアアア! あづっ! あづいいい!」
魔法を使っていた兵士が燃えだした。
「考えが甘いって」
無詠唱で発動した巡の魔法は、反撃していた魔法使いの数を減らしていく。
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「あんた、私を守ってくれるんでしょ!? だったら代わりに死んでよ!」
「ふざけんな! んなもん、ヤるために言っただけに決まってんだろうが!」
化け物に背を向けて逃げる二人、常盤学園の生徒は、人恋しさから召喚されてすぐに恋人になっただけの関係。
お互いが本当に好きあっている訳ではない弊害が、命を懸けた場面で如実に現れる。
罵りあいながら、何とか逃げ切っていた二人の先に、地面から生えてくる化け物。女子生徒が横に逸れて避けようとした時にそれは起こった。
男子生徒に引っ張られ、あまつさえ突き飛ばされたのだ。
スローモーションになっていく景色の中、化け物よりも醜悪な顔を見て、後悔の念に襲われたが、その顔が信じられないほどの驚きに変化していった。
原因はわからない。
ただ、頭の上を飛び越えて、男子生徒に襲い掛かる化け物の姿だけをハッキリ認識できた。
男子生徒は後ろに避けようとするが間に合わず、腰に抱きつかれると粘度を持った液体状に変化し、グチャリという音を立てて地面にへばり付いた。
「ゲームしゅぅぅぅぅうりょぉぉぉぉぉ! ……です♪」
ピエロの宣言とともに煙となって消えていく化け物達。
「いでぇぇぇぇ! お前、お前が死んでれば! 責任取って助けろよ、クソ女ぁ!」
女子生徒の前には、下半身が溶けた痛みに泣き叫ぶゴミが一つ。
誰かを傷付ける怖さを知らなかった女子生徒は、自分が殺される恐怖を知り、言葉を発する事なく、召喚された国への道ではない場所へ、よろよろと歩き始める。
後には、ゴミが発する言葉が空しく響いていた。
「もぉう! アナタ、まだ生きてるんですかぁ? さっさと殺されちゃってくださいよ!」
「お断りだね」
巡はピエロと軽く言葉を交わしながら、退却命令によって遠くへ去って行く集団を眺めている。
あの程度なら、他も問題ないはず。
何せ、全員がどうやってか自分の”読心”スキルをガードするくらいの実力者だからな。
そう思い、魔王城へと戻るのだった。