五人の決定
五人が断る事に驚いていたのはリディアも同じらしく、叫ぶように聞く。
「な、なんで付いて行かなかったのじゃ!?」
「あれに付いて行く気しないし」
当然のごとくとばかりに言う巡だが、リディアは気が気ではない。
「じゃがスキル無しって……能力も普通って! ここにいたら死んでしまうのじゃぞ!?」
どうやら小物聖職者の呟きを聞いて心配してくれたらしい。
さっきの男に付いていけば、少なくとも命を落とす事はないと。
そう思っての言葉に、親からお人好しの成分を受け継いだんだろうと全員が理解した。
「付いていったとしても、あんな態度ではちゃんとした扱いを受けるかどうかわかりませんし」
「それに、魔族の方がよっぽど優しいしね」
この城につく前、城下町を通らなければいけないのだが、人間というだけで態度を大きく変えられなかったのだ。
さすがに友好的とまではいかないが、話をしてくれたし、笑いかけてもくれた。
リディア曰く、あんまり深く物事を考えないからだそうだが、それだけでも大使であるはずの男と雲泥の差であった。
「この世界の人間が、全員あんなだとは思わないが、少なくとも味方になる気は失せたのは確かだ」
「……すまぬのじゃ」
リディアとシャラはしきりに申し訳なさそうにしていたが、夜も遅いし、話し合いは明日にしようとなって、先に部屋を出た。精神的に疲れたのだろう。
「で、俺はいいんだけどさ。他の皆は人間同士で戦うのって平気なの?」
巡は暗に聞いていた。
同じ人種で殺し合いするんだぞ、と。
「暴力は嫌いだけど、人間だけが正しくて、どんな事になっても傷付けたくないって思うほど、綺麗に生きてきた訳でもないから」
「俺もだ」
瑞希と紅真は仕方ないなら、という体だ。
「さっきの発言……私達は捕まったらどうなるかわかりませんし」
「自分の身は自分で守らないと、ですねぇ」
梓と菖蒲は最悪の事態を避けるために。
そして五人は立ち上がる。
先ほどの大使から色々と感じ取れた事があったのだろう、お気楽な雰囲気が無くなり、別々の場所へと歩き出す。
五人はそれぞれの考えで魔族と行動すると選んだ。
それが異世界アルディアに大きな波乱をもたらすとは、まだ誰も予想していなかった。