魔族の現状
「ん? じゃあ何で俺達がここにいんだろね?」
「そうですね。ここは魔族の国であって、召喚しているのは人間の国なんですよね?」
巡と梓が疑問を投げる。確かに今の説明では、五人がここに居るのはおかしい話だ。
「時々、召喚先がズレるというのはあるみたいなんです。原因は不明ですが。それに喚び出された時間についても、同じ時に召喚されても、数ヶ月ほども前後する場合があるみたいです」
今までも召喚された人間を見かける事はあったらしいが、容姿で怖がられ、魔族と説明して怯えられ、女王がリディアだと言うと舐められ、最終的には人間の国に行かせてくれと要求するという。
「そのまま帰すのか? あんたらにしたら敵だろ?」
本当であれば、人間側にしたらありがたい話だが、魔族側に利益なぞない。
「召喚者は巻き込まれただけの被害者じゃからな。ここに嫌々残して、寝首をかかれるくらいなら引き渡してやった方が後腐れないのじゃ」
「先代の受け売りではありますが」
言ってる事はもっともらしいが、単純にお人好しだったのだろう。
戦争をする以上は、戦力は対価とともに引き渡すか、消すかのどちらかが常套手段であるべきはずだからだ。それに今、こうやって女王自ら、敵意を持たずに歓待してるのも裏付ける証拠になる。
「ご立派な方だったんですねぇ」
「そうなのじゃ! 父上は、あ、いや、もちろん母上もじゃが、素晴らしい方達だったのじゃ!」
「へぇ。でも今、俺達の扱いが良いのは裏があるよね?」
「ぬぁ!? ないないないないのじゃ! 裏も何もないのじゃ!」
口調や態度は見た目より大人びているが、やはり子供であるがゆえに、咄嗟の誤魔化しはできないらしい。バレバレである。
「リディア様、ここはハッキリと願い出た方がよろしいかと」
「で、でも……」
二人が意志疎通を図りきれず、側近が咳払い一つ向き直り、頭を下げる。
「このままでは、この国が滅びてしまいます。どうかお力を貸して頂けないでしょうか?」
「シ、シャラ!? 止めるのじゃ! この者達に迷惑であろう! さすがに五人でどうこう出来る話ではないのじゃ!」
側近――シャラと言うらしい、が構わず話を続ける。
戦況が傾いて以降、魔族側の負けが続いており、三日後に城に攻め入ると宣言されたそうだ。この国はもう魔王城とその城下町しか残っておらず、今は総攻撃に備え、包囲されているらしい。
包囲が完成する前に、全魔族には散り散りに逃げるよう命令を下したが、それでも残ってくれた者は現在、城壁を補強しているのだと。
だが、負けるのは確定事項。
戦力差を補える物もないし、玉砕するしかないと諦めていたところに召喚者が五人も現れた。友好的に接して、あわよくば味方に付いてもらえたらと。
五人はこの世界の魔族が今、どれだけ窮地に立たされているかを実感させられた。