後始末
「では、事後処理について。最初の議題は死体をどうするかを話し合いたいと思います」
「生々しいですねぇ」
城に戻ったリディアとシャラは、起きてきた召喚者五人を集め、会議を開く。
詳しい事情も聞かなければいけないが、まず先にやるべき事をやらないといけないのだ。人間軍の対応も、地形が変わった事も議題とするべきだが、死体を処理しなければ疫病が流行る。
一番マズいのは、瑞希と巡が戦場にした場所。
広範囲に渡り、バラバラの肉片が飛び散っていたり、溶けた人間に集まった獣やらがいたりと非常に不衛生なのだ。
付近の魔族を総動員しても、すべて処理しきるにはどのくらいかかるか……
五人がここに呼び出された理由は、そこにある。
いい方法はないかと確認するためだったのだ。だが、
「いや、今までは自動処理って感じだったからね」
との回答。
他の四人に聞いても、似たり寄ったりだった。
巡はデスゲーム参加者で、死体はネット上にあったり、自動的に消滅するようになっていた。
瑞希が行った異世界は、光の粒子になって消える。
紅真は異次元での戦闘なので、死ぬと永遠に彷徨うだけ。
梓と菖蒲に至っては、天国や地獄と呼ばれるような場所で戦っているので、そもそも心配なぞした覚えがない。
「焼き払うか?」
この言葉にリディアは慌てる。
確かに手ではあるのだが、如何せん生き残っている人間がいるという事が、決断を鈍らせる。
しかし、反論してみたものの、冷たい返答。
「敵だし、治してやる義理もない」
この五人、長い戦いの果てに悟ったのは、敵に手心を加えると痛いしっぺ返しを食らうという世知辛い現実。
基本は全滅という戦闘狂まっしぐらの思考回路である。
「でもぉ……」
半泣き状態で食い下がろうとするリディアに誰ともなく声をかけようとするが、扉が勢いよく開かれ、全員がそちらを注視する。
「き、貴様等ぁ! 条約破りなどして、は、は、恥を知れぇ!」
前回も乗り込んできた聖職者もどきだった。
しかも同じようにトカゲの番兵を無視していたので、似たようなやりとりを見る羽目になったが、前回と違うのは、相手が異常なまでに怒り心頭だった事である。
「ひ、卑劣な魔族どもが奇襲してきたせいで、我が軍は甚大な被害を被ったのだぞ!?」
「言っている意味がわかりかねるのじゃが・・」
聞けば、人間軍は森の中で野営すると、衛生面で問題があるため移動しただけだったのに、急な攻撃を食らって半数以上の人的損失を被った。
その謝罪と賠償を今すぐ行え。というトンデモ理論だった。
「モンスタークレーマーだっけ、こういうの?」
現代社会の闇を、ファンタジー世界でも拝めるとは思ってなかったようで、呆れと侮辱の混じった視線が送られているが、視線に気付かずギャーギャーと喚き立てている聖職者もどき。
もちろん魔族側としても、条約を守らず一方的に進軍してきた人間軍には、腹に据えかねている物があったらしく、声を荒げて反論している。
どうにも結論が出そうにないので、横から制止される。
「あのぉ、もうそろそろ止めにしませんかぁ?」
「うるさい! 薄汚い魔族風情が軽々しく……おぉ、アナタ方は!」
聖職者もどきが、五人に手を擦りながら頭を低くして近寄る。
あまりの掌返しの速さには、尊敬するものすらあった。
「あのような素晴らしいお力があるならば、そう仰ってくだされば良かったのに! ささっ、相応の出迎えを用意させて頂きましたので、こちらへどうぞ!」
戦場での容姿やら戦果を聞き、五人について知ったのだろう。
頭の回らない聖職者もどきは、自分で"無能"の烙印を押したくせに、誘えば人間軍の味方になるものと思っているらしい。尋常じゃないほどの笑顔だ。
「ちょっと、こっち来てみ」
「はい、何でしょうか?」
見かねたのだろうか、巡が肩を組んで部屋の外に行く。
不安がるリディアとシャラだったが、紅真達に待つよう言われ、数分経過。
戻ってきた聖職者もどきは眼の光が失われたように見えた。
「死体処理な、コイツ等がやってくれるって」
「もチロンですとモ」
「……えぇぇぇぇ?」
戻っての第一声がこれである。信用できないにも程があったが、巡が問題ないと太鼓判を押すため、恩人の言うことでもあり、提案は渋々受け入れられた。
それから数刻の後、どうやってか連絡を取ったらしく、戦場に再び現れた人間軍が生きている者の保護と、死体の処理をし始めた。
もちろん、紅真達が見つからない程度に遠くから監視をしている。
人間軍は全員が挙動不審で、泣き出したり、嘔吐したり、叫びだして逃げる者もいた。
それでも3日あれば処理は完了し、最後に病気が広まらないよう、慎重に周囲を焼いて撤退していく。
「これで、始末ハ完璧デス。ハハハははハ!」
「ご苦労さん。戻っていいよ。」
言われた瞬間、高笑いをしながら自陣へダッシュで駆けていく聖職者もどきを見て、心配になったリディアが尋ねると、明日には元に戻るから問題ないとのこと。
考えるのもめんどくさくなったようで、まぁそれならいっかと自分を納得させて、会議室へ向かう。
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「巡、礼を言う」
「何が?」
いきなり頭を下げられても……と困惑していたが、戦場の処理についてだと言われると、軽く返す。実際、本人にとっては大した事ではなかったのだ。
それから話は人間軍の侵攻についてに移行する。
条約破り、しかも奇襲をかけるなぞ、不届き千万と憤慨していたリディアとシャラだったが、他の五人は意見が違った。
「そもそも侵略戦争で総攻撃の時間を教えるなんて、親切すぎるというか何というか……」
「しかも、戦時中にあんな豚を大使扱いして城に入れるとか、平和ボケしすぎじゃない?」
「殲滅するなら、やっぱり相手が動く前に懐に飛び込んで、デカいのをぶっ放す必要がありますよねぇ」
戦闘狂の意見に、本当に味方で助かったと思う、魔族の二人であった。