人間軍vs月薙 菖蒲 その2
「あのぅ……投降しては頂けないでしょうかぁ?」
奇襲をかけ、一人と一匹を殺しておきながらの言い草に激怒する竜騎士隊隊長。
「総員かかれぇ!」
この際、自分たちが先に奇襲する予定だったのは、頭から抜けている。
「仕方ありませんねぇ……」
菖蒲はランスを正面に向ける。
その際、武器に刻まれたルーンの効果で、後方からのみランスが透けて見えるようになる。十字に分かれた刃の部分を敵へと向けると照準代わりとなり、狙いを定めて自分が一番得意とするスキルを発動する。
"ハイ・ブースト"
超高速で移動できるようになるスキル。ただ、それだけではあるが、武器の強さ、菖蒲の膂力が加わると……
「あ?」
竜騎士隊の面々には、何かが砕ける音と共に、対象が消えたように感じた。あまりにも速すぎて肉眼で追えなかったのだ。
気が付いたら仲間の一人も消えている。
隊の何人かが液体状の物を浴びたような感覚を覚え拭ってみると、赤く染まった肉片。
十字の槍に貫かれ、四方へと分散した成れの果てが飛び散ったのだ。
「ひ、あ、うわああああぁぁぁぁ!」
認識してしまったが故に恐慌状態へ陥り、姿を現した菖蒲へと無謀な突撃をする竜騎士達。
菖蒲の攻撃を見て逃げたり、パニックでその場でウロチョロするだけの人間はいなかったので、この竜騎士達は勇敢だったと言えるのかもしれない。
しかし、今回はそうするべきだったのだろう。
時間が経つ度に無惨な姿へと変えられていく仲間と竜を見て、更に攻撃を加えようとする隊員を、隊長が決死の思いで止めようとするが、ほとんどの連中が聞く耳を待たない。
隊長は、比較的冷静な生き残りを集め、この場を離脱。
残りを見捨てる形になったが、菖蒲は後を追わない。あくまで攻撃を中止させたいだけなのだ。
「じゃあ、もう一掃しちゃいますねぇ」
甘ったるい喋り方が広がった時、残った隊員の中心へと陣取り、突撃槍を高く掲げると、一瞬で形状が変わった。
「せーのぉ、それぇ!」
手に持つは巨大な斧。
それを投擲すると、まるでブーメランのように回転しながら周囲の竜騎士達を切り刻んでいく。
尋常ではないスピードに避ける術すべなく死体へと変化する竜騎士が片づいた頃、斧は菖蒲の手の中へと戻っていった。
「うーん……英雄になるだけの器を持った方はいませんね。残念です」
言葉とは裏腹に、さして残念がっている様子のない菖蒲は、地上へと降り立ちに翼を動かした。