人間軍vs流堂 紅真 その2
人間軍の前に立ち塞がる男が、黒と赤で彩られた鎧を一瞬で身に付けた。
それを臨戦態勢に入ったと判断した隊長が突撃命令を下す。
人の群れが紅真に押し寄せるが、紅真は敵を見据えながら、右腕を高く掲げる。
すると、クリスタルに溜め込まれたエネルギーが体表面を走り、さらにその先の拳へと集まる。
エネルギーの塊とも言える状態になった拳は鈍く光り輝き、今にも解き放たれる時を心待ちにしているようだ。
「バーストクラッシュ!」
気合一閃。
その拳で地面を殴りつけると、ようやく解放されたエネルギーが意志を持ったように地面を走り、光の帯を残しながら、幾筋にも別れて人間軍へと襲い掛かる。
「ひっ!」
「あぎぃゃああああ!」
光の帯は敵に接近すると、爆発したように地面から湧き出でて、兵士達の身体を下から打ち据えて、天高く打ち上げていく。
その数は百を超え、気絶した者はもちろん、意識があったとしても地面に落下し、良くて重傷、死に至る者もいる。
最も多いのは、食らった時点で粉々に吹き飛んだ数だ。
「怯むな! 敵は一人だ!」
先頭を行く人間の死に様を見ていた兵士達に動揺が走るが、隊長が活を入れると、徐々にだが進軍を再開していく。
「はぁ……さっきので逃げてくれりゃ、やる必要無かったんだが」
紅真は仕方なさげに腕を広げると、合図をしたように変異した細胞が活性化し、自らエネルギーを生み出す。
さらにそのエネルギーを変換装置によって収束させ、膨大な熱量の塊を自身の前方に発生させる。
「ガル・ブラスタァァァァァァァ!」
変換装置を介して放出された熱量は、光の剣となり人間軍を縦断する。
ものの数秒ではあったが、あまりの眩しさに眼を閉じ、顔を背けても、光がまぶたをこじ開けて眼球を刺激する。
「……う、くそっ! 何だったんだ、今のは!? ……あれ、俺の腕は?」
一人の兵士が発する。
自分の腕が見当たらないらしい。
訳も分からずに、横にいるはずの仲間に尋ねる。
「なぁ、俺の腕……」
正確には尋ねようとした。その問いかけは、ほんの少し前であれば問題は無かっただろう。
何故ならば、その時は膝より上があったはずなのだから――
光の剣に直接触れた物は蒸発した。地面であろうと、小高い山であろうと、人間であろうと。
痛みすら感じないほど、一瞬で消え去ったのである。
悲鳴がそこら中を飛び交う。
もはや戦闘意欲など生まれる訳もなく、退却命令が出る前に、我先にと逃げ去る兵士達。
隊長もその後を追い、紅真以外は誰もいなくなった。
「まぁ、これだけの目に遭わせれば、当分は安心か」
そう一人ごちながら、魔王城へ歩き出した。