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六つの指輪が集うとき  作者: 石野西
二日目 歪んでゆく。いや、正常になってゆく
7/9

動き出す影

「先輩」

 背後から男声が聞こえた。

 本日の授業は全て中止され、全生徒には自宅待機を言い渡された。夏美はなにやら急いで教室から飛び出して帰路を走っていったため、結局青空はノートを渡すことが出来ずに仕方なく、一人でいつもの帰路を歩いていたのだ。


「ああ、真冬。そうか、部活もないしね」

 青空が振り向くと、そこには彼の友人である玄鉄真冬くろがねまふゆが立っていた。

 彼は青空家から百メートルほど行ったところに建つマンションに住んでいる、同じく岡海高校に通う一年生だ。普段は所属するソフトテニス部が忙しく、青空と登下校することはほとんど無い。


「そうなんです。……急に自宅待機なんて、どうしたんですかね? 校内アナウンスで先生たちも慌ててたし」

 並んで歩きながら会話を続ける。

 青空たち彼らのクラス以外は、どうやらこの事件について知らないようだ。野菜園は校舎の玄関口から門までの道からは見えない部分に建っているため、意外にもそれは当然といえば当然かもしれない。


「さあ、どうしたんだろうね」

 教師から一つ言われたのは、正式に発表があるまで本日の件を口外しないように。とのことだった。恐らく、必要以上の混乱を引き起こさないためだろう。


「きっと、よっぽどの事があったんですよ。……僕らに関係のある事じゃないといいですね、先輩」

「うん、そうだね。……最近部活はどう?」

「まあまあですかね。次の大会まではまだ時間があるし、根詰め過ぎも良くないと思いますから」


 嘘をつき続けるのには気が引けた青空は、早々にどうでもいいとも言える日常的な会話に切り替えることにした。幸い、真冬はすぐに青空に合わせて会話を変える。

 嘘とは真実を歪ませる行為だ。どんなに些細な嘘も、少なからず現実に影響を与える。その歪みに相手が気が付けば、それは嘘だと見抜くこととなる。つまり、嘘を重ねるということはその度に歪みを大きくさせるため、嘘を見抜かれる確立を自ら上げてしまうのだ。

青空は嘘が嫌いだった。つくのも、つかれるのも。


「じゃあ、また」

「はい。さようなら」


 気が付けば青空宅の目の前まで来ていた。

 真冬と別れて家へ入る青空。当然誰も居ないので玄関に靴は無い。


「さて、と。何をしようか」

 リビングで制服を脱ぎながら呟いた。

 平日のこんな時間に家で時間を持て余すのはもったいない気がする。だが、普段ありえない状況のため、何をして良いのかまるで分からない。

時計を確認するが、昼食にはまだ早い時間だ。


「……課題を済ませるのが得策かな」

 ハンガーに掛けた制服をリビングの収納にしまい、二階にある自室へと入ってゆく。

 彼の部屋はシンプルにまとまっている。ベッドとクローゼット、パソコンの置かれた机とそれと対の椅子。壁際にはゴルフバッグとテニス用具一式、エレキギターとアンプ。常に日陰となっている床には狐色の液体と梅の実が入った瓶が数本。置いてある物といったらそれくらいだ。

 彼は机の上のキーボードを避け、鞄から取り出したレポート用紙を広げる。その一連の動作の間で見えてしまった夏美のノートが少し彼の気持ちを燻らせる。


「……明日、返そう。学校があれば」

 彼は机の足元から化学辞典を取り出してページをめくった。化学の授業で出された課題で、何か身近な元素を一つ選択して簡単に特徴を纏めるという内容だった。青空が選択した元素は、一番身近といっても過言ではない窒素だ。

大気の約八割を占める物質であり、生物にとって必須の元素だ。窒素化合物も重要なものが多く、レポートに書くには困らないほどに情報量は多い。


「適当に済ませるか……」

 むしろ、重要な情報が多すぎたため、どの部分を纏めればよいのかという贅沢な悩みに苛まれていたのだが、それはまた別の話。

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