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六つの指輪が集うとき  作者: 石野西
一日目 はじまり
2/9

生まれた疑問

 この季節は一年の内で一番時間の経過が身近に感じられる。毎日少しずつだが確実に早くなる夕暮れ時は、何故か悲しく感じてしまうところがある。それはきっと、無意識下で時間の経過という普遍の理を痛感し、老若男女問わずにその人生の中で過ぎ去ってしまった戻りたい瞬間にはどう足掻いても戻れない事を嘆いているのだと思う。

風が吹いた。昼間の頃のそれと比べると明らかに冷たい。

青空はふと、家の方へと振り向いた。やはり大きな家だ。窓の大きさからしてそのリビングの広さも分かる。


「開いてる、のか」


 そう、リビングの窓が微かに開いているのだ。風でカーテンが揺れている。

 一陣の冷たい風が、再び青空の横を通り過ぎた。

カーテンが大きく揺らぎ、窓の左側つまりリビングの出入り口がある玄関側の室内が見える。青空の記憶の中にしまわれた銅宅のビジョンと変わらない、木目が活きるシンプルな扉と、その前に立つ朱音の姿を確認した。


「なんだ、いるじゃんか」


 リビングの窓から渡そう。一瞬でそう考え直した青空は、再び煉瓦の敷かれた庭を今度は右側へ向かって歩き始めた。

 しかし、彼の無意識の中に存在する本能の自分が違和感を感じていた。そして彼の無意識は警鐘を打ち鳴らす。それはいわゆる直感と呼ばれる存在として、青空の歩みを止めようと試みていた。

 また、彼自身も正体の見えない違和感を薄くだが感じ取っていた。


結局止まってしまった彼の両足は、銅宅の庭の真ん中より少し道路側辺りに立っている。今のこの状況こそ通行人に見られれば不審に思われることだろう。幸か不幸か、歩行者も自動車も軽車両も道路を通ることは無かった。

……結果的に言うならば、それは不幸であったのかも知れない。このタイミングで人が通れば、あるいは野良猫でも野鳥でも何でも何かが通れば。いや、遠くで緊急車両の鳴らすサイレンが鳴りさえすれば。更に言うならば、どこか近所の家の中で電話の呼び出し音が鳴るだけでも良かったのかもしれない。

未来は変わったのだろう。


「……」


 奥歯を噛み締める青空。得体の知れない緊張に体が硬直しているのだ。

 先ほど見えた夏美は、扉の前で真っ直ぐに立って部屋の対極側を見据えていた。これは別段違和感を感じるようなことではない。

例えば、非常に興味深い内容をテレビが放映していたのなら、呼び出しにも気が付かずに扉の前でただ立っていてもおかしくは無いだろう。記憶の中のリビングの家具配置的にも、テレビの位置と彼女の向いている方向は間違っていない。

引き返せと警鐘を鳴らし続ける本能と、それの根拠の無さを疑問視し関係ないと断定しようとする彼の意思が拮抗しているのだ。

 そんな無意味な自己問答が長引き数十秒が経過した頃、再び風が先ほどよりも冷たく通り抜けた。


「えっ……」


 彼の視線は、夏美の見据える先であるリビングの右側へと釘付けになった。

ありえない状況に直面した時、人間は直ぐに行動を起こすことが出来ない。脳が前例を記憶していないためである。

彼の記憶は正しく、リビングの入り口の扉と反対側にテレビは置かれていた。それは問題の無いことだ。そのテレビの電源はついていなかった。それもまだ問題とは呼べない。


 問題なのは、そのテレビの前に夏美が立っていることだった。彼女は部屋の入り口側つまり青空から見て左へ向いている。

そしてその視線の先には、まだ夏美が先ほどから動いた様子も無く、リビングの右側を向いて立っていた。

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