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六つの指輪が集うとき  作者: 石野西
一日目 はじまり
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はじまり

 毎日毎時、各々に新たなはじまりがある。そのはじまった内容の重要さが異なるだけだ。また、はじまりの時点ではそれがどんな内容であるか知ることは不可能である。そして同時に、毎日毎時、いつからかはじまったそれがおわるのだ。

「また明日ね」


 眩しい夕日を背にして微笑む少女。赤いような金色で光っている太陽のせいで彼女の顔を見ることは出来ないが、声色を聞けば分かる。


 「ああ、また明日」


 いつも通りの交差点でいつも通りに分かれる二人。

彼、青空彼方あおぞらかなたは、幼馴染の姿が最初の曲がり角で見えなくなるまでそちらの方を眺めていた。これもまたいつも通りの事。

ただ変わるのは、太陽の位置とそれに伴う季節。そしてそれに伴う気温や湿度などの気候だけだ。そう彼は思っていた。


 幼馴染が視界から消えると、青空は自宅へと向き直り歩き始める。

 彼の家はこの交差点から歩いて三分ほど。長い距離ではない。

 以前は一面が田んぼであったこの地域だが、最近はこの辺り一帯の住宅地化が進み見通しが悪くなってきている。


「しまった、忘れていた」


 そう呟き彼は既に歩いていた自宅への道を引き返す。彼の通学鞄に入っている、借り物の世界史のノートを持ち主へと返すためだ。

 早足気味に戻るが、交差点から最初の曲がり角を曲がっても、そこに彼女の姿は既に無かった。通常時ならば明日学校で返しても良いのだろうが、生憎な事に世界史の授業にて課題を出されているのだ。提出は明後日の授業ではあるが、早めに返すべきだろう。

曲がり角から彼女の家までは数百メートル。遠い距離ではないため青空はすぐに目的地へと着いた。表札にはどうと書かれている。


「久しぶりだな。昔はよく遊びに来てたんだけど」


呼び鈴を押す。全国で統一されているのではと思われる呼び出し音が鳴るのが聞こえた。反応を待ちながら、青空は道路を挟んで向かいにある公園に目をやった。

 ある程度低い気温に吹く風が冷たくされる。しかしそんな事を気にも留めないように、まだ低学年と思われる小学生たち数人は半袖半ズボン姿で走り回っていた。あんな時代が僕たちにもあったなと昔を懐かしむ青空。

 もう何年も前のことだ。


「……遅いな、夏美なつみ


 少し待ってみたものの、銅家は一貫して沈黙を続けている。聞こえなかった可能性は大いにあるだろうと、取り敢えずはもう一度呼び鈴を鳴らしてみる。

 朱音の両親は彼女がごく幼い頃から多忙であり、それは現在でも変わらずにあるいは更に多忙となり、帰宅するのは毎晩遅くとなっている。現在は朱音一人だろう。

 帰ってまだ間もないが反応が無いところを見ると、もしかしたら風呂にでも入っているのかもしれない。


「一旦帰るのも面倒だし……」


 言い訳のように呟きながら、鍵の開いた門から庭へと入る。

 銅家は、一般家庭の標準的な自宅敷地面積と比べると広い。門から玄関までは手入れの必要が皆無と思われる煉瓦のブロックが敷き詰められている。その庭の先には中央に玄関が設けられ、向かって右側には大きな窓のある広いリビングが、向かって左側には書斎がそれぞれある。

 どっしりとした構えの二階建てだ。


「風呂の音だけ聞けばいいか」


 青空は硬い煉瓦の道を左奥へと歩いてゆく。廊下を挟んで書斎の奥に脱衣所兼洗面所があり、更にその向こうに風呂場があるのだ。家の横を通り過ぎ敷地の一番隅奥へと着き、暫く静かにしてみたものの一向に物音がしない。聞こえるのは優しい風に揺らされた裏庭の木の葉の音だけだ。

入浴中ではないとなると、何をしているのだろうか。眠っているのだろうか。門の鍵が開いていたのだから、彼女が家の中にいることは間違いないのだが。


「ポストに入れておいて、スマホに連絡を入れておけばいいか……。この状況、通報されても面倒だし」


 家の敷地は成人男性の平均的な背丈程度の塀が取り囲んでいるため、外部から今の青空の状況を除き見られる可能性は低い。しかし、ゼロではない。それに、肌寒い夕方に塀の作る影の中で何もせずにいるのは少々辛い。青空は来た道を戻り門まで再びやって来た。既に日は暮れ、子供たちの姿は無い。

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