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99 後1 私は知らなかった

翌朝、いつもとは違う感覚なせいか、まだ日も昇らない時間にアリスは目を覚ました。

クリスはずっと手を握っていてくれていたらしい。クリスはまだ眠っていたものの何だか嬉しくなったアリスはクリスにもっと近づいて胸元に寄り添う。


「……温かい」


アリスは小声で呟いた。その温かさが体温なのか心なのかアリスにはよくわからなかったものの、心地よい温かさが気持ちを満たしていく感じがしてアリスは目を閉じたまま身を任せる。


こんなこと、何年ぶりかしら。なんだかずっと忘れていたような、ずっと欲しかったような、目指してた場所がここにあるような。


アリスはそんな気がしていた。ただ、それが何なのかアリスにはわからなかった。




コンコン


……あら?


突然聞こえたノック音にアリスは目をあける。考え事をしていたらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

クリスも目が覚めたようで、なぜか慌てて起き上がろうとしていた。

アリスはまだ少し眠かったこともあり、目をこすりながらクリスの顔を見る。


「おはよう」


そう言ってアリスは笑顔をクリスに向けた。


「あ、おはよう」


クリスも笑顔をアリスに返してくれた。

こうして朝の挨拶を交わすと再びノック音が聞こえた。


「あれ?クリス、でないの?」


アリスは不思議に思って首を傾げる。そして、このままドアをノックする人を待たせては悪いと思い、アリスはドアを変わりに開けに向かった。そして、ドアを開けるとそこにはベルがいた。


「クリスさ……あ、アリス様」

「おはようベル」

「おはようございますアリス様」


ベルは少し驚いた様子だったもののアリスが笑顔で挨拶をするとベルも笑顔で返してくれた。


「ああ、クリス様の部屋にいらっしゃったんですね。心配したんですよ」

「ごめんなさいベル。次からはちゃんとあなたに伝えるように気をつけるわ」

「ああ、いえそこまでは。でもよかったです」

「あら、そんなに心配だったの」

「はい、てっきり連れ去られたのかと思って」

「……ある意味そうかもしれないわね」

「え?」


アリスがそう呟くとベルは不思議そうに首を傾げていた。


「いえ、何でもないわ。それより今日は休日だったわよね」

「ええ、そうですが?」

「もう少しクリスの部屋でゆっくりしてもいいかしら」

「ええ、かまいません。それでは食事は部屋にお持ちしますね」

「ごめんさい。お願いね」


アリスはそう言ってベルが去っていくのを見送るとドアを閉じ、クリスの方を向いたとき、あることを思いついて微笑む。

そして、ベッドまで戻ってクリスの隣に座るとさっそくおねだりをしてみる。


「ねえ、膝枕して」

「え??うん」


クリスは驚いたような呆然としたような顔をしながら頷く。

その返答を聞いたアリスは嬉しくてクリスの膝元に頭を乗せてみる。


……悪くないかも。


寝心地がいいかと聞かれればそれほどよくはなかったし、クリスに髪を撫でられてこそばゆさを感じつつも、不思議と心地よかった。そして、不意にちらりとクリスを見ると微笑んでいた。


……クリスも楽しいのかしら。


次にするときは今度はお互いに入れ替わってしていみようかしらと考えつつ、アリスは目を閉じて心地よさを感じていた。




それからあまり時間は経ってはいなかったと思う。


コンコン


そしてドアをノックする音が聞こえた後、ベルがドアを開けて入ってきた。


「お食事をお持ちしました」


その声の後に食事をテーブルにおいていく音が聞こえる。

アリスはもう少し膝枕で寝ていたかったものの、せっかく持ってきてくれたのに寝たふりでは悪かったし、クリスに朝食のお預けするのも可哀想かなと思いアリスも起きることにした。


「ありがとう。ベル」


起き上がったときにベルと目が合いアリスは微笑みながらお礼を言う。

こうして、ベルが持ち運んできてくれた朝食をクリスと済ませると今度は雑談をした。


「姉妹だとこんなことしたりしたのかしら」

「どうなんでしょうね」


クリスは微笑んだ……かと思うと急に複雑そうな表情をした。

一方思いつきで言ったアリスは誰にも文句を言わせない名案だと気づくがすぐに諦めた。よく考えたら父ウィリアムがそんなことを許すはずがなかった。というか兄アランとの結婚を言い出すことが容易に想像がついた。

それは姉妹になれてもクリスがカルロスのロジャース商会に行ってしまうだけでアリスには何のメリットもなかった。

ただ、それでも思いつきとは言え、姉妹らしいことをしてみたいという気持ちはあったため、次は髪型の話しをしてクリスの髪型をいろいろと試行錯誤して遊ぶ。クリスは特に髪型に拘りがなかったためか最近は専ら髪をおろろしているか軽く髪先を束ねていることの方が多かった。そのため、いろいろ試してはクリスの髪型を見て楽しんだ後、アリスは以前見たことがあった少し高い位置でポニーテールにすることで落ち着いた。

そして、クリスの髪型が決まったところで二人で屋敷内を出かけてみる


途中出会ったベルは普段より少しおしゃれをしており、今日の午後からどこかでかけるようだった。

その出かけ先にアリスは想像がついていたのでベルには「いってらっしゃい」としか言わなかった。

ただ、ベルは恥ずかしげに「いってきます」と言っ出かけていった。


……たぶん、クリスの髪型にベルは気づいていたわね。


ちらりとクリスの方へ向けられていた視線が少しだけ上の方を見ていることをアリスは見逃さなかったが、ベルはクリスに下手に褒めると恥ずかしがることを知っていたのだろう。口が少し開いてはいたもののその事については結局ふれず、代わりにいってきますと言っただけだった。

そんなベルの様子に満足しながらもアリスとクリスはさらに屋敷内を歩いていると今度はロザリーの使用人となったメアリを見つけた。

そして何やらメアリが窓辺から外を覗いている姿が見えた。


「メアリさん」

「あ、アリス様とクリス様」

「どうかされたのですか?」

「あ、いえ」


そういうとちらりと窓の外を見て顔を俯ける。

アリスとクリスは首を傾げながら近づいて、メアリが見ていた方向を見て見ると庭の方にロザリーの姿が見えた。



「あら、何をしているのかしら」


アリスが首を傾げるとメアリが指を口元に当てた。

そして、少しじっと待ってみているとどこからともなく人影が現れた。


「れ、レオン様!?」


周囲を少し警戒しながら現れたのはレオンだった。

そして、二人は出会ったら挨拶を交し合ったかと思うと仲良く話している。


「つまりこういうことなんです」

「ああ、そういうことですね」

「ええ、そういうことなのね」


ランドック家とロザリーは巡礼の旅の後から仲がよかったし、入浴時にロザリーが名前を言っていた。

おそらく、どちらにしてもランドック家と結婚する可能性が高かったロザリーにとっては一番よかったのかもしれない。

二人が仲良く話す様子を少し見て、微笑ましく見ているメアリの姿を見ていると、これ以上邪魔しては悪いと思ったアリスとクリスは移動することにした。


ロザリーはレオン、ベルはウィリー。女性メンバーで言えば、後は使用人のメアリとランドック家のフローラ、クリスとアリスだった。


クリスはやっぱりなんだかんだで諦めそうにないカルヴァンになるのかしら。フローラは政略結婚よねたぶん。メアリは……?あれ、じゃあ私は誰になるのかしら。やっぱりもう少し商会を大きくしてからかしら。


そんなことを考えながらクリスについて行っていると今度は稽古場でカルヴァン達バラ騎士所属の者が稽古の練習をしていた。


「あら、いたのね。私も混ぜてちょうだい」

「クリスさん、はい喜んで」


クリスは稽古をするつもりらしい。近くに座れる場所を見つけ、そこでクリスを見学することにした。

ちなみにアリスにとってはクリスがちゃんと剣を振るうのを見るのは初めてだった。


……やっぱりクリスはカルヴァンになりそうね。


そう思いながらクリスの稽古姿を見てアリスは驚く。やはりクリスは女性なのでカルヴァンには叶わないものの、剣を振るっている姿は様になっていた。


……女騎士。少し憧れるかも。


男性相手でも果敢に稽古に励むクリスの姿は勝敗に関わらず格好よかった。当人は素質がないと嘆いていたものの、隠れて日々努力していたことは戦いから見てとれ、結局有能な人は人目の有無に関わらず努力している人だと実感できる場でもあった。

クリスを眺めてそんなことを考えていると、アリスは突然声をかけられる。


「今日のアリスは隙だらけね」

「あら、アイリス。そうかもしれないわね。よかったらお話しましょう」


アイリスの言葉をアリスはさらりと流してお話に誘う。


「皮肉を言ったのに……」

「知っているわよ。善く士たる者は武ならず、善く戦う者は怒らず、善く敵に勝つ者は与せず、善く人を用いる者はこれが下となる。つまり、真優秀な経営者は見栄をはらないし感情に任せて行動しない。無駄に敵を作る経営をしない。そして、部下を上手に使う人は、威張ったりしない。よ。」

「そんな言葉、どこで覚えたのよ」

「事業計画を練っていて私が怒ったときにクリスがニコニコしながら言っていたわ。怒り心頭だったけど」

「それを今の今まで覚えているあなたに驚きよ」

「まぁ、感情的になっているときの出来事の方が印象に残るのかも」

「クリスはそれを知ってわざと……」


そして二人はクリスを見る。


「「まさかね」」


お互いに同時に呟き、顔を同時に見合わせてしまい、思わず笑う。

アイリスとも仲良くできるかも。そう思いながらクリスを見たときだった。

なぜかクリスが稽古中こちらを見ている。そして今にもカルヴァンが襲いかかろうとしていた。


「クリス、危ない!」


アリスが思わず叫ぶと、クリスはすぐにカルヴァンの方へと向き直り、クリスは咄嗟にかわして体勢が崩れたカルヴァンの背後へとまわり稽古用の剣で首元を当てる。


「……ま、参りました」


カルヴァンのその言葉で勝敗は決した。

どうやらクリスの勝ちらしいものの、クリスは褒めると失敗するタイプなのかもしれない。

そう思ってアイリスを見るとアイリスも同意見なのか呆れたようにため息をついていた。

そして、クリスはそれで稽古が終わりらしく、水浴びを軽くして、再びアリスとアイリスと合流した。次は庭で散歩をし、夕食をとった。あとはそのまま三人で今度はアリスの部屋で一緒に話すことにした。


そして、クリスがアイリスと出会った話を聞き、そのまま三人一緒に寝てみた。

今回は左からアリス、アイリス、クリスの順に寝ており、大きめのベッドとはいえ3人ではさすがに窮屈ではあったものの、ベッドに入り、すぐに心地よさそうに寝てしまったアイリスをクリスと眺めていると自然と笑みがこぼれた。


こんな日がこれからも続くのかしら。だとしたら、何があっても商会が傾かないようにより強固なものにしていかないと。


そう心に決めてアリスも眠りについた。

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