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自分に素直になる。アイリスのアドバイスを胸に秘めながらアリスはクリスの部屋に招かれた。

そして、クリスに言われるままに椅子に座り、クリスは何やら小さな調理場で自前の魔法で火をつけて調理をしているようだった。


……魔法て便利よね。というより、クリスのところには調理場もあるんだ。


いいなあと素直に思いながらクリスの調理する姿を眺めていると何やら食器を取り出してこちらに持ち運んでくる。

アリスは受け取って中を確認してみるとハーブティーのようだった。


「魔法、便利ね」

「ええ、こういうとき私もそう思います」


実は能力を持っていることより持っている能力を使いこなせる事の方がすごいのだが、それを当たり前のようにできるのはクリスの素質なのだろう。クリスは先にハーブティーを先に一口飲み安全だと示す。


……たぶん、先に飲んだのは特に考えての事ではないんだろうけど。


その姿を眺めながらアリスも渡されたハーブティーを一口飲んだ。


「これは?何かしら?飲んだことがあるような」

「ああ、安眠できると聞いたハーブティーです。あまり美味しくないですがロザリーさんお勧めなんで。名前は……忘れました」


本当に忘れてしまったのだろうクリスは困った顔をしながら苦笑いしていた。アリスも同じく名前を思い出せないので微笑んで誤魔化すと話題を変えることにした。


「こうやって一緒に一服するのは久しぶりね」

「そういえばそうですね」


こうして二人屋敷で話すのはいつぶりだったか。何だかとても遠い昔のような気がした。


「なんだかあのときがとても昔なように感じます」

「そうね。私も同じよ」


クリスも同じだったらしい。再びお互いに顔を見合い苦笑いする。

そして、お互いにハーブティーを一口飲むとアリスはカルロスでのときのことを思い出し、クリスに聞いてみる。


「ねえ、クリス。もし、私がクリスを振ったとしてもクリスは私を守ってくれる?」


卑怯な質問だったかもしれない。でもアリスがこれからクリスに話すにあたってどうしても聞いておきたいことだった。


「当然ですよ。だって私はアリスさんのおかげで今の居場所ができたんですから」


クリスは迷うことなくそう言ってくれた。おそらく、それは本音だろうし従者としても完璧な返答だった。

ただ、今のアリスにとって、その返答は不満だった。


「ありがとう。でもあなたはそれでいいの?」

「え?」


アリスがそう言うとクリスのカップの手が止まる。

そして、アリスはカップをテーブルに置くとクリスの目をじっと見ながら言葉を続けた。


「クリス、私もあなたのことが好きよ」


普段、ただ話すときはなにも意識することもなかったのに、なぜかその一言を伝えたとき、恐怖で胸が苦しくて息がつまりそうだった。


「アリス……さん?」


クリスは驚いた顔をしている。その様子を見て、言い終えた後も異様なまでの恐怖と後悔の感情がアリスを襲い、返答を聞くのが急に恐くなって言葉を続ける。


「でも、私にはその気持ちがよくわからないの。それって恋人?友人?それとも主従関係?ねえ、クリス。私はどう返答すれば正しいのかしら」

「アリスさん?」


逃げちゃためだとわかっていても本当の気持ちから逃げたくなる。わかっていても人の顔色を伺ってしまう。

見たくない自分が見えてしまう。経営をしていく上でずっと隠していた自分。でも、それがアリスだった。

相手の決断を待つ。それが恐くてアリスは話続けるなければ自分が保てない気がして話し続ける。


「クリス。私はクリスを失いたくないの。ただ、そんな理由で返答したら気持ちに応えられていない気がして……」

「アリスさん」

「わからないの。クリスにどう返答すればいいのか。でも私にとってはクリスは大切な存在だから……」


アイリスに素直になれと言われたのにアリス自身何を言っているのかさえわからなかった。恐怖で手が震え、胸が苦しくていつの間にか目から涙が溢れていた。そこには、もう普段仕事で凛としている自分の姿は微塵もなかった。

そんな、何かが崩れていくアリスは不意に包み込むような温かさを感じた。顔を上げると、クリスが優しく抱きしめてくれいていた。


「アリスさん私もあなたが好きです。そして他の誰よりもあなたのことを信頼しています。私はアリスさんの従順な従者として何があってもあなたを裏切らないし命を懸けてみせます。だから……」


クリスはいつだってそうだ。アリスにとって心地の良い言葉をくれて、期待に応えてくれて、決して裏切らない。

そして、今回も期待していた通りの答えを返してくれる。


……クリスはずるいよ。


嬉しいはずなのに、期待通りの返答なのに、そう思ってしまう自分が弱く、醜く思えた。ただ、不思議とこれまで襲われていた恐怖は不思議と消え、気持ちが軽くなっている気がした。そして、先ほどまでの緊張から解き放たれる心地よさに身を任せながらアリスは泣き続けた。


あれから、クリスはアリスが泣き止むまで宥め続けてくれた。そして、ようやく涙が収まっていくのを確認すると、クリスは部屋のベッドへと寝かせてくれた。

ただ、傍に居て欲しいクリスが一向にベッドに入ってこない。結局クリスはこんなことがあってもアリスの従者だった。

そのことを察したアリスは痺れを切らしてクリスにこう言った。


「従順な従者なんでしょ」


クリスはアリスのその一言に根負けしてくれて、ようやくにベッドに入ってきた。

そして、一緒に眠ることにする。あのときのように手を繋いで。お互いの顔を見守るように。


友達以上、恋人以上。


でも、友達でもなければ恋人でもない関係。結局アリスとクリスは主人と従者のままだった。

それでも、お互いの関係をそんな簡単な言葉で括ることがそもそも必要なかったのかもしれない。

どこか抜けていながらも有能な従者。おそらくローズ商会が成功できたのもクリスがいたからなのかもしれない。そして、アリスが今のアリスで居られたのも。そして、これからもこの関係は続いていくのだろう。

そんなことを思いながら確かに感じる温かい手を握り、アリスは眠りに落ちていった。

この度は、当小説を読んで下さりありがとうございました。

本小説の本編はこれで終焉となっております。

ただ、この後の後日談的なものがございますのでストーリーは続けさせていただき、後日談の完結後に完結設定とさせていただきます。


途中、誤字脱字等で読みにくい部分があったことお詫び申し上げます。何度も読み直しては投稿していたのですが毎日投稿の大変さを知るいい機会となりました。最後まで読んでくださり心より感謝しております。

ありがとうございました。

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