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『経営者は常に孤独である』


アリスの頭の中でよぎった言葉だった。その言葉を聞けば信頼できる部下がいないと聞こえるかもしれないけどそういう意味ではない。経営者は常に最高の意思決定者として判断においてすべての責任を負う。それが例え部下の独断で犯した失敗であったとしても監督責任が問われるのだ。

当然その意見を否定する人も居るかもしれない。それでも、少なくともアリスの考えはそうだったし世間の目もその兆候が強い。だからこそアリスは常に重要な意思決定や重要なポジションには必ず判断をし、意思を下すようにしてきた。

だからこそ、クリスに対しても主人と従者という一線を引いて接してきた。だた、客人であるアイリスはなぜかその一線も利害関係も感じさせなかった。これまで出会ってきた利害をもっている人とは違うアイリスの態度に妙に安心感と別の意味で不安を感じていた。


……このままではなんとなくアイリスに依存してしまいそうな気がする。


それが初めてアイリスとちゃんと会話したときの直感であり、評価でありアイリスを観光に誘ったのもその違和感を確かめることが目的だった。


そして、仕事も順調に片付き、アイリスと出発する日がやってきた。

アリスが見送りに来たベルと待ち合わせ場所に行ってみるがアイリスはまだ来ていないようだった。

そのことに気づいたベルが驚くやら慌てるやらそわそわしだす。すると後ろから声が聞こえた。


「お待たせ」


アイリスが意気揚々と無邪気な笑顔で走ってやってくる。商会会長となって、待たされる側になったのはいつ振りだろうか。

アリスがそんなことを考えながらアイリスの姿を見ていると、ベルはその様子を勘違いしたのか顔を真っ青にさせ、気が気ではないようだった。


「あ、アイリス様。アリス様をお待たせするなんて」

「え?ああごめんなさい」


アイリスはよくわかっていないのか素直に謝ってくる。笑顔で。


「別に気にしていないわ。それにアイリスは女神様だし」

「え?それ信じているのですか」


どうやらベルは信じていないらしい。無理もない。クリスからの説明とはいえ神様が降臨したといきなり説明された相手がただの少女にしか見えない。誰だって疑うだろう。アリス自身も信仰心がないクリスがそう言っているからとりあえず信じることにしただけだった。


「そう、私は女神様なのよ。まあ、だからと言って特別扱いされるのは嫌だけど」


そう言って眩しい笑顔をアリスに向ける。こんな調子で遅刻してきた少女を女神と信じろと言われても神々しさがまったくなかった。もっとも、先ほど述べたように一緒に話していると依存したくなるような安心感があるのは事実だったが。


「そうね。そうさせてもらうわ。じゃあ早速行きましょうか」

「はい!」


アリスがそう言うとアイリスは元気よく返事をして、アリス、アイリス、ベルの三人で観光へと向かった。

なお、この一行にベルが加わったのは単純にクリスが忙しくていけなかったこととベルが心配して加わってくれたのだ。


王都オルランドで観光。と言ってもたいして観るものあるわけではない。最初は貴族向けの服屋に行って、アイリスの服の新調してもらう。そして、サイズや服が決まったら発注して食べ物や露店があるところへ出かけ。いろいろな物を見て回った。当然、前回のカルロスのときのような失敗はしない。小道には入らず楽しそうにきょろきょろと見ているアイリスを楽しげに見ていた。


「そういえば、私も初めてカルロスやオルランドの露店とかを見て回ったときはこんな感じだったのかしら」


クリスと一緒に見て回った日々がとても懐かしく感じていた。


「ねえ、アリス。私あれ食べてみたい」


そう言って物欲しげな目で指さしながらアリスの手を引っ張る。


「ええ、わかったわ。一緒に買い行きましょう」


そのアイリス宥めながら一緒に歩いて向かう姿はさながら親……姉妹のように見えたに違いない。

もっとも、ベルに関しては不満なようでアイリスが何か言うたびに不機嫌そうにして何やらぶつぶつ言っていたものの、そこは聞かなかったことにした。


そして、一通り見て周り一旦休憩した後、時間もそろそろと判断したアリスは次の場所へと向かう。

そこはクリスを責任者として任せている入浴場だった。営業時間にはまだ早かったもののその中に入っていく。


「ようこそお越しくださいました」


中に入って礼をして言葉をかけてきたのはクリスだった。


「クリス、今は大丈夫かしら」

「ええ、もう利用できますよ」


そう言うクリスはニコリと笑顔を見せた。実はアイリスに観光に連れて行く話と入浴場を使いたいとクリスに伝えていたのだ。時間までは伝えていなかったはずなのだがクリスはきちんと準備していてくれる。その頼もしさは記憶を失う前のクリスそのものだった。

そのクリスは巡礼からの帰宅後、出会った頃ののように笑顔を見せるようになっていたものの、最近は髪型にこだわりがなくなったのか髪を下ろしている時が多くなった気がする。それに以前にも増して頼りになるその姿にアリスは安心していたものの、どこか寂しさも感じていた。


「ありがとう」


アリスはクリスに礼を言い、アリス達はクリスに案内されるままに中に入り更衣室へと向かう。そして、いざ一緒に入浴を始めた。

最初は軽く身体を洗うが、石鹸についてはアイリスも気に入ったようで、


「何これ良い匂い」


とキャッキャして楽しそうに使っていた。その様子に満足しながらも自分の身体を洗おうとすると、ベルが「手伝います」と言って手伝ってくれた。


そして、いざ三人で入浴する。ベルは少しだけ遠慮しがちだったもののアリスが手招きすると素直に従って入ってきた。


「心地良いわね」

「ええ、本当に」

「そうですね」


三人でのほほんとしながら湯に浸り満喫する。

そして、しばしの間その心地よさを楽しんでいると不意にアイリスが話をしてきた。


「ねえ、アリス」

「何かしら?」


そしてアイリスの方に顔を向けてみるとアイリスは真剣な表情をしていた。


「アリスは何を目指して商会の会長をしているの」

「そうね、私は大陸一の商会を目指しているわ」

「それってもうほどんど叶っているよね」

「え?」


そう言われて改めて考えてみる。

現在ローズ商会はローラン王国で名声を上げ、一般向けの販売も順調に拡大されていって今や国内で知らないものがいない規模になっている。一方南のガイア帝国には関連商会のマーセル商会が順調に販売を拡大している。東に目を向ければロジャース商会が同様に販売を拡張しつつあった。

その規模で展開しているのは実の所、関連商会を含めたとしても同規模で展開しているところはほとんどない。強いて言えば国境の制約が少ないカルロスにある三商会くらいなのだがその三商会に十分対抗できるまでローズ商会は規模を拡大していた。


「言われてみれば」


アリスの目標達成はいつの間にか間近で現実になりつつあることに気づいた。


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