9 私は諦めない
1-4 私、中世で仕事をしてます!
「そ、そんなー!」
アリスは情けない声を上げた。気持ちが熱くなり目に何かこみ上げてくる。
その様子を見てクリスは慌てたようだった。
「え?あ、でもほら、ロジャース商会を利用するのはいい考えだと思いますよ」
クリスが露骨なフォローをしてくるが、それが返ってアリスの心を痛ませた。
それでも従者を前にアリスは泣き出すわけにはいかない。
「そ、そこまで明確に否定されたのは初めてだわ」
「え?うそでしょ?」
「ど、どういう意味よ!」
アリスは涙目になりながらクリスを睨んだ。
「え?あ、すいません。もしかしてアリスさんの周りに見せた人って?」
「お父様や私の周りにいる使用人よ」
「ああ、なるほど」
「どういう意味よ」
クリスが急に真面目な顔つきになった。
その様子にアリスはドキリとする。
クリスの真面目な顔つきを見たのは初めてだった。
「この事業計画書は独占を狙ったものなんすよね」
「そうよ。シェアを取れば流通量を増やせるし、そうすれば価格も安くできる」
「だから値下げを先にしてしまおう」
「そうよ」
「その想定は間違っていません。でも、それはシェアをどの程度取れるんですか?」
「え?」
「たとえば今、カルロスでは提案されている商品が毎月どれくらい消費されていますか?」
「そ、それは」
「他社の価格は?」
「・・・」
「販売にかかる原価と利益率は?」
「・・・」
そこまで言うとクリスいつもの顔に戻った。
「この事業計画が途中までしか作っていなのは存じております。でも値下げを前提に商売するのはあまりほめられる経営ではありませんよ」
屈辱的だった。自分より年下の従者であるクリスに事業計画の欠点を適格に否定されいる。
そして何よりも悔しかったのが「値下げを前提にするな」これはお父様からも言われていたことだったから。
アリスは少しでもクリスを甘くみた自分に後悔した。
「じゃ、じゃあどうすればいいのよ!」
アリスはどうしていいか分からず思わず呟いてしまった。
その言葉にクリスは反応した。
「そうですね。では実際に試してみるのがいいかと思いますよ」
「へ?」
クリスはにっこりと笑顔でいう。それも先ほど否定した失敗する事業を試せと。
「え?どういうこと」
「ロジャース商会の帳簿を少し見ましたが、いろいろな物を取り扱っていました。その中にはおそらく廃棄になるであろうものも」
「それって」
「そう、不良在庫で試せばいいんですよ。どうせ不良在庫はどうやっても処分しなければならないんですから」
「ということは」
「はい、私も協力させていただきます。それにアリスさんの事業計画がうまくいけば私の考えが間違いということになりますから」
「そ、そうね。ところでクリス」
「はい。なんでしょう」
「あなた、何で不良在庫を知っているの?」
「はい。今日は暇だったんで、今後のために過去の取引履歴を閲覧しながら帳簿にある棚卸し商品の動向を調べていました」
どんだけよ!おかしい、おかしいよこの人。いくら暇だったとしても初めて働く人のレベルじゃないよね。
しかもそれを1日でやったってどうやったらできるのよ!
・・・す、少しだけと言っていたから一部だけなんだろうけど。い、一部なのよね?
アリスは驚きのあまり口を開けて呆然としてしまったが、ふと我に返る。
ちょっと待って。クリスは試してみればいいと言っていたわ。
これは計画を不良在庫の消化にすれば上手くいくかもしれないということよね。
てことはこの計画がうまくいけば。
不良在庫を消化できればお父様に認められる。それにクリスも間違いだったと認めてくれる!・・・かもしれない。
「計画実行よ!クリス、不良在庫について調べておいて頂戴。私は明日、営業に掛け合ってみるわ」
「はい!かしこまりました」
決まってからアリスの行動は早かった。
さっそく、父親のウィリアム会長に効果測定の名目で不良在庫があればテスト販売したいと申し出たところ、
これまで事業計画の否定とは違い、あっさりと了承された。
こうして第3回事業計画は不良在庫の消化として形を変えて動くことが決まった。




