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程なくして、父ウィリアムが通行証明書と紹介状を用意してくれて出発を開始した。
そして、ライン同盟国のヴュルテンベルク王国の王都ガーテンにたどり着くまでの間。エリックとアリスは気まずい時間を過ごすことになった。
それにしても、エリックはどうして私に何もしなかったのかしら。いや、何かされても困るけど。私って女性としての魅力がないのかしら。
アリスは自分の身体を見てみる。
長い金髪の髪に標準的な腕やウエスト、胸もそれなりにあると思う。ロザリーも付き添っていたときは自信を持って大丈夫といってくれていたと思う。
そんなことを考えながら、エリックをちらりと見ると目があった。
エリックはアリスが自分の身体をくまなく確かめている様子を首を傾げながらみていたようだが、先ほど思わず口走ったことを思い出し慌てて口を押さえて顔を真っ赤にする。
うぅ……、それじゃ何かを期待していたみたいじゃない。思考は言葉になり、行動になり、習慣になり、性格なって運命になるとかなんとかクリスが言っていたわ。忘れるの!いや、忘れるべきなのよ。だって私には大商会を作るんだから。まだ、そんな余裕などないわ。
ん?でも余裕ができたら私はどするのかしら……
そう思い考えるがアリスはその先のことなど考えたこともなかった。ただ、アリスも女性だった。恋愛に憧れがないはずもなく。
考える先も自然とそっちへとむかった。
やっぱり次は恋愛して結婚かしら。でも相手が……
既視感を感じながらも行き着く思考の先は同じであった。
せめて、クリスみたいに創業からついて来てくれる男性がいればよかったのに。
そう思いアリスはため息をつき、前方を見ると恋の道のりを暗示するかのように何も無い長い道が続いていた。
それから数日、ようやくアリス達はヴュルテンベルク王国の王都ガーテンに到着した。
そこで、エリックと共に謁見を済まし、拠点の開設許可を貰ったアリスは。エリックに1人護衛をつけてもらいアリスは町に出た。そして、意気揚々と眺めて回ろうとしてすぐさま驚く。
「……た、高い」
町に売っている商品の値段にアリスは絶句した。
ローラン王国やカルロスの3割増しくらいの価格だったのだ。
当初は、その価格帯に驚きながらも商売するにはむしろ好都合だと楽観し、再び税の確認をしにいくと、なぜ価格が高くなっているのかという理由を王国の役人の説明でアリスは理解することになる。
原因は過剰なまでの保障と何に使われているのかさっぱりとわからない税金だった。
アリス自身もすべては理解できなかったものの、どうもライン同盟国はいろいろな税があるようだった。
一般的な物資に対する課税や住むために払う人頭税、土地税、十分の一税などはまあ仕方ないとしても、戦時に備えての税、同盟の加盟税、それらに加えて規模が大きいほど税負担の割合を大きくする逓増やなぜか税収を維持する名目で雇用に対しての解雇禁止があった。それら仕組みは非常に複雑怪奇で詳しく聞くと、税務を仕事とする民間職まであるそうだ。
「……あの、その税金システムのせいで物の価格が上がっていると思うんですけど」
「豊かな人から貧しい人にうまく回していくために致し方ない犠牲です。貧しい人を国が助けるのが目的です」
「でも、そのせいで生活を豊かにするよりも維持するだけに多大な費用が発生していると思うのですけど」
「豊かな人から貧しい人にうまく回していくために致し方ない犠牲です。貧しい人を国が助けるのが目的です」
「それ、頑張って努力して稼いだ人ほど税が多く徴収されちゃいますよね。豊かになる気なくなりますよね」
「豊かな人から貧しい人にうまく回していくために致し方ない犠牲です。貧しい人を国が助けるのが目的です」
「目的が迷子になっていない?」
「基本的に世の中の多くは平均的貧しい人が多いのです。持っている人から徴収するのは致し方ないことです」
「……」
言うだけ無駄だった。
商会を一つ作るのは自身の人生と財産を奉げれる覚悟と努力が必要なのだ。そして、その努力の結果をすべて義務の名のもとに持っていくつもりらしい。
説得をあきらめてアリスは町並みを見てまわる。
どれも高い品物ばかりだったが納得がいった。おおむねその複雑な税システムが原因で物価が高くなっていることを。
呆れながらも何か良い方法がないかと考えながら歩き回っていると裏路地でどこか遠い所をみて休憩していた職人ぽい人がいた。
その人がなんとなく気になり少しだけ話しを聞いてみる。
「あ、あの……」
「なんだ」
すごい目つきで睨まれアリスはたじろぐが勇気をだして話を続ける。
「い、いえちょっとお店を持とうかなと思いまして、どんな感じなのか聞かせてもらえればなと」
「やめておいた方がいい」
即答だった。あまりの回答の早さにアリスは驚きながらも彼が信用できる人のような気がして聞いてみることにする。
「どうしてですか?」
「税制がややこしくて仕事より時間がかかる。専用の人を雇わないと税処理で仕事の時間が作れない。努力して稼げばそれだけ徴収される。しかも、一度でも使えない奴を雇ってしまえば解雇もできない。だから値を上げるしかない。そして、値段を上げればお客から批判され利益は徴収される」
そう言われて、アリスは忘れかけていたさらりと話されていた解雇禁止の話を思いだす。
「た、大変ですね」
「ああ、あんた外から来ただろ」
「え?どうしてわかったんですか」
「俺の言葉を聞いてもここに住んでいる連中は何も思わないからさ。むしろじゃあ値段を下げる努力をしろと言って来るんじゃないかな。俺はいいものを作りたかっただけなんだけどな。いくら頑張ってもすべてとられてしまうから真面目に働くのに疲れてしまったよ」
そう言うと男性はため息をついた。
その最後の言葉を聞いたアリスは思わず言葉を返す。
「じゃあ、私のところに来ませんか」
「え?お嬢さんあんたは?」
「私はローズ商会会長のアリスといいます。ローラン王国とカルロスに拠点を持って経営しています」
「そ、そうだったのか。こいつは失礼した。俺はディオン。装飾品の加工が得意なんだ。でもどうして?」
ディオンはアリスに不思議そうに聞いた。
「うーん、いい物を作りたいと言ったからです」
「それだけで?」
「ええ、でも何かを作る始まりはすべてそこからくると思うんですよ」
そういうとアリスはニッコリと微笑んだ。




