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眩しい光が差し込みアリスは目を覚ました。
「……ん?あれ、いつの間に眠ってしまったんだろう」
まだもう少し寝ていたい気持ちがあったものの目を擦り身体を起こしてみる。
そして、目の前の光景にアリスは顔が青くなり、思わずあげそうに鳴った悲鳴を両手で口を押さえて必死に押し殺す。
アリスがそうなるのも無理はなかった。
アリスが寝ていた部屋は先ほどまでエリックと話をしていた部屋のベッドだった。
しかも、少し離れてはいるものの、同じベッドでエリックが隣で心地よさそうに眠っている。
「う、うそでしょ……」
アリスは慌てて衣服や身体を触って確認するが、何かあった様子はなかった。
その事に安堵のため息をつき、急いでベッドから出て近くにあった椅子へ座る。
そして、まだ眠っているエリックを眺めながら記憶を辿ることにした。
昨日の記憶。確かエリックが他愛のない話をしているところまで覚えていた。そして、時間が夜だったことや旅の疲れもあって徐々に眠くなってきて……。それで、エリックに疲れがとれると何かを進められてような。
曖昧ながらも少しだけ記憶を取り戻したアリスは椅子の前になった飲み物を見てみる。
その飲み物は確かめるまでもなく一目見てわかった。
「……エールじゃない」
エールは、麦芽を常温・短時間で発酵させたものだった。本来であれば子供でも飲める程度のもので、成人であるアリスが飲んでも問題ない飲み物ではあったはずなのだが疲れが眠気を後押ししたのだろう。自身の迂闊さに頭を抱えたくなった。
とりあえず確認したところ、何もされていないはずのだから問題ないはず。ただ、もしエリック以外の男性で同じようなことをされていたら、周囲からは男性の部屋へ行ってエールを飲んで一緒に寝ていたのだからと両者合意のうえとしか見ないだろう。つまり、後で何を言っても自己責任でアリスが悪いと言われる落ちしか見えなかった。
そのことを想像してしまいアリスは思わず自身の両腕を掴んで身震いをする。
そして、改めてエリックを見て何もしてこなかったエリックが不思議でしかたなかった。
「悪い人じゃないのよね。お父様が無理矢理ひっつけようとすれば……クリスは女の子だし諦めて結婚するのかしら。でも、エリックのことは嫌いじゃないけどそういうふうに見れないし。いっそうの事、クリスのときみたいに何かあれば見方もかわったりするのかしら。だとしたら、エールを飲ましておきながらどうして何もしてこなかったのかしら……」
寝ているエリックを見て物思いにふけながらアリスが思わず呟いた。
のがいけなかった。
「何をして欲しかったって」
声が聞こえたかと思うとエリックが目を開けてニッコリと微笑む。突然の予期せぬ返答と聞かれてたことによる動揺でアリスは硬直した。
そのことを知ってか知らずかエリックは起き上がり、アリスに近づいて傍にあった椅子に座ってくる。
「で?何をして欲しかったのかな?」
エリックが再びニッコリと微笑み聞いてきた。
「ど、どこから話を?」
アリスは動揺を抑え、必死に平静を装いながらエリックに問いかけた。
どこから聞かれていたかによって状況がかなり変わるはず。最後の一言だけならなんとか誤魔化せ……
「う、うそでしょ。からかな」
「全部じゃない!」
「誰にも言わないよ?」
「あなたに聞かれたくなかったのよ!」
「大丈夫だよ。気にしてないから」
「私が気にするのよ!」
微笑むエリックはばっちり聞いて記憶しましたと言わんばかりの表情だった。
もはや弁明の余地などなかった。アリスは顔を真っ赤にして、立ち上がると慌てて部屋をでた。
そして、屋敷の使用人に見つからないように気をつけながら急いで部屋へと戻るとドアを閉じ、ドアを背にしてため息をつく。
「うぅ……最悪だ。これからまだライン同盟国へと旅路があるのに。これじゃあエリックの顔を見るだけで思い出してしまうじゃない」
アリスは頭を抱え、心に誓った。
……私、もう二度とエールは飲まない!と。




