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81 私は面倒なことはしない

「ち、違うわよ!」


アリスの怒声から釈明が始まった。

エリックがなぜか渋々ながらも説明をし、ようやく父ウィリアムの誤解が解けた。

しかし、エリックのことが気に入ったようで、怒るどころかむしろどこか残念そうにしていた。

その点に関しては短時間で父ウィリアムに気に入られるだけの器量と話術を持ったエリックを尊敬してもいいかもしれないと思ったが父が懐柔されてしまえば過去の経験上、成り行きで婚約させられなかったので説明中ずっとアリスは萎縮するエリックと父ウィリアムを睨んでいたが。


「用件はわかった。でもアリス。別に婚や」

「お断りします!」


父ウィリアムの言葉を遮りアリスは即答した。


「あ、アリスも年頃なんだしもう少し考えてもいいんだぞ」

「生理的に無理です」


アリスの言葉に肩を落とすエリック。父ウィリアムもそこまで言われてしまっては引き下がるしかなかった。


「……まあ話を戻そう。とりあえず通行許可証は発行しよう。ところでライン連合国のどこへ行くつもりなのだ」

「カルロスから北方にあるヴュルテンベルク王国の王都ガーテンに行くつもりです」

「ああ、馬の放牧地があるところか」


エリックの回答でおよその目的を察したの父ウィリアムはうんうんと頷く。


「長旅で疲れただろう。今日は一休みするといい」

「「ありがとうございます」」


アリスとエリックは父ウィリアムの言葉に礼を言うと会長室をあとにし、部屋の外で待っていた使用人に部屋を案内された。


「……何よこれ」


アリスは怒りのあまりわなわなと震え出す。


「どうど……ま、まあまあ」


エリックはアリスの怒りに冗談で返そうとしたものの表情を見てすぐに言葉を改めた。

アリスが怒るのも無理は無かった。これまでアリスが使っていた部屋ではなく、客人を泊めるための部屋だったのだ。

しかも、ご丁寧にベッドはダブルベッドが一つ。


「ふざけんな!」


アリスが思わず叫ぶと、事情の知らない使用人が驚いて慌て出す。そして、確認してきますと言って慌てて駆け出していった。

なお、後日談となるがこの仕業も兄アランが気転を利かしてやったらしい。どこまでも余計な気転の利くアランの素晴らしさアリスは呆れることになった。

そんなこんながあったものの、程なくして戻ってきた使用人によってアリスは自室に案内された。

一方のエリックはその部屋でひとりで休むことになった。


「……はぁ、いろいろと疲れたわ」


アリスはベッドに仰向けになりながら手を頭に当てて呟いた。

夕食でもエリックは陽気に父ウィリアムや兄アランと楽しそうに話をしていた。

そして、その様子を不満げに見ていたもののせっかくの家族の食事を台無しにしたくなかったので我慢していたのだ。

そして、夕食の時間も終わり思わず本音がこぼれ、不意に二人のことを思い出す。


「そういえば、クリスとロザリーは今頃どうしているのかしら」


今頃二人で仲良く旅路を楽しんでいるのだろうか。

そう思うとアリスは少しだけ寂しさを感じた。


「……それより少し前はずっと一人だったのに」


ローズ商会を設立してからアリスのまわりには常にクリスかロザリーがいた。

そして、何か悩みや問題があったときはその二人に相談したりしていた。しかし、今はその二人がいない。

大学時代に戻っただけ。生き別れということでもないのに心に少しだけ穴があいた気持ちになっていた。




――コンコン


どれくらい感傷に浸っていたのだろうか。もしかしたら眠ってしまっていたのかもしれない。

窓から見える外の色は真っ暗で、部屋も既に暗くなっていた。

アリスは起き上がってドアを開けた。

そこに立っていたのはエリックだった。


「やあ」


そう言って片手を挙げて笑顔をアリスに向ける。


「ごきげんよう」


そう言うとアリスも笑顔で返しドアを閉めようとする。

が、エリックがすかさず靴を隙間にはさんだため、ドアを閉めることができなかった。


「ご用件は?」

「ちょっと一緒に話をしたいなと思って」

「私は特に話すことはないですけど」

「じゃあ、話し相手に付き合ってよ」

「……さっき私が言ったこと聞いていました?」

「ああ、一言一句もらさず聞いていたよ」

「……わかったわよ」


普段より強引なエリックを追い返すのは無理と判断して仕方なく話に付き合うことにした。

エリックに誘われて仕方なく後ろについていくアリス。

そして案内されたのは先ほどのエリックが泊まることになった部屋だった。

部屋に入るとお互い椅子に座り、顔を向け合ってエリックの他愛の無い話をしてアリスは相槌を打っていた。


何でこんなにエリックは私にせまってくるのかしら。

ここまで言われて迫ってくる人も珍しいと思うんだけど。


エリックの顔を見てみたが、エリックはただ話をしているだけで満足なのか一行に話の種が尽きそうにない。


顔も血筋もいいのに。


エリックの顔を眺めながら王家の血筋と容姿の良さを見て、ご令嬢からの人気に納得していたがエリックの好意に対して不思議とアリスはエリックに恋愛感情を持つことがなかった。

そんなアリスの気持ちを知ってか知らずかずっとエリックは楽しそうに話している。


「話、聞いている?」

「え?ええ」


突然のエリックの問いにアリスは我に返る。そして、その様子を見たエリックは再び話をするのであった。

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