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出発の日。
アリスは何度かベルに同行をお願いしたが、屋敷を管理できる人間がいなくなってしまうためベルは残ることになった。
そのため、馬車での移動はアリスとエリック、そして馬車を動かす御者、護衛でカルロスへ向かうことになった。
「何が嬉しくてエリックと……」
「おーい、声が漏れてるよ」
アリスの呟きに対してエリックがツッコミを入れる。
「あら、ごめんあそばせ。戯言ですのでお気になさらずに」
「……どんだけ嫌っているんだよ」
聞かれていたこと反省する様子なく反論するアリスにエリックはため息をついた。
「ねえ、エリック」
「はいはいなんですかアリスさん」
「はいは一回だけで十分よ!……それはいいとして、不思議なんだけどどうして一緒に馬車に乗っているのかしら」
そういうとアリスはエリックを睨んだ。
「え?何かおかしいですか」
「おかしいことだらけよ!」
エリックが不思議そうしていたのでアリスは間髪をいれずツッコミをいれる。
「そもそも外交なんでしょ!馬に乗れるあなたがどうしてローズ商会である私の馬車に乗り込んでいるのよ。しかも、護衛の数もおかしいじゃない。なんで2人だけしかいないのよ」
「え?少ない方が目立たないし、この方がライン同盟国に会ったときもアリスを守りやすいじゃない」
真面目にそう答えるエリックの顔を見てアリスは頭を抱えたくなった。
「いや、命狙われるとしたら間違いなく私じゃなくエリックの方だから」
「あ、それもそうか。まあ、なんとかなるでしょ」
そういうとエリックはけらけらと笑いだした。
当人は何も考えていないようだが、アリスは気が気ではなかった。万が一にでも襲撃を受けてしまえば馬車で逃げ切れるとは思えなかったしローズ商会まで咎められる可能性があった。
あまりにも楽観しているエリックに対してアリスは蔑むような目で見たものの、効果がないことを理解して再びため息をついた。
そんなこんながあったものの、一行はその旅路はいたって順調に進み、この二人の距離が縮まることもなく数日の移動を経てカルロスへと到着した。
カルロスでは突然の来訪に門前で警戒されたものの、馬車の主人がローズ商会のアリスだとわかるとほどなくして通され、一行は町の中へと入ることができた。。
アリスがカルロスを出て2、3年。カルロスの町並みは変化がなくアリスは懐かしむように周囲を見渡した。そして、途中、孤児院にも寄って、マリアと挨拶を交わしたがマリアの姿も変わった様子がなく元気そうだった。
一方、エリックの方は国外では礼節をわきまえているのかマリアの前では大人しくしていた。
そして、お互いの無事を喜んだ後、ようやくアリス達はロジャース商会の屋敷へと向かった。
そして、屋敷へ到着する。
「帰ってこれたのね」
アリスは感慨深く屋敷をみていると屋敷の方より突然声がかかった。
「ア、アリス?」
そう呼ばれた気がしてちらりと見て見ると、窓辺から見慣れた姿の人がいた。
「ア、アラン兄様!」
その姿を見てアリスは思わず微笑んだ。アランもアリスの無事な姿を見てほほ笑み返す。
そして、アランは窓辺から何か指示をだしたかと思うと程なくして使用人がやってきてアリス達は屋敷へと案内された。
そして、一度待合室へ行ったあと、再び案内されて向かった先は会長室だった。
扉の前、未だに慣れそうにない緊張感にアリスは思わず苦笑いした後、気を引き締めなおすと扉にノックをした。
コンコン
「私です。アリスです」
「……入ってきなさい」
久しぶり聞きなれた重い声の返事が返ってきた。アリスは扉を開けて入る。
そして中に入るとアリスは父に向かって礼をした。エリックも後に続く。
部屋に入ると父ウィリアムと兄アランがいた。
「お久しぶりです。お父様」
「よく帰ってきたな。アリス」
そして、父ウィリアムはアリスの姿を見て笑みを見せたあとエリックを見る。その様子を察したエリックが頭を下げる。
「エリックと申します」
「私がこの商会の会長、ウイリアム・ロジャースだ」
簡単な挨拶が終わると父ウイリアムは再びアリスに目を向けた。
「せっかく帰ってきたのだ。今日はゆっくりと休むといい」
「ありがとうございます」
アリスは父ウィリアムの言葉に頭を下げた。
そして、今度はエリックが父ウィリアムに話しかける。
「本日はお願いがあってまいりました」
「ほう、お願いとは何かな」
「ロジャース商会会長の許可を頂きたいのです」
そういうとエリックは頭を下げた。
エリックもアリスもローラン王国出身だった。そのため、使者としてライン同盟にスムーズに入るにはカルロスの統治にも関与しているロジャース商会からの許可証があった方が安全に通行ができたのだ。
「許可、とな」
「はい、実は……」
「よいよい、わかった。許可を与えよう」
アリスがいたからなのか父ウィリアムは話しを聞くまでもなく満面の笑顔で了承した。
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、嘘はつかぬ」
「ありがとうございます!」
思わぬ快諾にエリックが笑みを見せ、頭を下げる。
しかし、アリスは違和感を感じていた。
よかった……て、あれ?通行許可の話をまだしていない気がするんだけど。
そう思い、アリスが首をかしげていると、エリックと父ウィリアムが何やら会話し始めている。
「ところでエリックよ。アリスとはどこで会ったのかな」
「それは、大学で――……」
いつ知り合ったのか、ローズ商会の人間なのか。アリスと仲良くしているのか。
父ウィリアムの質問にエリックは紳士に答えていた。そして嬉しそうにしながらうんうんと頷く。
一見すればごく普通の会話だったのだが、その様子をほほ笑みながらと聞いていたアリスは違和感の正体に気づいた。
そして顔をみるみる焦った表情に変わり会話に割り込んだ。
「あ、あのお父様……」
「おお、どうしたアリス」
アリスは複雑な表情をして恐るおそる質問してみる。
「許可についてなんですが」
「ああ、それがどうした。私は許可するぞ」
何故その話をもう一回するのかと父ウィリアムは不思議そうに首を傾げる。
「あのー、その許可の内容はご存知ですか」
アリスの質問に対して何をバカなこと言っているんだと言わんばかりの表情をした父ウィリアムは答えた。
「え?何を言っているんだ。結婚の許可だろ」
父ウィリアムの返答にアリスは言葉を失った。
そして、エリックが一瞬凍りつく。しかし、よくよく考えればエリックにとっては何の悪い話でもなかった。
「あ、ありがとうございます!」
父ウィリアムの言葉を聞いて改めて深々と礼をした。
その姿を満足そうに眺めている父ウィリアム。
……何よこれ
アリスが呆然としながらアランの方に顔を向けると目が合ったアランは気まずそうに顔を背けた。
原因は兄様か!




