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クリスの騎士団が結成されると早速旅立ちの準備が進められていた。

その様子をアリスは少し寂しい気持ちで見ていたものの、大切な使用人かつ現子爵の護衛が任務なのだ。

クリスを止めることもできずアリスは見守ることしかできなかった。


また、入浴場はクリスの任務に伴い一時休業となってしまった。せっかく事業が順調に進みかけていた状況で投資資金の回収を行っていた途中なため、頭の痛い悩みだったがそこは国家の任務としてエリックが取り計らってくれて維持費の一部を国が補償してくれることになった。少し忘れてかけていたものの、そういう意味ではエリックもローズ商会の従業員として仕事をしっかりと果たしているようだった。


そして、旅立ちの日。

ロザリー、そして護衛や世話役としてメアリ、クリス、カルヴァンをアリスとベル、他使用人が見送っていた。


「クリス、忘れ物よ」


そう言ってアリスはクリスにローズ商会の石鹸を渡した。


「これは?」

「もし、貴族の屋敷や裕福な商人にお世話になったときのものよ。ついでに宣伝もよろしくね」


道中何があるかわらかない。時には貢物を求められることもあるだろう。

そういったときにこれがあればクリスながうまく交渉してピンチを乗り切ってくれるだろう。

そう思ったのだ。


そして旅立ってだんだんと小さくなっていく姿を見送る。


「なんだか寂しくなるわね……」

「ええ、本当に」


アリスが呟くと、傍にいたベルが頷いた。

行動的なアリスはどちらかと言えばいつも見送られる側だったのだ。

感傷に浸りながらそんなことを考えているとどこからともなく声が聞こえた。


「おや、ボーとしてどうしたんだい」


アリスが振り返るとそこにはエリックがいた。


「あらエリック、遅かったじゃない。もう行ってしまったわよ」

「ああ、別に見送るために来たんじゃないよ」


どうやらそうらしい。エリックに焦った様子がまったくなかった。


「あら、じゃあ何かようなの」

「まあ、立ち話もなんだから」

「……それ、私のセリフなんですけど」


アリスはため息をつくと、ベルを引き連れてエリックを会長室へ案内した。


「それで、用件とは?」

「君との愛をか」

「はいはい、それはいいから。で?」

「釣れないなあ。」


そういうとエリックはため息をつき顔をうな垂れた。そこで落ち込んでくれればかわいげがあるのだが、残念ながらエリックはまったくへこたれていないらしい。すぐさま笑顔に戻ったかと思うと用件を話し始めた。


「実は、今度ライン連合国に行くことになった」

「ライン…ああ」

「ああ、まあ連合国というだけあって諸王国の同盟みたいなものだからね。一部ではライン連邦とかライン同盟みたいな言われ方もしているらしいけど」

「それで、そこへどうして私が」

「ああ、それは途中カルロスを経由していくからね。よかったらどうかなと思って」


アリスはその言葉を聞いてピクリと反応した。

故郷に戻る予定が見通せなかったアリスにとっては絶好のチャンスだったのだ。アリスの心が揺れる。

しかし、一つだけ問題があった。


「でも、商会が……」


そう、問題は商会の運営だった。今クリスもロザリーもいない。そこへアリスが出てしまえば商会は休業状態となってしまう可能性が高かった。


「そういうと思ったよ」


そういうとエリックはにこりとほほ笑みベルの方をちらりと見た。

その意味がわからずアリスはベルの顔を驚いた表情をして見る。


「……はい、実は」


そう言ってベルはおずおずと話し始めた。なんでも、その話は以前からあり、エリックが既に自分が従業員であることを話して内密で話を進めていたらしい。

そのため、貴族向けの販売で予約販売をすることを工房と話済みなのであとは納入をウィリーに任せてしまえばとりあえず現状維持ができるところまで進んでいるそうだ。また、屋敷内にいた若手従業員や販売員も順調に育ってきており意思決定にはアリスが必要なものの、この日のために2、3週間くらいであれば平穏な状況であること前提で経営が回るところまでいっているとのことだった。


「……い、いつの間に」

「その……す、すいません……」


アリスは開いた口が塞がらなかった。今さらながらローズ商会の規模がそこまで大きくなってきていたことに認識させられた。

どうやら今回の件はエリックの独断で進められたらしい。その能力は、特に判断力と統率力については認めざるをえなかった。

が、それはそれ。会長であるアリスに知らせていないことは大問題だ。アリスはエリックを睨んだが、エリックもさすがに気まずそうにしていた。


「わ、悪かったと思っているよ。でも、そうでもしなければ時間を作ってアリスさんはカイロスへ戻ろうとしないだろ」


それに関しては間違ってなかった。もとよりその覚悟でカルロスを出たのだ。

いろいろと文句は言いたかったものの、エリックの思いやりであれば許せなくはなかった。それにベルに関してもエリックが王家の一族と知っているだろうし断ることができなかったことは想像がついた。


「……わかったわよ」

「え?」

「ついて行ってあげると言っているの。それじゃ不満」

「不満もなにも喜んで」


アリスの了承にエリックは喜び出す。その言葉を聞いてベルも肩の荷がおりたのかホッとした様子だった。


「じゃあ早速出発の準備を……」

「ちょ。ちょっと待って、出発はいつなの」

「来週だけど?」


驚くアリスに対してエリックは何を言っているのと言わんばかりの表情をする。


「ら、来週!?何でもっと」

「まあ、細かいことはいいじゃないか。それじゃあ準備して待っててね」

「え?ちょっと!」


カルロスの言葉に思わず了承してしまったことに後悔したものの、時既に遅かった。

止めようとするアリスに気づかなかったのかエリックは意気揚々と帰っていった。


「……なんか最近エリックのペースに流されているような」


アリスは嘆くように呟いた。

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