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クリスがバラ騎士と呼ばれるようになってからもローズ商会は順調かつ平穏だった。
プロヴァンに設立したマーセル商会には無香料石鹸の技術を持った職人を派遣し、その生産も始まってガイア帝国向けへ販売を開始しつつあった。意外だったのは、ガイア帝国の帝都では既に大きな入浴施設があるらしく、帝都向けの需要がかなりあるらしい。
そのおかげで嫌な匂いのしない。マーセル商会の商品は順調に売上を伸ばし、後々ローズ商会の商品も流通経路に乗せる話もでてきている。
「これで、ローラン王国、ガイア帝国、カイロスには販売経路ができそうね」
予想以上にライセンス販売の管理が楽だったことでアリスがしたかった拡大は続けることができていた。
「あとは、ライン連邦かしら」
そう呟いてみるがそもそもその国がどんなところなのかアリスはよく知らなかった。
ロジャース商会も交易で販売することがあっても拠点を持とうとせず、有名商会でライン連邦に進出しているところと言えばカイロスのカルヴァート商会くらいだった。
「ちょっとクリスに相談してみようかしら?」
そう思ってクリスを呼ぼうと考えベルを呼ぼうとしたが立ち止まる。
そして、アリスはいい考えを思いついた。
「そうよ!せっかく入浴場を作ったんだし、石鹸事業もしているんだから入浴場で話してみるのもいいかも。たしかクリスも楽しいとかなんとか言っていた気がするし」
そう呟くとさっそくベルを呼び、先にベルに話をしてからみんなを呼んでもらうことにした。
なお、最初に話したベルは驚いていたものの、顔を赤らめながら頷いてくれた。
その様子に思わず胸がキュンとして抱きしめたくなったもののそこはぐっと堪えた。
そして、呼びに向かっていたベルが戻ってきて最初にやってきたのはロザリーとメアリだった。
子爵として頑張るロザリーとそれを必死に支えようとするメアリは相変わらず主従関係だった。
「最近、調子はどう」
「まあまあと言ったところでしょうか」
そういうとロザリーは笑顔をアリスに向ける。
ロザリーは相変わらずの返答だった。おそらく慣れない仕事で無理をしているだろうことをアリスは察してしまったが、頑張っている人に頑張れと無理強いするつもりはない。気づかないふりをして入浴場の話をすることにした。
「ねえ、ロザリー様。一緒に入浴場へいかない」
「入浴場ですか。それなら私は何度か……」
「違うの。今回はローズ商会の主要メンバーで行かないという話しよ。余計な気づかいも必要ないように無礼講にしてね。まあ、そうしないと私は平民だから困っちゃうんだけど」
そう言ってアリスは笑顔をロザリーに向けた。
ロザリーは少し悩んだ様子を見せたものの、アリスのほうを見て笑顔で頷いてくれた。
「よかったわ。あとはクリスだけね」
そうアリスが言ったときだった。
「失礼します」
その声が聞こえた後、クリスがが部屋へと入ってきた。
「あ、クリス。今日もお疲れ様。入浴場の調子はどう」
「はい、おかげさまで順調です。それにマーセル商会の無香料石鹸は男性の騎士から特に人気が高いですね」
「そう、それならよかった。これでマーセル商会の基盤も安定してきそうね」
「はい。ところでご用件とは何でしょうか」
その質問にアリスは待ってましたとばかりに笑顔をクリスに向けた。
「用件はたいしたことじゃないわ。みんなで無礼講の入浴をしましょう」
「え、入浴?みんなで?」
クリスは突然の提案を受けて驚く。周囲はその様子を見て苦笑いしていた。
アリスはその苦笑いが少々不服だったものの、自身の思いつきだったため堪えて話を続ける。
「ええそうよ。以前クリスが言っていたじゃない。多人数での入浴は案外楽しいって」
以前、クリスが言っていたことをアリスが言う。
しかし、クリスはあまり乗り気ではないらしい。苦笑いをしていた。
仕方なく、アリスはとどめの一言を言う、おそらくクリスが断りにくい内容を。
「もう既に他のメンバーからは了承を得ているわ。あとはクリスが了承するだけよ。もちろん時間はクリスが空いている時間に合わせてあげる」
アリスは満面の笑みでクリスを見た。
クリスの身分やローズ商会の地位で言えば、断っても問題ないのだが、なぜかクリスはどかか輪を大事にしたがる傾向にあった。
「わ、わかりました」
「よし、決まりね。じゃあ日時は来週なんてどうかしら」
予定を決めていなかったので適当に日程を言う。もし、無理だったらその場で言ってくれればいいのだ。
周囲は断ることもなく、クリスだけ夜でということだけお願いしてきたので了承した。
「よし、それで決まりね。営業時間の都合もあるでしょうから各種手配はクリスお願いね」
「かしこまりました」
こうして入浴会の日程が決まった。




