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3-0 そして私にできるコト

大変だったのはその後からだった。

エリックは確かに約束を果たしてくれた。


「……でもねえ」


アリスがちらりと目をやるとそこにはローラに代わりベルがいた。

それはいいのだ。エリックのおかげでローラが父の爵位を受け継いでロザリー子爵として復帰することになったのだから。

しかし、問題はその隣でくつろいでいる人だった。


「エリック。なんでそこにいるのよ」

「ああ、気にしなくていいですよ」

「私が気にするのよ!」


あれ以来エリックが会長室によく出入りするようになっていた。

それには理由があった。エリックはクリスが盗賊騎士を討伐したことにしてしまったのだ。そのおかげでクリスの罪はなくなったものの、エリックのものに騎士見習いとして配属され、剣術や馬術の稽古が強制された。そしてその格好の稽古場所としてローズ商会の屋敷をエリックが選んだのだ。

エリックの目論見がわかったところでもはや手遅れだった。カルヴァンも騎士見習いとしてエリックのもとに配属されてしまったため、アリスはクリスにこれまでどうり仕事してもらうにはその案に了承するしかなく、こうして今エリックが会長室へ出入りしているのである。

もっとも、アリス自身メリットがない訳ではなかった。クリスが騎士見習いとして配属されたおかげでエリックに恋するご令嬢達の嫉妬がクリスの方へと向かっていってくれていた。そして、子爵となったロザリーも本人の希望によりローズ商会の屋敷へと留まり公ではないものの屋敷を取り仕切ることになったのだ。アリス自身は何も失わずに部下が出世している。悪い話では……


「あれ?これってクリスが騎士になったら身分的にはクリスの方が上なんじゃ、それにロザリーも既に……」


そう理解すると頭を抱えたくなった。

ただ、頭を抱えたくなったのはそれだけではない。そのことさえもちっぽけに思えることを目の前の男が言い出した。


「アリスさん、私もローズ商会で働かせてください」

「は?何言っているかわかっているのエリック」


そう、こうしてエリックが会長室に来ているのはローズ商会で働きたいというお願いをしにきていたのだ。

ただ、これでも相手は王子様。そうやすやすと頷けるはずもない。


「わかっていますよ。公が難しいなら秘密裏でもいいですよ。大丈夫だって貴族向けの商売だってもっとうまくいくよ」

「いや、あなたが貴族に対して動いた時点で問題になるから。絶対ローズ商会が怪しくなるから。巻き込まれるから!」


一見、貴族に対して人脈のあるエリックであるが、身分が大きすぎるのだ。彼が動けば周囲がみんな注目する。そんな人が商売に加わればどうなるかは想像するまでもなかった。権力闘争に巻き込まれないためにはどうしてもローズ商会は王家と一線を引く必要があった。

ただ、月に何度もやってきてはお願いしてくるエリックにアリスはついに屈するすることなる。


「アリスさん、私もローズ商会で働かせてくださいな」

「…はぁ、エリック。これで何度目よ」

「さあ、でも了承してもらえるまでは頑張るつもりかな」

「いやいや、そんなところを頑張らなくていいから」


始まりはこんな感じになんともなく断るところからだった。


「何を心配しているの?付き合ってしてしまえば何の問題もないじゃないか」

「しないわよ!それに何度言ってもお断りよ」

「うーん、じゃあこういう条件ならどう」


そういうとエリックは真剣な眼差しでアリスを見てきた。


「言ってみなさいよ」

「今後、私はアリスさんに付き合ってと言いません。だから秘密裏でもいいから働かせて」

「……うぐっ」


アリスは思わず声が漏れた。エリックから告白されない。これは非常に魅力的に移ってしまった。しかも秘密裏でもいいということは公ではエリックとアリスは無関係を貫ける。


わ、悪い話じゃないんだけど。


少し考えてちらりとエリックを見てみるとエリックはニコリとしている。

あの表情はどう考えても何かある表情だった。

例えば、今ここで否定してしまえば実はアリスが告白して欲しいと言ってしまっているような、じゃあ肯定してしまえばエリックの思惑どうりのような。


あれ?これエリックにとってはどっちに転んでも悪い話にならないんじゃ……


思案したあと再びちらりとエリックみると同じ表情をしている。やられたと思ったがアリスの選択権はどちらしかなかった。

しかも証人としてベルが二人の様子を見ている。


「……わ、わかったわよ」


エリックの計略勝ちだった。アリスもクリスももともとそう言った人に対しての計略を得意とするタイプではなかった。

そのことがはっきりと裏目にでてしまった。


「ありがとう。ところでそんなに告白嫌だった?」

「あ、あたりまえでしょ!ところかまわず告白してくるような奴!」

「じゃあ、真剣であれば……」

「え?」


エリックが真剣な表情になった気がした。ただ、エリックが何を言おうとしているのかわからずアリスは首を傾げる。

この約束をしてしまえばエリックは告白できなくなるのだ。この会話に意味があるのかアリスには理解できなかった。


「いえ……なんでも」


そういうとエリックはいつもの笑顔へと戻っていた。


「それでは、明日からよろしくお願いしますね。会長」


エリックはそういうと会釈をして部屋を退出していった。

そして退出していったエリックを見てアリスはため息をつく。


「私、会長だけど平民なのよ。なのになんで部下の方が身分上になっていくのよ……」


その様子にベルはかける言葉が見当たらないのだろう。少し困惑した表情をしていた。その様子に気付いたアリスはベルにこう言った。


「ベルは身分の出世をしないでね」

「は、はぁ……」


ベルが複雑そうな表情を浮かべていた。

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