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2-9 海の見える町

翌日からアリスはクリスに連れられてカルヴァンとも一緒にマーセルの町を歩いた。

最初は工房の通り、次に市場、そのまま突っ切って港へ。

その道中美味しそうなものがあれば屋台や飲食店に入って舌鼓をうった。

カルロスや王都オルランドは内陸だったのでマーセルのように新鮮な海の幸を堪能することはほとんどない。

海洋都市ならでわの食べ物にオリーブが良い感じマッチしていた。


これだけの動きであれば他の人からはただの観光客か市場で楽しんでいる人に見えただろう。と言いつつアリスもクリスが何をしているかわからずクリスを粒さに観察してあれやこれやと考えてみたがまったく何を考えているのかわからなかった。そもそも案などそう簡単に思い浮かぶものではない。

なので途中から潔く諦めて海の町並みと料理を楽しんだ。そして、カルヴァンも同じ気持ちだったらしく、物珍しそうにアリスと同じように町並みと料理を楽しんでいた。

そして港に着くころにはお腹もいっぱいになり、広大な海を眺めながら、その海へと出航していく船を眺めたり波がどこからくるのかを考えたりした。

そんなことを3日目まで続けた。

アリスはまったくいい案が思い浮かばなかったが、最初は笑顔一つ見せず真剣な表情だったクリスが日が経つにつれ笑顔に変わっていく様子を見て、クリスの方で何か案が思いついていることがわってくる。

どうやらアリスの草案に目処が立ったらしい。


約束の3日が経過し、アリス達はは再びプロヴァン辺境伯のもとへと行った。


「さて、マーセルはいかがでしたか」

「とても興味深く、楽しかったです」

「それはよかった。ところで特産品の件についてですが何かよい案は見つかりましたか」


プロヴァン辺境伯の問いにアリスは笑顔で答えた。


「ええ、詳細はクリスから話させてもよろしいでしょうか」

「それはかまわないが」


プロヴァン辺境伯の視線がクリスへと向いた。


「それではお話をさせていただきます。これはまだ草案ですが、当初からローズ商会では新しい石鹸を作りたいと考えておりました。このマーセルを見たところ港町ということもあり、いろいろな品物を取引することができるのでないでしょうか」

「そうだな。特にガイア帝国からいろいろなものを輸入したり輸出できる。しかし石鹸とどんな関係があるのかな」

「現状、ローズ商会では原材料をガイア帝国とこのプロヴァンの地から調達しています。そこでいっそうの事原材料の調達地であるマーセルで新しく無香料の石鹸を作ってみてはいかがでしょうか。ローズ商会の作り方は元々匂いを抑える工夫をしておりますが、無香料を作れれば、男性が多い騎士の方でも使いやすいものとりますし、貿易の拠点としてガイア帝国へもかなりの取引が見込めるかと思います。また、マーセルには既に匂いの少ない石鹸を作っている実績もありますのでむ無香料の石鹸ということであれば職人を育てるのももしかしたら比較的容易かもしれません」

「新しい特産品を考えていたが、既存のものの価値を上げるのか」

「ええ、新しいものよりも基盤がありますので工夫次第でどうにかなるかと思います。そして、鮮度や品質に関してもこのマーセルは理想的な地かと思います」

「しかし、石鹸自体はもともとあってだな。既製品があるところでそんなにうまくいくだろうか」

「その点は問題ないかと思います。ローズ商会で原材料を知る職人を送りますのであとはプロヴァン伯の名をお借りできれば無香料石鹸はうまくいくと思います。特に今回はローラン王国への販売を意図するのではなく、ガイア帝国への流通も視野にいれた販売を考えております」

「ふーむ、敵国へ販売するのか」


プロヴァン辺境伯は渋い顔をした。

ガイア帝国へローズ商会が進出できるのは願ったり叶ったりだがプロヴァン辺境伯にメリットがあるとは思えない。

ガイア帝国への販売と聞き、プロヴァン辺境伯迷っているようだった。


「プロヴァン伯。戦いにおける最上の策は戦わずして勝つことかと思います。販売が成功すれば、プロヴァン伯は商会を経由して軍資金を得ることができます。そして例え戦争となりガイア帝国が石鹸の供給をストップさせたところで無香料石鹸であればローラン王国内の騎士が消費したり、倉庫においておくことができます。しかも、販売しているのは商会なので運営が躓いたとしてもプロヴァン伯の名を汚すようなことにはならないかと」

「平和な今だからこそ敵国に軍資金を調達させる……か」


プロヴァン辺境伯は話を聞くにつれて表情を変え、ニヤリとした。

アリスもクリスの話を聞きながら関心するようにうんうんと頷く。


「わかった。その案を採用しよう」


こうして、ローズ商会はさっそくプロヴァン辺境伯と話し合い、新しい商会を作ることになった。プロヴァン伯公認のもとでマーセル商会が結成され、会長などの重役、販路、工房、ギルドへの加盟はプロヴァン伯側が用意し、製造の職人責任者と一部販路はローズ商会が用意、利益は同率で分配することで話が決まった。

この契約内容は人材不足と資金力が不足しているローズ商会にとっては無理に支店や人を雇って質を劣化させることがなく拡大できる理想的な契約内容となった。


そして、話も終わろうかというころ。

アリスはローズ商会が訪問するうえで一番確認したかったことを質問をした。


「そういえば、プロヴァン伯様はラヌルフ伯様と仲がよろしいとお伺いいたしましたが」

「ラヌルフ伯か。貴女達が来た場合は話すことなるかなとは思っていた。確かに同じガイア帝国の国境を守る辺境伯としてはそうだが誤りだ。周囲は私がラヌルフ伯と親密に思われているようだが、それらはあくまでも商会あってのことでな。可能であれば今回ローズ商会と協力した商会ができることからラヌルフ伯とは同じ爵位同士、ガイア帝国への防衛でのライバルとして関係を保ちたいと思っている」

「そういうことだったんですね。しかしどうして私たち質問するとご存知だったのですか」

「ああ、最近オルランドでのラヌルフ伯についてよくない噂を聞いてな」

「ずいぶんとお詳しいのですね」


アリスの質問にプロヴァン辺境伯は黙った。

そして珍しく躊躇った表情をした後少し間をおいて話始めた。


「数年前のオーウェン子爵の件は知っておられるかな」

「噂程度ではございますが聞いたことがあります」

「オーウェン子爵は噂であのようなことになった。だから私もこうして王都の噂には注意を払うようになったのだ」

「そう、だったのですね」


オーウェン子爵の話を聞きローラのことが思い浮かんだ。

プロヴァン辺境伯も同じようなことにはなりたくないからできることはすべてする。つまりそういうことだった。

プロヴァン辺境伯そこまで言うとため息をついた。


「まあ、噂などで名を傷つけられてはたまらんからな」

「お互いに余計な噂に惑わされないよう気をつけないといけませんね」

「ああ、まったくだ」


こうしてプロヴァン伯との取引話は終わった。

これから始まるであろう新規商会のほとんどの準備はプロヴァン伯側が用意することになっている。ローズ商会のアリスとクリスはやることがなくなってしまったため、再びオルランドへと帰ることにした。

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