7 黒髪少女は自覚がなさすぎる
1-4 私、中世で仕事をしてます!
アリスの部屋
アリスは悩んでいた。
学歴等を確認したが、クリスは出来過ぎる。このままでは私の従者ではなくロジャース商会の部下として出世してしまうかもしれない。
いや、確実に出世する。
『クリスは私を超える存在』
女の勘がそう言っている気がする。
でも、それでは困る。私の目的は大陸一の大商会を作ること。クリスが私を超えているかどうかも問題だけど、最低でも敵として対立してしまうことだけは避けなければいけない。
そして既にお父様はクリスをロジャース商会に取り込もうと考えている。
それを阻止するためには少しの間だけでもクリスが実力を隠してもらうわなければならない。幸いなことにクリスは身分を隠している可能性が高いし目立ちたくないはず。
その間にクリスが私の従者であることを周囲に認識してもらう。
アリスはそれに賭けるしかなかった。
コンコン
アリスがクリスを引き抜かれないように考えていると、扉がノックする音が聞こえた。
「私です。クリスです」
「どうぞ。入ってらっしゃい」
クリスが扉を開けて入ってきた。
「失礼します」
そう言った後に礼をし、再び身体を上げると静かに扉を閉める。
「あら、あなたメイドの経験でもあったの」
「え?ございませんが?」
どうやら違うらしい。どうみても使用人と同じ動きをしていたと思うんだけど、クリスならありえるかも。
学業レベルといいクリスの常識は何かがおかしい。そう考えるとおかしなところも不思議と当たり前に感じてしまう。
「あなたならありえるわね。まあいいわ。こっちに座りなさい」
「はい」
今はいちいち礼節で指摘している場合ではない。
アリスは真剣な眼差しでクリスを見た。
「話というのはね」
「はい」
「あなた、もう少し出来ないふりをしなさい」
「出来ないふりですか」
目立ちたくないならすぐ了承してくれるはず。
アリスはそう思っていたがクリスは何やら迷っている。
「そう。わかった?」
「どうしてですか?」
「どうしてもよ!」
「はあ、それで解雇されても困るのですが」
なるほど、それが理由なのね。
確かにクリスの言うことももっともかもしれない。
せっかく見つけた従者の解雇はアリスも困る。
「そうね。それも困るわね」
「はい」
「会計の仕事は2日2回に分けて与えられるらしいの。与えられた仕事だけ時間いっぱい使って終業に合わせて終わらせる。これならどう?」
「そもそも私に仕事ができるのでしょうか」
「出来ないならそれはそれでいいの。そしたら私の下に置いてあげるだけよ。それなら問題ないでしょ」
「はい」
・・・あ、最初からこう言えばよかったかもしれない。
クリスはすんなりと了承してくれた。
「ちなみに午前は前日午後の分、午後は当日午前の分となっていて、作成の日付と取引日付は間違えないようにね。就業時間は9時から17時までよ。日が暮れちゃうと火が必要になるからちゃんと時間を見るようにね。」
「はい」
「質問はある?」
「はい。今日は何日ですか?」
え?日付も知らないの。いやクリスならありえるかもしれない。
クリスの常識外れな問いにアリスは思わずため息がでた。
「・・・はぁ」
「・・・?」
クリスは不思議そうにこちらを見ている・・・かと思ったら急に恥ずかしそうにしていた。自身が常識外れな質問をしたことに気づいたのかもしれない。
あれ、でもこれで私が上の立場に・・・なれた気はしないわね。
意地悪しないでちゃんと答えてあげましょ。
「明日は6月の第2週目の第1勤労日よ。ちゃんと覚えていてね。」
「はい。では前日の記帳は6月の第1週目の第5勤労日でよろしいのですね。」
「え?ええ、そうよ。」
農家の人は休日をそこまで意識しないと思うんだけど、
休日は日付としてカウントしない営業日については理解しているらしい。
「クリス・・・あなたって不思議よね。」
「ふぇ?」
あ、思わず声に出してしまった。誤魔化さないと!
アリスは一瞬慌てたがクリスが不思議そうにしているので適当にごまかして見る。
「ふぇってなによ。」
「す、すいません。」
「田舎の天然娘なのかと思えば、教養があるし。なのになぜか常識がないし。」
「す、すいません。」
「私に謝ってどうするのよ。」
「すいま・・・・えーと。」
クリスは首をかしげて困った顔をしていた。
こうしているとクリスは可愛いのに。
困った顔をしているクリスを見ているとだんだんと警戒していた自分がアホらしく感じてきた。
私、クリスに何を警戒していたんだろう。
そう思うと何だかアリスは自分の小心さに笑えてきた。
「ふふふ」
「え?」
「ははははは、クリスはやっぱりおもしろいわ。」
クリスは首をかしげて更に困った顔をしている。
やっぱりクリスは可愛いわ。従者としていてもらえるように私も頑張らないとね。
気持ちを引き締めて必要最低限だけクリスに指示をだすことにした。
「そうそう、仕事が終わったら、私の方もちょうど勉学と雑務が終わるからこちらにいらっしゃい」
「はい」
「あと、食事等は使用人に伝えておくから屋敷の雑務は必要ないわ。明日は頑張りなさい」
「はい、ありがとうございます」
こうしてアリスの1日が終わった。
今日はとても長い一日だった気がする。そしてとても疲れた。
それでも心のどこかでワクワクする感情がアリスを笑顔にしていた。
明日から楽しい日が始まる。いよいよ大陸一の大商会へ一歩を踏み出したのだ。




