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2-8 守るべき理由

惨状と臭いが立ち込める中、アリスは呆然としてた。

そして我に返り、クリスを見てみると突然耳を塞ぐように頭を抱えだした。


「クリス?」


クリスの異変に気付いたアリスは声をかける。

そして、クリスは怯えるようにしながらアリスの方へ振り向いた。


「あ、アリスさん」

「クリス。あなたはよくやったわ」


クリスの手をとり、アリスは目を見て微笑みながらそう言った。

本来であれば他にかける言葉はもっとあったのかしれない。しかし、アリスは咄嗟にこの言葉しか思い浮かばなかった。

クリスの目から涙が溢れていたから。

そして、アリスの声に我に返ったのだろうか。

クリスは手を口におさえると慌てて道路脇へ走っていった。


クリスが道路の端で何やら自己処理している間。

アリスはカルヴァンは馬車を動かして少し先へ進むように指示をだした。

この場所はあまりクリスにとって良い場所ではなくできるだけ早急に離れた方がいいと判断したのだ。

それに、相手から襲ってきたとはいえ相手は騎士。その騎士を全員死亡させたことがばれればそれはそれで問題だった。

アリスはクリスの気持ちが落ち着くのを待ち、クリスがアリスの元へ戻ってくると付き添って一緒にカルヴァンのいる馬車の待つ所へ向かった。


そして、クリス達は少し現場から離れると再び休んだ。

名目は予定変更を伝えるためだったが、クリスの容態を確認するためだ。

案の定クリスは大丈夫だと言いだしたが、アリスはクリスの手と声が微かに震えているのを見逃さなかった。

その日は予定を変更して今居る所から一番近い町の宿で泊まることになった。

そして、ほどなくして宿のある町は見つかり、一行はそこの宿で一泊することになった。



そして、その日の夜までクリスは部屋からでてくることはなかった。

おそらく寝ていることはなんとなくわかっていたものの、庇われたアリスがかけるべき言葉が思いつかなかった。

それでも助けてもらったアリスとしてはそのままじっとしていることの方がつらかった。

それに今までのクリスがどこか遠くへ行ってしまう。これまでのクリスではなくなってしまうそんな気がした。

アリスは悩みに悩んだ末、クリスの元へと向かってみる。


コンコン


「クリス、いいかしら」

「あ、はい。今ドアを開けます」


少し弱弱しい声がした後、クリスはドアを開けてくれた。


「ありがとう」

「いえ、こんな時間にどうされましたか」

「ちょっと寝付けなくてね。よかったらお話でもと思って」

「そうだったんですか。私はかまいませんよ」


クリスを心配して見にきましたなんて言えるはずもなくバレバレと思われる嘘をつく。

それでもクリスは微笑みながら了承してくれ、お互いに窓辺のテーブルにある椅子に腰掛けながら一緒に話をした。

こういった場でアリスはいったい何を話していいのかわからず仕事のくせで新しく始めた入浴場についての話をしてしまったが、クリスはその話をずっと笑顔で聞いてくれていた。

最初は嬉しかったけどクリスのその笑顔が陰るのが恐くなってきてアリスはひたすら話続けた。ずっとずっと……


どれくらい話していたのだろうか。次第に眠気が襲ってきてアリスは何を話しているかさえ朦朧としてきていた。


「アリスさん。そろそろお休みになられた方がいいのでは」


アリスの状況を察したクリスが声をかけてくれる。

ただ、その言葉が今日はなんだか悲しかった。自身を守ってくれたクリスに何もしてあげられない自分が。


「ねえ、クリス。今日は一緒に寝てもいいかしら」

「え?」


アリスは微笑んで言ってみた。クリスを一人にすれば恐らく出来事に苦悩するだろう。

だったらせめて今晩くらいは一緒にその苦悩を共有できれば。アリスはそう思った。

そして、クリスは少し考えた後にコクリと頷いた。

アリスはクリスに誘導されながらもベッドに入り、続いてクリスも入ってきた。


「クリス、手を繋いでもいいかしら」

「はい」


クリスがコクリと頷いたのを確認すると、アリスは手を繋いだ。

手を繋いでいればクリスの苦悩を軽減できるかも、少しでも共有できるかもしれない。

そんな淡い期待と手のぬくもりを感じるとアリスは少しだけ微笑んだ。


しばらくはお互い見つめあっていたものの、眠気は既に限界がきてしまったらしい。クリスと手を繋いでいる安心感かアリスは寝てしまった。

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