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65 私は維持をさせない

2-6 一休み

何がともあれ無事に資金が集まったことで入浴事業の開始は決定的なものとなった。


途中、試験的な稼動確認で湿度の影響のせいか照明である蝋燭の火が消えてしまう問題に直面してしまったものの、クリスの提案によってランプに近い形状にして空気を入浴施設外から取り込む工夫をすることによってその問題は無事に解決された。

クリスが言うには酸素と二酸化炭素と呼ばれるものに関連があるらしいとのことだったが、詳細に関してはクリスもよくわからないらしく『できたことは気にしない』ということで満足することにした。

また、施設としては貴族たちが利用するため、貴族の屋敷に近い内装とされた。また、貴族が多く利用することも考慮され、無防備な状況での放火を避けるためにレンガと石材も多く利用した建物となった。そのため、下手をすれば1年以上かかるかと思われたものの、王家の出資もあった建物であったために最優先で建造がすすめられ、人員も当初の想定よりも多く加わったことによって数ヶ月で完成してしまった。

これについてはアリスとクリス共に驚きを隠せなかった。

こうして無事建物が完成すると男女別入浴場の営業が始まった。

営業については日数を休日を含む週3日で時間は主に夕方のみとして、お湯の温度維持コストを下げるように努力された。

クリスが魔法を隠したがっていることも考慮してそして水と火はクリスが責任者として勤めていることにし、関係者以外立入禁止とした。これにより、必要最低限の人数での運営となったことから、火の維持と清掃する人を雇えば営業ができる非常にシンプルな運営体制となった。

なお、料金については各貴族の使用人を通じて徴収し、護衛も門前までとして基本的には武器持込禁止とされた。


目的は非常に安直な発想から開始された事業ではあったものの、結果から言うとこの事業は成功を収めることになった。

というのもそもそも入浴場の施設は相応にコストがかかるのだ。それも各貴族が自前で用意しようとすれば水を運ぶ仕事、湯を沸かす仕事、温度を維持する薪代などかなりの手間と時間、費用がかかった。そのため爵位をもっていても水浴びや布を濡らして拭う貴族や騎士も珍しくなかったのだ。それらを手間をすべてやってくれる入浴施設は、複数人で入ることを躊躇わなければそれなりに割安で利用でき、施設や浴槽の大きさについても申し分なかった。


もっとも、今回の件ができるようになった理由が大量の水を用意するクリスの魔法によるものなため、競合他社が表れても同一環境でまねなどできるはずなどなかったことは言うまでもない。



これまで仕事や訓練の後に自分たちで水浴びや体を拭いていた騎士達はいつも身だしなみに気をつかっていたいたため喜んで利用した。 特に、この入浴場では水風呂の他に飲料としての水と石鹸が無料で使えるようになっていたこともあり。しだいにご令嬢や貴婦人達は第2の社交場として利用するようになっていった。

そのことを受け、要望から男女別れる出入り口に友人などがくるまで待てるようにしていた待合室の一角に自由に食べ物を食べれる場所を用意するとさらに好評となった。


しかし、ここで問題が起こる。

時間制限をしながら様子見で運営していたものの、あまりに人気がですぎたために入浴場が混雑している状況になってしまったのだ。このままでは質の面で貴族向けとしての高級感を維持できなくなってしまう。

運営開始から一ヶ月も待たずに発生した問題に対してアリスとクリスは至急会議を開いた。


「クリス、どうしましょう。予想以上に人が入りすぎているわ」

「そのようですね。これはさすがに想定外でした」

「ええ、私もよ。でも何とかしないと評判が落ちてしまうわ。何より恐いのはこの隙をついてライバルの参入を許してしまうことよ。何かよい方法はない?」

「そうですねえ」


クリスが首を傾げながら考えた。

今のクリスは一部とは言え記憶をなくしているのだ、そのことを知ってからアリスは返答を待つようになった。

これまで即答で返してきたクリスに対して違和感を感じてしまうけど、理由を知れば待待つことができた。

そして、しばらくしてクリスが反応を見せ、笑顔になる。


「アリスさん、少しお待ちいただいてよろしいでしょうか」

「何か思い当たるのがあったのね。わかったわ」


クリスは急いで会長室を出て行った。


どうやらいい案があるときはクリスは先に笑顔を作ってしまうらしい。そのことは一部記憶を失った今でも変わらないようだった。

アリスにとってはわかりやすくて助かるのだけれど、アリス自身もそういったく癖があるのだろうかと思うと少し複雑な心境になった。

そんなどうでもいいことを考えているとようやくクリスが戻ってきた。


「お待たせしました」


その言葉と共に入ってきたクリスは早速提案をしてくれた。


テーマパークにおいて、人が入りすぎた場合、人がごった返し、お客様に対するサービスが十分に行き渡らず、結果として品質と評判を落としてしまうことがある。そのときの対処方法として有効なのは施設規模の拡大、入場料の値上げ、会員制によって上限を設けることが望ましい。施設規模の拡大が最もよい手段ではあるものの一番コストがかかりどうしても実現できない場合が多い。その場合は入場料の値上げに合わせて維持費を賄う会員制を導入するとよい。つまり、会員制を導入して数を確保し、サービス維持のために値上げもやむをえない。


……て、テーマパーク?会員制?


アリスはその意味を理解できなかったのでとりあえず入浴施設に当てはめて考えることにした。

そして会員制はギルドと当てはめて。

そして少し考えた後、クリスの目を見て尋ねるように答えた。


「つまり、現状では会員制にするしかないということね」

「そういうことみたいです」


みたいです。その言葉からアリスは少し不安になった。

言葉から察するにクリス自身も十分に理解せずに提案しているのではないかと思ったからだった。


「でも、それで大丈夫なのかしら?」

「それには案があります。会員制は導入するけど会員の入浴施設を利用できる時間は3回の時間で区切りましょう。そして会員はそれぞれの時間しか利用できない。そして食事や待合室なら拡張可能なので、そちらの施設を増設しましょう」


その案を聞いて、ようやくやろうとしていることを理解した。

確かに今は自由にしていたが会員制とやらにすれば身分ごとや出資者ごとの時間配分の振り分けも可能だった。

そして何より今後混雑する心配をしなくていいのは非常に魅力的だった。

ただ、その提案にも穴があった。つまり貴族を待たせてしまうのだ。


「なるほどね。3回に分ければ時間分散もできて会員も3倍に増やせるわね。なら、待っている時間も考慮して合わせて遊技場もつくっちゃいましょうか」

「遊技場ですか?」


待たせている貴族の不満を解消する方法、最近場所もそれほど取らず貴族に話題となっているものがあったのだ。


「ええ、チェスを導入してみましょう」


チェス。アリス自身まだやったことがなかったが、密かにブームになっていることを把握していたのだ。


「なるほど、では準備にとりかかります」


アリスは自信を持って提案した内容だったが、クリスは驚くことすらなかった。

チェスについて知っているのか、首を傾げるどころか納得して早速準備へと向かっていった。


「ほんと、クリスて不思議」


クリスが退出したのを見送った後、アリスはそう呟いた。


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