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2-6 一休み

目が覚めると日が昇り始めていた。

椅子でずっと眠ってしまっていたせいか、身体が少し気だるかったもののこの姿をローラに見られたら心配させるだけだろう。

アリスは慌てて起きて身だしなみを整えた。

そしてほどなくしてローラがやってくる。


「おはようございます。アリス様」

「おはようローラ」


お互いに笑顔で挨拶をする。ずっと朝はお互いに笑顔で挨拶するようにしてきたが、悩み事をした後であっても朝一に笑顔で挨拶をすると不思議と心が晴れるような気がした。そして今日もいつものように準備を整えると今日も仕事が始まる。


現状維持で満足するのは盾だけで戦場に向かうようなもの。なら私はその盾を捨てることになっても剣で前に進みたい。


アリスは覚悟を決めてからは速かった。仕事が始まって早々クリスを呼んだ。前日の仕事は夜まで作業をしたおかけで溜まっていない。その時間に入浴事業について話しておこうと考えたのだ。


コンコン


「失礼します」

「クリスね。よく来たわ」


ノック音の後、クリスが入室してきた。

そして、いつもどうりアリスとクリスの目がお互いの顔を見る。そして、いつものように話しを・・・始めることができなかった。アリスは思わず顔を背け、その先にいたローラは不思議そうに見ている。

アリスは昨日の出来事を思い出してしまったのだ。何とも言い難い微妙な空気が場を支配する。

その無言の沈黙を破ったのはクリスだった。


「え、えっと。何か御用でしょうか」

「え?そ、そうね。そうだったわ」


クリスの問い対し、我に返ったアリスは一度コホンと咳払いしてからクリスを見た。

まだクリスの顔を見ると動揺をしてしまうものの、その場にはローラもいるのだ。平静を装いながら話を始めた。


「クリスはカルロスで話していた男女別入浴場の件を覚えている?」


クリスは少し考えた様子をしたあと、何か思い当たることがあったのか表情は穏やかだった。


「はい、確か従業員向けに作っていたものですよね」

「ええそうよ」

「それがどうかしたのでしょうか」

「ローラン王国の王都で作ってみようかと思うの」

「男女別入浴場をですか」

「それは」


そう言うとクリスは何やら躊躇っているようだった。

その様子からクリスは既にアリスの案を察していることがわかった。

以前のクリスに戻ってきた気がする。なんとなくそんな気がしてアリスは表情をほころばせながらクリスに説明した。


「ローラは手品。いいえもうタネもわからないし魔法でいいわよね。そのことは知っているわ」


そう、知っている。というかカルロスからオルランドへ向かう途中でローラはアリスと一緒にクリスが使う魔法を見ていたのだ。

当人は必死に隠しているつもりのようなので突っ込まないが。


「そうですか。ではやはり魔法を使って」

「そういうことよ。でもただ魔法を使っていたら怪しまれてしまうし、あなたが魔女だと思われるのは私も困るの。だから水路を用意したり、加熱設備はちゃんと作るつもりよ」

「そうなのですね。でも地形は大丈夫でしょうか」

「そうね。水路が無理なら井戸を作るか河川の近くに作るしかないわね」


アリスの考えはこうだった。まず、クリスの魔法で湯船に水を張り、水風呂とお湯の風呂に分ける。そして薪を準備してクリスの魔法で火をつける。薪代は相応な費用になるものの初期の火力調整や水を運ぶ労力がほぼ考慮する必要がないことを考えれば掃除の水を運ぶ労力もそれ程必要ない計算となるので十分に採算がとれるし競合が表れたとしても労力のコストで絶対的な優位が見込めた。そして今回も初期は貴族。こういった初動でコストがかかって来るものは多少割高でも好んで使ってくれる相手でなければなからなかった。また、利用することでその相手のコストが削減されるという条件も満たしている。

アリスがそのことを改めて思い浮かべているとどうやら表情がクリスにも伝わっていたらしい。


「わかりました。アリスさんの様子ですと既に計画があるのですね」

「さすがクリスね」


見事に言い当てられたアリスは自信をもって計画を説明した。


「計画はこうよ。まず、貴族向けの男女別入浴場を作るの。そこは利便性を重視した場所にし、そこで一応井戸は掘るわ。そして井戸が出来上がったタイミングで開業し、入浴場に水湯とお湯を作るの。男女別だから4個分になるわね。そして薪は少し高価になっちゃうけど北東にあるロレーヌと工房の廃材を集めればなんとかなると思うわ。それでも水を運ぶ労力がない分だいぶコストは抑えられるわ」

「なるほど」

「そして大衆向けは河川沿いに作り、水路で水を引くのそうすれば水の排水は楽にできると思うわ」

「私は異論ないです」


こうしてクリスからあっさりと了承をえられた。カルロス時代では散々否定されてきた事業計画がこうまであっさりと了承をえられたことにアリスは少し驚いたものの、自身の成長を実感するのには十分だった。

数日とはいえきちんと練った案にアリスは自信を持っていた。そしてクリスは続けて質問をしてきた。


「ただ、予算はどうされますか」

「その件も問題ないわ」

「心当たりがあるのでしょうか?」

「既に貴族たちに協力を頼んでいて、貴族向けの入浴場であれば大丈夫な予算はとれたわ。意外かもしれないけど、貴族の中で一番清潔感に気を使っているのは実は騎士達なの。その人たちに割安で供給することを条件にしたの。そして宗教の問題も男女別にしているから問題ないわ。これで貴族のご令嬢や貴婦人を利用してもらえる環境にできたわ」


実際、計画を練っているときに有力貴族に手紙を送って確認してみたのだ、後々こちらから援助の依頼をする予定だったものの、逆に手紙の内容を見た貴族から申し出があったりした。それら貴族からの援助があればその数に応じて規模をあわせれば現状の安定してるローズ商会の収益見込みと組み合わせてやっていける計算となっていた。


「そうですか。でしたら私は問題ないと思います。私もできることがあれば協力しますのでおっしゃってください」

「ええ、もともとはあなたの案だしそのつもりよ」


こうして作業は始まった。

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