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61 私は現状に満足しない

2-6 一休み

ようやく仕事が終わったとき、アリスはぐったりとしていた。

時間も既に夜がだいぶふけていたのか窓の外はすっかり暗くなっていた。

そして、その事に気付いていたローラは仕事が終わったタイミングを見計らって一休みの準備としてハーブティーを用意してくれていた。


「アリス様、お疲れ様です」

「ありがとう」

「それで、その」


ローラは何か躊躇って言葉を濁していたが意を決したのかアリスの目を見て聞いてきた。


「クリス様と何かあったのですか?」

「ふぁっ」


ちょうどアリスがハーブティーを飲もうとしていたタイミングだったために思わず変な声をあげる。

一歩間違えば大惨事になりそうだったが辛うじてこぼさずに済みアリスはほっとする。

そして、ローラに言われてクリスとの出来事を思い出す。

一緒に出かけたこと。素直に気持ちを伝えたこと。素直に気持ちを伝えた・・・


「ん?」

「どうかされましたか?」


ローラが心配そうにアリスを覗き込んできた。

それはアリスが言葉を発すると同時に俯いてしまったからだ。

アリスは今さらながら気付いてしまった。自分がどんな発言をしていたかということを。


あれってもしかして告白になるんじゃない。


そして記憶を振り返ってみてみる。クリスがどんな反応をしたのか。


クリスはコクリと頷いていた・・・気がする。

あれは了承と受け取っていいの。いや、そもそもクリスにその意図が伝わっていないかもしれない。

そう悩んだが結論がでなかった。アリスとクリスは女性同士、ましてや現在進行形で主人と従者ともなればあの言葉はどうとでも解釈のしようはあった。


「アリス様?」


いくら待っても返答がないアリスを心配してローラが声をかけてくる。


「へっ?あ、ああ」

「どうかされましたか?」

「な、なんでもないわ。クリスはもう大丈夫だと思うわ。仕事で追い込みすぎていただけなのよ」

「そ、そうなんですか」


アリスの挙動不審な様子に首をかしげながらもローラは納得してくれたようだった。

こうして出かけた後なのにしっかりと仕事をこなしてきたのだ。そのことが証明としては十分だった。

そしてアリスはハーブティーをようやく一口飲む。最初に手にとったときは熱そうだったが話している時間のおかげでちょうどいい熱さになっていた。

あまりおいしくはないものの飲むと身体に染み渡って疲労を癒してくれている気がした。


ああ、癒される。これでもう少し美味しかったらいいのに。


アリスはそんなことを想いながら飲んでいるとあることを思い出した。


「そうだった。入浴場に着手しましょう。そうすれば仕事後の疲れを癒したりできうわ」

「でも、どうしても水を運ぶコストや資金調達が」

「大丈夫。それは私にいい考えがあるわ」


そういうとアリスはカップに残っていたハーブティーをすべてのみ笑顔を見せた。

そしてローラが退出した後、アリスはローラが配慮してくれたハーブティーの効用も虚しく眠れずにいた。

あのときローラがいたから話をクリスからそらしたものの、今さらながら自分の言った言葉があまりに恥ずかしくて居た堪れなくなっていたのだ。

顔をベッドに顔を埋めてみても一向に寝付けず息苦しく感じたため、窓辺へいって椅子へとすわり外を眺めてみる。


「クリスは今どうしているのかしら」


そう思ったが、クリスのことだ。仕事の具合から考えても既に寝ているであろうことは容易想像がついた。


「やっぱり主人と従者の関係という解釈をしたのかなあ」


そう言い出したのはアリス自信だった。それでも、それはそれで少し胸が痛んだ。

何なんだろうこの感じ。アリスは不思議に思って胸に手をあててみたがその意味はわからなかった。


ただ、このことだけは誰にも相談できそうになかった。

明日になれば、アリスは普段通りに仕事をしなければならないのだ。

経営でトップが迷えば従業員も迷い商会自体が揺らいでしまう。経営も統率の面で言えば軍隊のあり方とたいしてかわらなかった。

トップは常に迷いを部下に見せてはいけない。部下はトップの意思決定に従順な必要がある。

その両者の関係はお互いがちゃんとお互いの役割をこなすことで信頼で成り立って事業がうまくいくのだ。


「経営者てなんて面倒な仕事なのかしら」


事業立ち上げ当初にしていたやりたいことを突っ走る経営を最近していない気がした。

商会のため、従業員のため。それは仕方ないことなのかもしれない。

ただ、従業員に気を配り、経営者として理想の会長像を演じ続ける。そんなことをするためにアリスは経営者になったつもりはなかった。

今回の入浴事業を考えたのもこのまま何もしなければ現状維持のそれなりの商会、それなりの経営者。そんな感じに終わってしまいそうな気がしたのだ。


「こんな相談いったい誰にできるのだろうか」


そんなことを考えながら思い浮かんだのは父ウィリアムの姿だった。


「お父様」


元気にしているのだろうか。そう想いながら窓辺から外を眺めていたら急激に眠気がやってきていつのまにか意識がなくなっていた。

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