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1-3 憂鬱な就職試験
会長室を出るとアリスはクリスの腕を掴んだ。
先程の試験を見てどうしてもクリスに確認しておく必要があった。
「クリス!ちょっと来なさい」
「はい。なんですかアリスさ・・・アリス様」
「様はやめてちょうだい」
従者になってもらう予定だったが、様付けは何だか媚びられているような気がして嫌だった。
それにアリスにとって今は呼び方より試験の件について確認する方が先だった。
「なんであなたそんなに算術ができるのよ」
「え?どうしてといわれましても」
クリスは不思議そうな顔をしている。
先ほどの説明で納得したと本気でクリスは思っているらしい。
アリスは思わずため息がでてしまった。
「まあいいわ。習ったのですものね。確認ですけど文字を書けるの」
「はい」
やっぱりね。
でもそれだとペンが使えなかった理由がますますわからないんだけど。
そう思いながらアリスは質問を続けた。
「地図は?」
「描けます」
「歴史は?」
「大陸史もある程度は」
・・・え?これもうちょっと習ったってレベルじゃないんだけど。
「料理は?」
「少しだけ」
「裁縫は?」
「人並みに」
「接客は?」
「経験あります」
「農業は?」
「まったくできません」
「力仕事は?」
「苦手です」
「洗濯は?」
「苦手です」
の、農家スキルどこいった!
「・・・はぁ」
「・・・?」
「あなた本当に田舎から来たの?」
「はい!」
「・・・なんだか頭痛がしてきたわ」
「え?」
アリスは頭が痛くなった。
文字、算術、歴史、地理、これらができるということは大学を出ている可能性が高い。
しかも、年齢も嘘ががないようなのでアリスより1年速く習得していたことになる。
異例として13歳で大学を卒業した商会の娘のプライドが傷ついた気がした。
どこの世界に田舎農家の娘が大学で学べるというのよ!
内心そう叫びたかったが、嫉妬などみっともない。アリスはぐっと堪える。
その様子を見てクリスは不思議そうに首を傾げている。
おそらく嘘はついていないしこちらの気持ちも気づいていない。
私ですら大学に行くのは大変だったのに、農家で大学にいける女性など・・・
ん?ちょっと待って。ここまでできるということは。
アリスはもしかしたらと思い、おそるそろる続けて質問する。
「ちなみに武術は?」
「・・・弓を少々」
・・・うそ、でしょ。
アリスは血の気が引くのを感じた。
大学を出て武術をしている娘など、貴族でしかありえない。それもそれなりに爵位のところでしか。
まてよ。彼女はローラン王国から来ていた。
彼女の母が爵位の高い貴族の妾であったとしたら。
そして、やむを得ない事情で農家に隠れすんでいたとしたら。
その妾の母が亡くなったから支給が止まり、こちらに来ていたとしていたら。
すべて筋が通る!
てことは私はどこかの貴族の娘を従者として向かえることになったの。
庶民が貴族の娘を従者にする。なんてことを・・・
アリスは気が遠くなるのを感じた。
フラッ
倒れると思ったが体に力が入らない。
重力に身を任せて体が崩れるのを感じたが、体が地面に倒れることはなかった。
クリスが支えてくれたのだ。
そうだ、こんなところで呆然としている場合じゃない。
アリスは我に返り、起き上がる。
「いいこと。この後すぐに、あなたは使用人の部屋が与えられるわ」
「はい」
「荷物を置いたらすぐに私の部屋に来なさい!」
「アリスさんの部屋ですか」
「そう。すぐにね!」
「え?でもお体が」
「すぐに!」
「はい!」
アリスが体制を立て直すとお互いにそれぞれの自室へ戻った。
そして待っている間、アリスはクリスのことを考えていた。
クリスは農家の娘といっていたわ。でももしかしたら隠したい事情があるのかもしれない。
「うん、それなら納得できるわ。そうよ、私はクリスの主人として毅然としていればいいの。クリスは庶民だと言っているのだから爵位を気にする必要はないわ。彼女が話す気になったときに聞いてあげればいいのよ」
アリスは自分に言い聞かせるように呟き。強く頷いた。




