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2-5 青空の涙
アリスはクリスに否定する理由を説明することにした。
『ダメ』『できない』結論はその一言で済む話ではあったものの、その理由をちゃんと伝えなければ相手は納得しない。
その一手間を怠ったばかりに誤解されたり納得できなくて愚痴をこぼす人をロジャース紹介で働いてきたときに見てきた。
ましてやクリスは貴族とあまり関わりが少なかったためなおさら説明すべきだろうと判断した。
「ラヌルフ辺境伯とプロヴァン辺境伯の仲違いをさせればローズ商会は安泰よ。でもその2辺境伯はローラン王国にとってガイア帝国防衛の要となる土地となっているわ。それに仲違いの犯人がローズ商会だとわかればスパイ容疑は確固たるものになってしまうもの。仮にうまくいったとしてもローラン王国とガイア帝国が戦争になればプロヴァンからの供給を確保できなくなってしまうわ」
そう説明し、クリスの様子を確認してみると俯き悔しそうな表情をしていた。
あれ?
アリスはこれまでクリスがこんな表情をするのを見たことがなかった。少なくともカルロスのときのクリスであれば苦笑いしてきただろう。
そこまで否定されたことがショックだったか、これまでの行動と何か関係があるのか、アリスはその判断しかねていた。
ただ、事実なのはクリスがあのときと違うということだけだった。
「ねえ、クリス」
「はい、何でしょうか」
「久しぶりに一緒にお出かけをしてみない」
「え?」
アリスは精一杯の微笑みを作りながら言葉をかけた。
あのときと違うのであればあのときと同じ状況を演出してみればいいのだ。しかし、ここはカルロスではない。
そんな中、同じような新鮮な演出ができるとすればはじめて一緒に出かけたおでかけくらいだろう。
クリスもお出かけは嫌いじゃなかったはず。そう思い提案をしてみたのだ。
しかし、クリスは驚いた表情をしており反応が芳しくない。
納得がいかないのかと思い言い方を変えてみた。
「私達、少し商会のことばかり考えすぎてたと思うの。これから少しだけお出かけしましょう」
「は、はあ」
あ、あれ?
実はお出かけがそんなに好きではなかったのかしら。
そう思い、ローラを見てみるがローラも困惑した表情をしていた。
クリスも同じくローラを見て反応に困っているようだった。
そしてアリスはようやく気付く。
しまった!ラヌルフ辺境伯の件に対しての会議中だった
そう思ったが既に状況を修正するには手遅れだった。ましてや今のアリスにとっては今現在様子がおかしいクリスの方が優先事項だった。
アリスは半ば強引にクリスを連れ出すと、メアリに指示をしてクリスをおしのびで外出するための服装へと着替えさせるように言った。
同様にアリスもローラに着替えを手伝ってもらう。
ローラもようやくアリスの意図に追いついてきてくれたらしい。苦笑いしながらも手伝ってくれた。
こうして準備を整えると、護衛としてカルヴァンを連れてカルロス方面にある繁華街へと向かっていった。
そして、その近くまで辿り着くとアリスとクリスは馬車を降りた。
「久しぶりね。こうして一緒にでかけるのは」
「そうですね」
「たまにはこういう場所もいいかもしれないわね」
「でも護衛が少なすぎませんか」
「大丈夫よ。それにいざというときはクリスが守ってくれるんでしょ」
「それはそうですが」
クリスの表情はどこかうかない表情だった。
興味を持つ話を考えてみたが何も思い浮かばない。
そして今さらながらアリスはクリスのことについて何も知らなかったことに気付く。
これまで一度もクリスは自分のことを何も話してこなかった。
誰だって話したくないことだってあるだろう。そう思い、アリスも何も聞いてこなかった。
でも、それは仕事に影響がでないという前提があったからだ。
今のクリスの責任や役割から考えてもこのままではローズ商会にまで影響がでかねない状況なのは明白だった。
ましてや今回のクリスが出した提案にはかなり人間関係をこじらせるものがあった。
何か悩み事……というよりも人には言えない隠し事でもあるのかしら?
でなければあの提案をクリスがするとは思えない。
何にせよもう聞くしかない。
アリスはもう考えるのをやめた。




