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2-4 噂
あれからわずか数日後、エリックより一通の手紙が来た。
そして、その内容を読むと驚くべき内容に慌ててローラを呼んだ。
「お呼びでしょうか」
「ローラ、これを呼んでちょうだい」
そう言って手紙をローラに渡す。不思議そうに受け取ったローラだったが読み始めて徐々に手が震えているのがわかった。
そこに書いている内容を要約するとこう書かれていた。
噂を流していた貴族はラヌルフ辺境伯、ローラン王国南西の辺境に広大領地を持っている家で近年貴族の中でも力を伸ばしいる貴族だった。そして、その手法はカルロスの3大商会のひとつ、カルヴァート商会を通じて噂を流しており、カルヴァート商会と取引のある貴族では既に噂が流れているとのことだった。
そして、そのラヌルフ辺境伯は過去にも同じような手法を使ってオーウェン子爵を追いやった犯人の可能性がある。
そしてそれ以下噂に関する対策で、カルヴァート商会と取引のある貴族ご令嬢に流言をする貴族を捜しているという噂を流して下手に疑われたくなかったらそういう話はしない方がいいとエリックが話したとのことだった。
その効果はてきめんだったらしく、国家の第2王子が動いているとなれば安直に噂する貴族はいなくなったらしい。
ローラは父オーウェン子爵に関する話の部分を見て、反応したわけだったが読み終えるとアリスに手紙を返した。
「ありがとうございます」
「ローラはどう思う?」
「そうですね。これだけでは何とも」
「そうね。あとはクリスからの報告を待ってみましょうか」
既にクリスが直接屋敷や販売店、工房へと赴き事態を説明して回ってくれていたおかげで本件に関してはアリスから動くことはなかった。
以前のクリスだったらこういうことはアリスに頼んできたと思うんだけど。
アリスはこのことに違和感を覚えたが事態は良い方向へと向かっていたため深く考えないことにした。
今回についてはウィリーが比較的早い段階で知らせてくれたこともあり、屋敷や工房、販売店ではまだ噂について知らない人が多くいた。そんな状況でいち早くクリスが説明してまわってくれたことにより、疑心暗鬼に陥ることもなく、商会の営業を維持し続けることができた。
噂の対策としてはウィリーが動いたらしい。彼から流された噂も商会やお客さんを通じて急速に広まった。噂は『ローズ商会がスパイをやっているらしい』から『ローズ商会がスパイをやっている噂を流して陥れようとしているものがいるらしい』と噂の方向は返転換されつつあった。
アリスとしてはエリックの件といい、クリスの件といい噂を噂で状況変化させる報告を2回も受け、もしこの2人が協力すれば噂で人を殺してしまうんじゃないだろうかと恐ろしさを感じたが、今回についてはその力で助けられたのだ。
改めて経営での噂や評判の重要性を認識させられることになった。
そして、噂の影響でローズ商会が容疑者から被害者へと変わってきたころ。
ローラと話をしていたときにノックをする音が聞こえた。
そして、入ってきたのはベルだった。
「あら、ベルどうしたの?」
「失礼します。噂の出元がの報告にまいりました」
「それは本当なの」
「はい、いくつかの噂の元をたどってみたのですが、どうやらカルヴァート商会が噂の出元のようです」
「カルヴァート商会」
アリスは思わず眉間にしわを寄せた。
エリックの手紙と一致していたからだった。
「一応、確認だけど、ベルはどうやって調べたの?」
「これは、クリスさんの案だったのですが、誰から噂を聞いたかを聞き、さらにその噂を聞いた相手に誰から聞いたか聞くの。それを続けていけば最終的に噂を流した本人へ到達するという方法をとりました」
「それで本当にたどりつけるの」
「ええ、私も半信半疑だったのですが、いざやってみると報告したような結果でした。念のために対象を変えて同様のことをしてみたのですが結果も同じでしたので」
「そうだったの。ありがとう」
「はい、あと」
そういうとベルは少し躊躇った後に言葉を続けた。
「クリスさんの推測でカルヴァート商会の私怨又はローラン王国の貴族が裏で関与しているんじゃないかとおっしゃっていました。そして後者の可能性が高く、特に石鹸を販売していている商会を傘下に持っている貴族が怪しいと」
その言葉を聞いて、アリスは少し考えた。
ベルが話ている内容が本当であればエリックとの話が合致するからだった。
唯一気になることと言えばエリックがどうやって貴族の詳細まで特定したかだったがエリックが嘘をつくメリットがないことを考えれば信用しない理由がなかった。
「ベル。ありがとう。だいたい状況はわかったわ」
アリスがベルに礼を言うと、ちょうどいいタイミングでクリスがやってきた。
「失礼します。遅くなりました」
「クリス、ちょうどよかったわ。噂の件はどういう状況」
既に何度目かの経過確認を行う。
「噂に関しては予定通り、ローズ商会を陥れようとしているものがいる方向へと向かっています。その話を聞いて敬遠する人もいるかと思いますが、予想よりも噂が初動だったこともあり、とりあえず危機は回避した状況かと思います」
「さすがクリスね」
「いえ、私よりも今回働いたウィリーとベルを褒めてあげてください」
相変わらずクリスは目立つ形でほめられるのは好きではないようだった。
もっとも、今回の場合はベルがいるので上司としては当然の対応だったが。
アリスはクリスの要望に応えることにする。
「わかったわ。ありがとうベル。後で欲しいものがあったら言って頂戴。功績とは別途用意するわ」
「いえ、ありがとうございます。ウィリーにも伝えていいでしょうか」
「ええいいわよ」
ベルは満面の笑み部屋を後にした。
その様子をアリスとクリス、そしてローラが見送った。




