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53 私は気づかない

2-4 噂

食事のことについてはローラも後で気づいたらしい。

その晩、必死に謝ってきたが、もとよりアリスは怒るつもりなどなく笑ってしまう気持ちを抑えながら許した。

なお、食事に関してはローラが戻ってこないことを不思議に思っていたメアリがきっちりとフォローし、アリスが食事を食べ損ねることもなかった。


あれ?そういえばメアリはローズ商会のメイド長だったような?で、ローラが私の専属使用人。


ローラとの出来事を思い出し、今さらながらローラとメアリの主従関係が逆転している気がした。ローラを使用人として扱うと言ってしまった手前、役職を変えるのも今さらだったため、アリス自身の失態を反省した。


「私もまだまだよね」


そう思いため息をつくとドアをノックする音が聞こえた。

そして入ってきたのはローラだった。


「アリス様、視察の準備ができました」

「あら、そういえば今日だったわね。すぐに準備す・・・手伝って頂戴」


着替えはローラが手伝ってもらっている。

そしてローラと一緒に着替えを行うと馬車に乗って出発した。


視察でも回るのは工房と販売所。


どちらもクリスに任せていたものの、オルランドで新しくできた工房は連れてきた職人のおかげで順調に稼動しており、販売所はカルロスの孤児院の子だったウィリーが活躍していると聞いている。

事前にローラに頼んでいたこともあり、その場所へつけば案内してもらえることになっていた。


まず、最初についた工房を見て回る。工房についてはカルロスから連れてきた人に案内してもらった。

大きな円形上の釜みたいなものがいくつか用意され、人がその中身の液体をかき混ぜている。

その様子が特に目立ったものの、よくよく見ると人がそれぞれの工程に分かれて作業していることがアリスにもわかった。


そういえば、クリスが工程を分けて分担させると作業効率が上がるという話を聞いたきがする。


その効果があるのだろうか。皆なれた手つきで作業をしていた。

そして、アリスの姿を見かけると挨拶をしてくる。アリスも貴族の礼ではなく簡易的な挨拶をするが、アリスがイメージしていた工房はもっと職人がこだわって偉そうにしている殺伐としたイメージを持っていただけに拍子抜けした。また、いろんなバラの香りが漂ってきていて匂いも不快感がないことに驚いた。

また、クリスはカルロスで言っていた男女別の入浴施設もあり、そこでは仕事後に自由に使えるようにしてあるようであった。


「工房ってこんなところだったかしら」

「初めてみましたが、居心地も悪くないですね」


ローラは初めて見たらしい。工程を興味深げに見て回る姿は今までのローラとは違いどこか子供らしさというか見守ってあげたくなる微笑ましさがあった。

こうして一通り見終わると別室に案内され、次は石鹸の各種類や状況の説明をしてきた。

残念ながら話の詳細については成分がどうとか細かすぎてわからなかったものの


「頑張っているわね。期待しているわ」


そうアリスが笑顔で言うと、職人は満足げにまた来てくださいと言って見送ってくれた。

その優しい姿にもアリスは思わず首を傾げたが、これもクリスが絡んでいるのかそれとも職人がもともとそういう人なのかの判断がつかなかったため不思議に思うしかなかった。

もっとも、ローラはその様子に特に何も思っていないらしく


「私もちょっと働いてみたいかも」


と呟いていたがそれはアリスが困るので聞いていない振りをした。

次に向かったのは販売所だった。

石鹸は毎日消費するような日用品ではなかったし、ローズ商会が作っていたものは庶民が買えるほど安価なものではなかった。

しかし、販売店に行ってみると意外なことにそれなりに人がいるではないか。しかも、香りもどことなく漂っている気がする。

その様子を不思議に思ってみていたアリスに声をかける姿があった。


「お待ちしておりました」

「え?ああ、ウィリーね」

「はい、今は販売所の責任者をしています。そして今回はご案内も担当させていただきます」


その返答を聞き、アリスは早速ウィリーに尋ねた。


「ねえ、販売している石鹸って貴族のとは別なの?」

「いいえ、品質は同じものになります」

「じゃあ、どうして人がいるのかしら。けっこう高価なはずよね」

「ああ、あれですね。クリスさんの提案で小分けされているんですよ」

「小分け?」

「はい、実際に見てもらった方がわかりやすいですね。どうぞこちらへ」


そういわれると、応接室に案内される。そして渡されたのは貴族向けと異なり小型になった石鹸だった。


「どうです。小さいですよね」

「え?ええ、でもどうして」

「通常の価格だとどうしても高くなってしまうことを以前相談したことがあったのですが、じゃあ小分けにすればいいじゃないかといわれましてね。たしかに、それなら毎日この石鹸を使えなかったとしても特別な日だけ使ったりできますから、そのおかげで急に売れ行きもよくなったのです」

「なるほど、この状況もそういうことだったのね」

「はい、それと、一日一回、石鹸の香りをわかってもらえるように泡立てて、香りを確認してもらっているんです。これは売れ行きとはあまり関係がありませんが、そこに人が集まって噂をしてくれるだけでも十分に効果はありますからね。それに販売しているのもバラといってもいろんな種類がありますから」


なるほど、販売所で漂っていた香りはそういうことかとアリスは納得した。

一方ローラは種類という言葉に反応し、目を輝かせていた。

こうして説明を受け、すべて見て回ったアリスとローラは帰路へついた。


「ねえ、ローラ。何か見つかった」

「そうですね。私はさっそく試してみたいですね」


そう言うとローラは手元に持っているいくつかの石鹸を見た。

先ほどウィリーがローラの様子を察しローラに種類を選ばせてあげておみやげとしたのだ。

アリスはその様子に苦笑いしたが、今日のローラに関してはいつもと違ってキラキラしていたため、容認した。

女性としていい香りがするのが好きという気持ちはアリスにも理解できたし、石鹸事業もローラとの話がきっかけなのだ。

これくらいのことをしても採算は十分に取れいていた。


「でも、これ?一度に全部試すの?」

「いえ、みんなに配ろうかと思っています」

「え」?配っちゃうの?

「はい、でも工房みたいにみんなで入れる入浴場があれば一緒に試したりするんですけどね」

「え?」


そのときアリスは思い出した。

そういえば、クリスが男女別入浴所を作りたいと言っていたことを。


いろんな石鹸を試せる入浴場。悪くないかも。


そう思い、アリスはローラに微笑んだ。


「ありがとうローラ」

「え?」


ローラは気づいていないらしい。不思議そうに首を傾げたがアリスの様子を見て何か気がついたのかローラも微笑んだ。

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