50
2-3 嵐の前の静けさ
そしてローラの営業参加当日。
その頃には教わっていたクリスもだいぶ上達し、ローラと一緒に2、3曲なら踊れる程度にまでなっていた。
そして、当然ながら教えているローラも十分に踊れるようになっている。
その様子を確認したアリスはローラとメアリを会長室に呼んだ。
「ローラ、今日は営業について付いて来てもらうわ」
「営業、ですか?」
突然のことにローラはキョトンとしている。
一方のメアリは内容を察し顔を引き締めていた。
「ええ、だからこれから相応しい格好に着替えをしてもらうわ。メアリ、後はよろしくね」
「かしこまりました」
そしてアリスはメアリから予め着替えを教わっていたベルにお願いし、別で着替えを済ませる。
しばらくしてローラが困惑しながらもやってきた。
「アリス様、これって」
「ええ、営業よ。社交パーティーのね。ローラ似合っているわよ」
そう言うとアリスは微笑んだ。メアリは嬉しいのか心なしか涙ぐんでいる。
事実、流行のドレスに身を包み、ドレスグローブもしっかり装着したローラはとても優美で華やかでありとても使用人には見えなかった。
「そ、そんな私には・・・あ、もしかして」
「これも仕事よ。さ、もう時間もあまりないわ。さっさと行きましょう」
アリスからすればローラに普通に誘えば断られることなんてお見通しだった。
自身の身元もずっと隠し、父親のことも信じてきたのだ。芯の強さを考えれば説得で骨を折るよりもこうして逃げる場所をなくした方が手っ取り早かった。
こうして、仕事と言われローラは渋々ながらもアリスと馬車に乗り社交場へと向かっていく。
着いた場所はブルーニュ公爵邸だった。
実際、この公爵のご令嬢がローズ商会の石鹸を気に入り招待状を受けていた。
そのためアリスも用事があったし公爵邸のパーティーで営業を行うことは事実だった。
もっとも今回の計画で言えばおまけに過ぎなかったが。
「さあ着いたわよ」
アリスが前方を見るとさすが公爵のパーティー、明らかに身分が高い人が集まっていた。
「こ、こんな場所に私が加わるなんて・・・」
ローラは気が引けているのか困惑している様子だった。
そんなローラの様子にアリスは思わず苦笑いしていると、ようやく一人の男性がやってきた。
「お待ちしておりました。アリスさん、ローラさん」
そういうと二人に礼をしてきた。
「エリック、ありがとう。この子がローラよ。あとはよろしくね」
「アリスさんのお願いとあらば。」
そういうとエリックはアリスにニコリと微笑んだ。そして今度はローラの顔を見て再び微笑むと手を差し出す。
「さあ、参りましょうローラ様」
「え?でも」
ローラは困惑してアリスを見る。その様子を見たアリスがこういった
「ローラ、今日はあなたが主役なのよ。さあ行ってらっしゃい」
「え?それって」
「ほら、ボーっとしない。さっさと目立ってローズ商会の宣伝をしてきなさい」
アリスはそう言うとローラの手をエリックに繋がせて。自身は見送った。
ローラはまだ困惑しているようだったが、あとはエリックが何とかしてくれるだろう。
「さて、私は私の仕事をこなしますか」
そう呟くとアリスは公爵のもとへと向かっていった。
「この度はお招きいただきありがとうございます」
「これでよかったのかな」
「はい、私にとっては大切な人だったのでとても感謝しています」
「それにしても従者を社交デビューさせたいと聞いたときは驚きましたよ」
「すいません、無理を言って」
「いやいや、主人として大事な部下を思う気持ちは私だってわかるつもりだ。このくらいお安い御用だよ」
「ありがとうございます。それではお約束どうり」
「ああ、よろしく頼む。ただ、パーディーは始まったばかりだ。話は後にして貴女も楽しまれるといい」
「ありがとうございす。ではお言葉に甘えて」
こうしてお互いにニコリと笑顔を作ると挨拶を終えた。
アリスが社交場へ戻るとエリックとローラがダンスを楽しんでいるようだった。
練習の成果もあってかダンスは周囲に見劣りすることもなかったしエリックがいた分目立ってもいた。
その様子を微笑みながら見るアリス。
ローラが華やかにこうして表舞台にいられるのは今日だけなのだ。この状況も続いてしまえばご令嬢達に敵視されてしまう。
そう思って周囲を見回すとエリックが踊っている女性がだれなのかわからず。まさかエリックの許婚なのではとざわついている様子がわかった。
「すこし目立ちすぎかしら」
アリスはそう思ったが、ローラが楽しんでいる様子を見ているとまあ今日くらいいいかなと思うことにした。
その様子からは傍から見れば謎のご令嬢に見えたことだろう。まあ、後処理はエリックに依頼済みだったので後日なんとかしてくれる思うが
こうして終始エリックにエスコートを受けていたローラに対して話しかけくる勇者がいても迂闊なことを聞く者はおらず、無事に終えることができた。
「どう?今日は楽しかった?」
「はい、ありがとうございます。でも」
「でも?」
先ほどの表情とは打って変わってローラは少し表情を曇らせた。
「すいません。営業できませんでした」
そう言うとローラは頭を下げた。
すっかり忘れていた。アリスはその返答を予想していなかったため思わず目を点にしてしまう。
しかし、ローラが言っている意味がわかると思わず笑ったあとにこう言った。
「十分営業できていたわよ。それで十分よ」
アリスは笑顔でローラのドレスに目を向けた。そう言われてローラもドレスを見る。
バラをイメージして作られたドレス。そして今も微かに残るバラの香り。
そうローズ商会のイメージはバラ。そして販売しているのはバラの香りがする石鹸。
エリックが惹かれている人どんなものを使っているか必ず見ている。
それがローズ商会の物だとご令嬢達が気づかないはずがない。つまり目立つだけで十分宣伝になっていたのだ。
そのことにローラは今になって気がつく。
「さすがですアリス様」
そう言うとローラは笑顔になった。その様子をアリスは満足げにこう言った。
「当然よ」




