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2-2 予期せぬ出会い
コンコン
扉を叩く音がなった。おそらくクリスがやってきたのだろう。
そのことに気付きアリスと父ウィリアムは我に返った。
「クリスです」
「・・・おう、クリスティーヌか。入ってきなさい」
父ウィリアムの返事に少し間があった。
しかし、返事をしたときの表情はもうもとの会長の表情に戻っていた。
そして返事を聞いたクリスが会長室へ入ってきた。
「何か御用でしょうか」
「ふむ。いきなり本題に入るが落ち着いて聞いてほしい」
「わかりました。何でしょうか」
「うむ。申し訳ないが、クリスティーヌにはカルロスを出ていってもらわなければならなくなった」
クリスは驚いた様子がなかった。
クリスにはそれとなく状況を話してはいたが、普通は多少なりとも動揺するのではないだろうか。
アリスはそう思ったがグリスなら不思議とそれも普通な気がした。。
「わかりました。いつまでに出発すればよろしいでしょうか」
「物わかりがよくて助かる。期間は今月中までだ。屋敷内にいたダリル派でカルヴァート商会に情報を流していたものは既に一掃できているが、カルロス内のローズ商会工房が再稼動していることもあり、彼らも再び何らかの動きを見せるだろう」
「わかりました。ではなるべく早く出発するようにします」
「うむ。そしてクリスティーヌよ。もうひとつ頼みがある」
「なんでしょうか」
「アリスも一緒に連れていってくれ」
「それは・・・よろしいのですか」
なぜかクリスが驚いたようにクリスがアリスを見てきた。
まさかクリスは父ウィリアムの気持ちでも理解していたのだろうか。
それもクリスならありえるのかもしれない
現に父ウィリアムも苦笑いしていた。
「アリスと私からの頼みだ。このまま残れば逆恨みした者にアリスも命を狙われるかもしれない。その状況を考えれば今ローラン王国で活動したほうが安全だろう。それにローラン王国への本拠地移転の話しは既に了承しているのだろう。クリスティーヌと一緒に居るのだ。先日の件もあるし、その方がアリスも安全だろう」
「わかりました。命に代えましても守って見せます」
アリスにとってはまたこんな思いをするのはごめんだったがその気持ちは嬉しかった。
「その言葉に偽りがないのは知っておるが、おぬしが死ぬとアリスが悲しむので死なない状況を作ることに努めて欲しい」
「わかりました」
・・・どうやらお父様にはすべてお見通しみたい。
アリスが言おうと思ったセリフを父ウィリアムに言われ、複雑な心境だったが嬉しくもあった。
こうしてアリスとクリスはローラン王国へ出発することが決まった。
ロジャース商会にあったローズ商会本部は返還し、工房については今後のやり取りを継続するために存続することにした。
そしてロース商会は工房からの収益は孤児院へ寄付を継続し、クリスが教えたことによって文学や算術、その他技能を孤児院の子供たちが教えあって習得できれば雇用もすることを約束した。
あえて教えあうことをお願いしたのはクリスがいないことも理由ではあったが、人を教えるというのは自身がちゃんと理解している必要があった。そして教えあう能力は将来、仕事で教わるとき、教えるときに役立つことをアリスは知っていたからあえて条件につけた。
十年後の世界なんて誰にもわからないのだ。だからこそ備えられる事はやっておく。それがアリスなりの経営に対する考え方だった。
そして、事業関することが一通り整理できたころ、アリスはローラを呼んだ。
「お呼びでしょうか」
「ローラ、よく来てくれたわ。実はお願いしたいことがあるの」
アリスはそういうとローラの目をじっと見た。
ローラは決して察しは悪く無い。もしかしたらローラもクリスと同じ反応をするのだろうか。
そう思うとアリスは少し気が楽になった気がして落ち着いて話すことにした。
「ローラにもローラン王国の王都オルランドへ付いて来て欲しいの」
「私がですか」
声は普段どうりだったもののローラの表情から驚いている様子が見られた。
そうなって、アリスはやはりクリスが特別だったことを自覚する。
「まあ、これが普通の反応よね」
「何がですか」
アリスが思わず呟いてしまったことにローラは困惑しているようだった。
その様子も含め、アリスは安心する。そう、それが期待していたリアクションなんだと。
「何でもないわ。やはり付いて来るのはいや?」
「いえ、そんなことは」
「オルランドで平穏に過ごせるか心配なのね」
「はい。申し訳ございません」
「その判断はローラに任せるわ。おそらく私は当面カルロスには帰れそうに無いの」
「やはりあの件が理由ですか」
ローラは遠慮しがちに聞いてきた。
それに対してアリスは表情を崩し、笑顔で答える。
「ええ、結果的にね。でもあの件がなくてもいずれオルランドへ本拠地を移す予定だったの。でも、そのときでもローラを誘うつもりだったのよ。ローラはカルロスでずっと身の回りの世話をしてくれてたしね。一応お父様には残った場合も一緒についてきてくれた場合でも大丈夫なようにお願いはしておくわ。出発までにあまり日はないけどそれまでに答えを頂戴」
「わかりました」
アリスは頑張って笑顔を作りながらローラが退出するのを見送った。
あとはローラしだいだった。アリスとしては一緒に来てくれれば嬉しかったし心強かった。
それでも以前のローラがオルランドで不安がっていた。
あのときの様子を思えば無理強いすることなどアリスには出来なかった。
「あっぱり会長としてまだまだよね」
どうやったら父ウィリアムのように気丈に振舞ったり、クリスのようにうまく立ち回れるのだろうか。
そもそも不安がっていたローラを誘うの自体間違っているのかもしれない。
思わずため息がでたが、悩んでいるわけにもいかない。
アリスは出発にむけての準備を再開した。




