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41 私は部下を甘やかさない

2-1 はじまりはいつだって理不尽(2回目)

しまった。


アリスが我に返ったときには手遅れだった。


「い、痛ーーーー!」


傷口が傷んだのだろう。悲鳴をあげるクリスに驚きアリスは慌てて離れた。

そしてアリスは改めて今度は手を握ってクリスに近づき顔を見た。

クリスが目を覚ました。アリスはそれが夢じゃないことを触れ合うことでちゃんと確かめたかったのだ。


アリスは嬉しさのあまり感極まって眼から涙が溢れてきていたが、クリスが笑顔なことはわかった

そしてクリスの悲鳴を聞いたらしいローラが慌てて部屋に入ってきた。


突然部屋に人が入ってきたことに驚いてアリスとクリスはローラを見た。

ローラは呆然と立ち尽くしていたが、二人の様子を見ると我に返り、慌てて部屋を出て行った。

おそらく医者を呼びにむかったことをアリスは理解した。


アリスはローラが医者を連れてくるまでの間、クリスに話をすることにした。

話したいことはたくさんあったが、それよりもクリスが再び眼を閉じて眠ってしまうことが恐かったのだ。

アリスはひたすら話を続けた。

クリスがナイフに刺された後から現在に至るまでのことを。

そして、その話の中にはローラから聞いていたことも話しに加えた。

クリスと教会か逃げた後、カルヴァート商会がクリスの身柄を差し出すようにロジャース商会に求めていたことを。

さらに、ロジャース商会の屋敷に二人が戻っていないことを理由に拒否し、屋敷も調べさせたが当然二人の姿はなく、カルヴァート商会もクリスが犯罪を犯したわけではないので公に探して捕まえることもできずにいることも。

これは単純にクリスを匿っているが予断を許さない状況だと理解してもらうためだった。


アリスは目を見て話をしていたが、クリスは真剣に話を聞いてくれている。

その様子にクリスと出会ったときのことを思い出し、アリスは心なしか嬉しくなってきていた。


そういえば、あのときは馬車で何も知らないクリスにカルロスのことを一つ一つ教えてあげていたっけ。


そんなことを考えながらクリスに話をしていると。

ローラが再び入室し、今度は医者を連れてきた。

そして医者の診察をクリスが受けるのをアリスは見守り一緒に話を聞いた。

外傷は残るかもしれないが大丈夫だということ。

そしてしばらくは無理な運動は避けてゆっくりと休むようにと言われた。


アリスは一安心したことで、もう少しクリスと一緒に居たかったが、ローズ商会の再開が決まったためどうしても仕事へと向かう必要があった。


「それじゃあ、私は仕事があるから」


アリスはそう告げるとクリスの居る部屋から退出し、ロース商会の会長室へと向かった。

そして会長室には復帰した従業員が運んだと思われる書類が山のように置いてあった。

その様子を見てアリスは思わず呟いた


「これ、全部片付くかしら」


久しく仕事がなかったアリスにとっては嬉しい話なのだが、クリスがせっかく目を覚ましたのだ。

出来れば一緒に居たかったが書類の山を見て諦めるざるおえなかった。


「まあ、目を覚ましたんだし、これからはいつでもお話できるものね」


そう自分に言い聞かせ、まずはスケジュールを組んで仕事に優先順位をつけた。

午前は書類整理と意思決定、午後は工房へと足を運び必要に応じて指示をした。そして会長室へと戻ると休憩室に用意した簡易ベッドで休む。クリスとは会うのは朝一に会うことにし、そこでやる気を補充して仕事へ望むことにした。


それから数日、アリスは予定外にクリスのもとへ何度も向かった。当初はクリスと合うのは朝だけにしようと考えていたが、気持ちがはやり仕事に身が入らなかった。そのため仕事が予定より早く終わったら休憩時間にしてクリスのもとへ向かおう。そう決めるとなぜか仕事が以前よりも格段にスピードが上がったのだ。

人というのは案外、目の前に欲しいものがぶら下がっていると思っていた以上に仕事の効率を上げられるものらしい。

アリスは身をもって実感し、内心苦笑いしてしまった。


こうしてそんな日々が続くこと数日。


クリスがようやく立ち上がって歩けるまでに回復した。

普通は傷口が化膿したり高熱が出てうなされたりするものだと思うのだがクリスはなぜかそういったことがなかった。

そして、もうひとつ。わき腹に刺されてたった数日で歩けるようになるのだろうか。

アリスは少し不思議に思ったが別に悪い状況になったわけではないのだ。

それにクリスも仕事の復帰を宣言してくれた。

やっとローズ商会が復活したのだ。

アリスは深く考えることはやめて素直に喜ぶことにした。

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