35 黒髪少女は用意周到すぎる
1-9 憂鬱
今まで思い描いていたストーリーが崩壊していこうとしている。
なのに、その状況が目の前に起こっていながら動けない。
アリスはローズ商会の会長室で生気が抜けたような状態だった。
ローラも心配そうにアリスを見守っていたようだが、どすることもできないのであろう。目をあわせることを避けている。
こうしてさらに日は経ち、婚約のための顔合わせの前日。
コンコン
今日は珍しく、会長室のノックがなった。
「どうぞ」
「失礼します」
現れたのはローラであった。
アリスは生気のない目でローラを見て微かに微笑んだ。
「あら、どうしたの」
「はい、実は・・・」
ローラななにやら迷っているようだった。普段のアリスであればじれったい行動を怒るところであったが今はその元気すらない。
アリスはただボーっとローラの様子を眺めていた。
「クリス様から出発前に預かっているものがありまして、クリス様が戻ってこないときに渡すようにと」
その言葉を聞いてアリスはピクリと反応した。
そしてローラはおそるおそる手紙をアリスに渡してきた。そして渡し終えると早々に退出していった。
「クリスが・・・」
アリスは渡された手紙を見て考え、思わずゴクリとのどが鳴った。
ここに書かれていること。それでアリスの今後の運命が決まる。
クリスからの謝罪の手紙であれば大商会をつくる夢が終わる。
でも、もし違う内容であれば・・・
アリスは気持ちを落ち着けるために深呼吸をした。手紙持つ手が震えているのが自分でもわかる。
内容への恐怖と知りたいという気持ちが鬩ぎ合った。
そして覚悟を決めて慎重に手紙を開封して読み始めた。
そこに書かれていた内容
『この手紙をもらったということは多忙で猫の手も借りたい状況だということだと思います。
そのときはマリアさんのいる孤児院に行ってみてください。文字を書くことや簡単な計算程度ならできる程度に教えておきましたので。マリアさんに話しは既につけてあります。 byクリスティーヌ』
まったく持って的外れな内容であった。
やっぱりクリスは常識がどこか抜けているわ。ローラはロジャース商会の使用人で、ローズ商会の人じゃないのよ。
そう思いアリスはため息をつく。そのため息をついた後、先ほどとは対照的に顔は満面の笑みを浮かべた。
今のアリスにとっては最高の内容であったのだ。
クリスは裏切ったりなんてしていない。
アリスがそう信じるには十分であった。
手紙はもしかしたら事故か何かで届かなかったのかもしれない。
そう考えるとクリスの行動の辻褄が合う。
そしてクリスはおそらく今の事情を知らない。現在カルロスにあるローズ商会が休業中なことも。
でも、この手紙を用意しておくほどのクリスならいずれ異変に気づくはず。
それまでに手を時間を稼ぎ、手を打たなければ。
やる気とは不思議なものできっかけがあれば状況は一転するらしい。
アリスはこれまでクリスを疑っていたことを恥じた。しかし今はこれまでのように自己嫌悪している場合ではない。
アリスの思考が目まぐるしく動き出し、ひとつの結論をだした。
「失念していたわ。まだ私は状況把握もしていなかった。誰が私の味方だったのかも。そしてどうしてローズ商会が活動してるのかも。まずは調べることが先決ね」
アリスは早速行動を開始した。
まずはローラを呼び、屋敷内でダリルとつながりがある人を調べるように指示した。
そして父親でり、ロジャース商会の会長であるウィリアムの真意を確かめに行く。
婚約のための顔合わせは明日なのだ。アリスはゆっくりしている時間などなかった。
コンコン
「アリスです。大切な話をしたく参りました」
「入ってきなさい」
中に入るとたまたまなのか父親のウィリアムだけだった。
そしてその表情には疲労感が感じ取れ、声にも普段の力が感じられなかった。
「アリス、大切は話とは結婚についてか」
「ええ、でも今回は少し違います」
「わかった。話を聞こう」
「お父様は今回の結婚については賛成なのですか」
「ああ、両家繁栄のためだ」
「そんな建前を聞いておりません。私は本音を聞きたいのです」
「そんなことを聞いてどうする」
「少なくとも私の状況を知ることができます」
「わかった。正直に答えよう。ロジャース家の存続、繁栄のためであれば賛成だ。これで十分かな」
「ええ、ありがとうございました」
アリスはそう言うと退出した。
別に人柄でダリルと婚約させたいという訳ではない。
ロジャース家の存続、繁栄に繋がらないなら反対する。
アリスはこのことがわかっただけでも十分であった。
婚約破棄への糸口が見つかった瞬間だった。




